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名水の恵み

印刷用ページを表示する 掲載日:2008年9月1日

島根県海士町長  山内 道雄


その昔、古代ギリシャの哲人ターレスが、「水は生命の根源である」と洞察したように、地球上には、酸素を必要としない生物はいても、水なしで生きてゆける生物はいないそうです。そして水は三態変化(氷・水・水蒸気)しますが、地表温度が水を液状で保てる範囲にある天体は地球だけだといわれており、この奇跡が地球上に生命を誕生させたといえるかもしれません。この尊い水は決して無尽ではなく、自然の摂理により、水蒸気から雲、そして雨や雲への循環と再生を繰り返しながら私たちの生活を支えています。
しかし、高度成長時代の負の遺産ともいうべき公害の原因となった「有機物質」は著しく減少したものの、有機汚濁などのいわゆる「水の汚れ」の問題が依然として残されていた昭和60年に環境省が選定した「名水百選」は、豊かな生態系を守り、人と自然が触れあうことのできる水環境を保全していくことが強く求められる中で、全国にある清澄な水を再発見するとともに、それを全国の皆さんに紹介することを目的に選定されました。
そしてこの「昭和の名水百選」に、私ども海士町の「天川の水」も認定していただいております。
奈良天平のころ僧行基が隠岐行脚で当地を訪れたとき、うっそうとした木陰の洞窟から流れ出る湧き水に冷気を感じ、ここに一宇の堂を建てて聖観世音菩薩をまつり、清水寺と号し、この水を天川(天恵の水)と名付けたと言い伝えられています。
平成18年には「疎水百選」にも選ばれたこの「天川の水」は、水量は約400トン/日で、主に農業用水として利用されていますが、悠久のときを超え、森閑とした佇まいをいまに残しています。
さて我が町は、離島という地理的特殊性から平成の町村合併のメリットが見出せず、覚悟の単独町制を選択しました。しかし、平成16年の大幅な地方交付税の削減(所謂、地財ショック)を受け、島の存続と持続可能なまちづくりを目指し、「守り」の戦略として徹底した行財政改革を断行するとともに、「攻め」の戦略は離島ならではの海の恵みにこだわった産業振興策に積極的に取り組んでいますが、これらの事業化に先立って島内の水質調査を行いました。その結果、最適な数値を示したのが、実は名水「天川の水」がふんだんに流れ込んでいる入り江の沖であったのです。
たとえば、海のミルクといわれる「いわがき」を種苗から育成・販売まで一貫生産を目指し、U・Iターン者と地元漁師が協力して、「隠岐海士のいわがき・春香」の養殖に成功し、春から初夏限定のいわがきとして、築地市場や首都圏のオイスターバーで大ヒットしています。
また、きれいな日本海の海水から伝統的な製法で作られる「天然塩」は、塩そのものは勿論、梅干しや塩辛などの商品化にも積極的に取り組み、山陰地方はもとより、東京の有名ホテルでも「海士乃塩」として取り扱っていただけるまでになり、販路も広がり、いま辺境の島にも改革の光と構造改革が芽吹き、確かな手応えを感じております。
ところで「昭和の名水百選」に認定された私たち関係自治体は、英知と創意を結集し水環境の保護の推進と水質保全意識の高揚を図ることを目的として、全国水環境保全市町村連絡協議会を設立し、今日まで活動を続けてまいりました。そして今年の6月、新たに「平成の名水百選」が選定されたのを機に、昭和と平成の名水が手を携え、さらに協力に水環境保全に取り組むべく、200の名水が参加する連絡協議会へと発展的に生まれ変わろうとしています。
その嚆矢の全国大会と名水シンポジウム(所謂、名水サミット)を、来年10月に日本海に浮かぶ小さな離島の私ども島根県隠岐國海士町で開催することとなりました。
全国の「名水」関係者や水環境保全にご尽力されている方々との交流と親睦の機会をいただき、まさにこれこそ最大の「名水の恵み」と考えております。
皆様のご参加ご来島を心からお待ち申し上げております。