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「よしじちゃん」

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年2月6日

東京都町村会長 檜原村長 坂本 義次

都庁から西へ50㎞、人口2,630人・面積105平方km・標高1,500mを超える三頭山を含む約200haの山岳公園「檜原都民の森」があり、村の真ん中を東西に尾根が走り、南谷・北谷にはそれぞれ西から東に流れる清流が役場付近で合流している。ここが緑豊かな東京都檜原村です。

平成15年の統一地方選挙で16年ぶりの村長選挙に出馬して当選し、今年4月の選挙では二期目に続き無投票で三選をさせていただきました。過疎化と少子高齢化が進む村をどのように自立させていくのか、多くの課題を抱えています。平成17年3月の合併特例期限前の平成16年、合併か自立かを問う住民アンケートを中学生以上に実施しました。中学生以上とした理由は、将来の村を背負っていく子供たちの意見を反映させる事にありました。

村民の多くが合併を選択したならば、任期中に合併しようと思っていました。しかし結果は、私の予想に反し多くの村民、特に中学生から村を残して欲しいという意見が大変多く寄せられ、意見を尊重して平成の合併をせずに明治22年以来一度も合併をしない村として、東京都の中で陸続きで唯一の村のまま現在に至ります。

平成16年3月、初めて保育園の卒園式に出席すると、他の人の挨拶は子供にとって少し難しい話に聞こえました。そこで私は「皆さんこんにちは。村長の坂本よしじちゃんです。」といいました。すると子供達は「よしじちゃんといってるよ」とささやきあっていました。この日『よしじちゃん』が誕生したのです。

翌4月の入園式で「おじさんの名前を知っている人、手を挙げてください。」と言うと、子供たちはおそるおそる手を上げてくれました。はあいと指名すると「坂本よしじ!」と元気よく答えてくれました。一度の挨拶で覚えてくれていた事は本当に嬉しい限りです。その子達が4月から中学1年生になります。あれ以来何処で会っても全ての子供達から『よしじちゃん』と呼ばれています。

今の小学4年生が入学式から何日か経ったある日、「よしじちゃんどうして入学式に来なかったの?」と言われ、「行ったよ」と答えたら「来なかったよ、来ないもん!」と言われ本当に困ってしまいました。多くの子供は村長『坂本義次』と『よしじちゃん』は違うと思ったようです。原因は保育園では手の届く距離に立ち、スヌーピー・ドラえもん・キティちゃんなどのネクタイで顔を見ながら話をしているのに対し、小学校入学式では黒い服に白いネクタイ。そして距離の離れた檀上でマイクの前で原稿を持ち、真面目な顔をして話をしているその姿にあったのでしょう。子供達から見ると全くの別人に見えてしまうのかもしれないですね。

ある時、園児達が役場に歌をうたいに来て、帰る時じっと私のはげ頭を見つめている子供がいました。「ねえ、よしじちゃん、頭さわっていい?」と言うので「いいよ」と言って子供の手の届くまで頭を下げると多くの子供が頭をなでて帰って行きました。保育園に通う子供の父親は若いので、はげ頭は珍しかったのでしょうが、その光景を見ている職員は大笑いでした。

最近はボケ防止に始めたオカリナ演奏を、入園式・卒園式・クリスマス・敬老福祉大会などで披露しています。最初の頃は、子供達から駄目出しをされましたが、最近は演奏に合わせて一緒に歌ってくれるようになりました。ほかにも弦楽四重奏・木管五重奏・金管五重奏等と思わぬ共演をさせていただくこともあります。村政の原点は、「全ての村民と共にある。」その事を大切にし、子供からお年寄りまで同じ目線で働くように心がけています。勿論私自身が村民であり特別な人でもないからです。

村長任期中は初心を忘れず、『よしじちゃん』で頑張ってまいります。