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 四国-南南西に進路をとれ!

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年11月3日

高知県大月町長  柴岡 邦男


高知県の西南端、大月町。宝石サンゴ採取発祥の地と言われ、松谷みよ子氏の童謡『お月さん桃色』に詠まれる月灘村と、豊後水道に面した漁業の盛んな大内町が昭和32年に合併、三角形状の103平方キロの面積に暮らしを紡ぐまちびと6,500人。
南にリアス式海岸が連なる花崗岩の雄大さと箱庭的景観の海岸美を併せ持ち、西は豊かな魚場を抱える豊後水道に囲まれ、一次産業の農漁業を中心とする生計を営んでいる。
足摺宇和海国立公園の中に位置し、黒潮分岐流が入り込む温暖な気候の丘陵地には県下一の葉たばこ栽培地が拡がる。その畑地に数年前、一人の農家青年のつぶやき「みんなの笑顔が見たいねや~」をきっかけに一人、また一人と仲間が集まり、今では甲子園球場6個分の敷地に2,000万本の花がゆれる四国有数規模のコスモス祭りへと変貌した。近年は県内外を問わず、各地から人が訪れるまでに成長している。コスモスを見下ろす尾根には、地形を利用したクリーンエネルギー、風力発電の風車12基の羽根がやさしく回り、環境・観光立町の歩みをつないでいる。
三面のうち二面を海に囲まれた町には、陸域と並ぶ海中景観が広がっている。
温帯から亜熱帯性気候に恵まれた海には、日本産魚種の三分の一に及ぶ千数種が確認されている。魚種はもとよりサンゴ群集景観が拡がる特異な多様性により4箇所が海中公園区域に指定され、本土有数規模のサンゴが織りなす亜熱帯と見まがう景観は多くのダイバーを引きつける。特に『釣りバカ日誌14』の舞台となった柏島周辺は沖縄、マブールとともに世界に比肩するマクロのダイビングスポットとしてカメラ派ダイバーのメッカとなっている。
そんな町を平成13年9月6日、町史始まって以来と言われる豪雨が襲った。集落の中心を流れる河川が氾濫し、人家を飲み込み、田畑は水没し莫大な農業被害が出た。また、急激に海に流れ込んだ雨水は、養殖業やサンゴ等の観光資源にも大きな傷跡を残してしまった。今思えば、地球温暖化が原因とされるあの500ミリの雨は、近年国内各地を襲っているピンポイント豪雨の走りだった。
未曾有の激甚災害に見舞われながらも、一人の犠牲者も出さなかった背景には、お年寄りの普段の生活までよく知る地域住民の繋がりがあった。地域の助け合いとともに、各地から駆け寄ってくれたボランティアの汗も、復旧への大きな力となった。
行政の力量や魅力は、財政力や社会資本の整備充実に目を向けられがちだが、ややもすると住民のニーズからかけ離れ、負の資産をつくることもある。常に住民の視点、住民の思いに立った血の通う行政運営に努めることが重要であると、住民と行動をともにした大災害の中で痛感した
本町も財政基盤は脆弱であり、また地域産業も低迷しているが、現実を注視した行政施策は必要不可欠となっている。
その重要施策の一つ「保健、医療、福祉の充実」においても、直営の大月病院を地域医療の拠点としつつ、町内で2、3級ヘルパー600人を養成、介護サービスを迅速に、地区内で完結できる体制を整備するなど、安心して暮らせるまちづくりを目指し取組んでいる。
また近年は、恵まれた地形を利用した天然の良港で、海のダイヤといわれるクロマグロの海面養殖も軌道に乗り、質のいい大月町産のマグロが、主に県外の量販店に出荷されている。世界的な漁獲規制や、燃油の高騰による深刻なダメージが叫ばれるなか、本年度新たに1社の参入もあり、水産業回復の動きは一次産業に携わる人々の望みでもある。
格差拡大する過疎、遠隔の町にあっては、数年来の財政難により行政運営がますます厳しい状況になりつつある。これからも、地域住民との協働で進めていくまちづくり、その視点を忘れず、先述した風車がまちのゆるやかな発展と、優しい人の輪を象徴して回り続けているように、おだやかな風、水、光を浴びて、ゆっくりと前進していく町を目指したい。