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 水源の里からダム建設を思う

印刷用ページを表示する 掲載日:2010年1月18日

水源の里からダム建設を思う

高知県土佐町長 西村 卓士


“四国三郎”吉野川は総延長194㎞を有し、その清流は渓谷で景勝名高い大歩危(おおぼけ)・小歩危(こぼけ)を流れ、徳島河口へと注がれてきました。

昭和48年、この源流域に近い我町に四国総合開発の要として建設された早明浦(さめうら)ダムは多目的ダムとしての総貯水量(31,600万t)では全国一の規模を誇り、四国四県の利水地域は大きな恩恵を蒙っています。

このダム建設では、上流の大川村を合わせて324世帯(人口1,200人)が水没する程の大きな犠牲を払いながらも、ダムを観光資源の目玉とした町づくりに夢を馳せ、建設を受け入れしたものでした。然し、完成直後の昭和50年、51年連年 の台風による豪雨は、ダム計画放水量を大幅に上回る異常放水となり、洪水調節機能は果たされず河川は氾濫、ダム直下の集落や農地は甚大な被害を受けるなど未曾有の大災害となったものでした。

一方、ダムに貯まった濁水は約6ヶ月間に及び清流吉野川を死の川と化したことは未だ記憶に新しいところであります。ダム建設後36年を経過した現在でもダムに起因する濁水(異臭)や洪水による河川の氾濫は一向に改善されず、建設前に約束された安心・安全な生活環境は全く覆された状況にあります。一級河川である以上、大きな犠牲を払った上流域も、下流の利水地域と同じく国の一体的な管理責任の下、安全は等しく享受されるべきだと考えています。

国による都市中心型の経済成長政策により地方から若者の流出が始まって以来半世紀が経ち、一方では国土の2/3を占めるに至った人工林による森林資源は若者の流出により手入れが届かず荒廃化の一途をたどり、一度豪雨となれば山腹は崩壊し、そのままダムや河川に流れ込み濁水の大きな原因ともなっています。

最早、山村に生まれ育ち、ふるさとの歴史や伝統・文化、またこうした地域の実態を知る政治家、官僚も数少なくなったことでしょう。日本列島1億余の人間が生存していくためには、まさに命の水源地域である森林資源や農地等の国土を保全し、健全な自然環境を蘇らせ、活用していく以外に日本の生き残る道はないと考えています。

ダム建設は国政上の一時的な経済問題だけで片付けられるものではありません。

特に大きな犠牲を払う地元源流域住民にとってはダム完成後に至って、安心・安全面での生活が脅かされることのなきよう慎重に見極めることが大切かと考えます。

奇しくも水特法制定一年前に完成した既設のダムの町から敢えて苦言を呈しましたが、前政権の下、提案されている「新吉野川プロジェクト」による早明浦ダムに関する改善策が新政権により凍結されることのなきよう、注視していきたいと思います。

何はともあれ“今さら動かぬダムの町”水源地域である以上、少しでもきれいな水を流すことと、町民の健康管理の面から町内下水道100%完備を目指して取り組んでおります。

また、西日本で初めて良質の堆肥製造に成功した堆肥センターをキッカケとして、環境保全型農業がすっかり定着し、ISO部会が日本農業大賞を受賞するなど良質米の産地に合わせて施設園芸が盛んとなってきました。

また、昨年4月には四国初の米粉製粉工場も完成し、併せて米粉パンや麺類等、幅広い加工面の製造も始まりました。そして、環境保全型林業の取組みとしては森林認証(SGEC)を取得しており、同時にパートナー企業との"協働の森づくり事業"協定による、官民一体となった健全な森林整備(CO2削減)を進めており、地球に優しい森林、林業経営を目指しています。

今日の高齢化社会の中で、一番大切な"健康な人づくり"の面では、京都大学医学部、東京女子医大、高知大学医学部との連携によるフィールド医学が6年目を迎え、高齢者自らの健康管理意識が芽生え、老人医療費も着実に減少するなど、健康で元気な長寿社会に向けて確実に前進しています。

一方、少子化への対応については、子供達の健やかな成長のためにも、健全な教育環境の整備は行政の果たす責務であり、4年前には町内3保育所を1園化、また平成21年4月からは町内5小学校を1校に統合のうえ、中学校(1校)に併設し、保・小中の一貫教育をスタートさせることといたしました。

まだまだ課題の残る町ですが、“早明浦ダム”を活用した地域振興についても、すでに実施している湖畔マラソン大会に加えて、全国規模のバス釣り(JB・NBC)の大会誘致等を、湖面利用者協議会、水資源機構及び関係団体等連携の下に進めてまいりたいと考えているところであります。