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 地球温暖化を憂う小さな自治体の挑戦

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年6月26日

宮城県加美町長  星 明朗


水の惑星、地球号は今、化石燃料の大量消費による地球温暖化という病に侵されている。
二酸化炭素やフロンガス等の放出により、オゾンホールが拡大し私たちは紫外線の危険にさらされ、気温の上昇にともない両極の棚氷が融解し、極海の塩分濃度が変化して深層海流の変異による赤道付近の気圧のバランスが崩れている。このことが世界各地で異常気象が多発する原因となっている。
本年四月につくば市で開催された日本気象学会で、気象庁気象大学の谷貝教授は「日本列島の夏は北日本は寒く西日本が暑い『北冷西暑』が顕著になっている。その原因に地球温暖化がある」と発表した。
私たちは二度のオイルショックを経験したにもかかわらず、依然として化石燃料を主体とする石油製品を浪費しつづけている。エネルギー自給率がわずか四パーセントの我が国が、である。五十年後百年後の孫やひ孫たちのため、国をあげ世界が一丸となって地球温暖化防止対策に本腰を入れて欲しいと訴えたい。
また残念ながら、一九九七年十二月の京都会議議定書に盛り込まれた数値目標も大量排出国のアメリカが脱退したため、達成不可能となった。我が国の達成もあやしいものとなりつつある。
まさに憂うべき現状である。
そのような状況下で我が町では、温暖化防止対策とエコエネルギーの導入を目指して合併前の中新田町時代(平成十年度)と合併後の加美町として(平成十七年度)二度「地域新エネルギービジョン」を策定した。
二度とも『ヒートアイランド』の著者で有名な東北大学大学院環境学科の齋藤武雄教授を委員長とし、NEDOと東北通産局(現東北経済産業局)及び宮城県などの援助と協力をいただいた。
我が町は西部に奥羽山脈を頂く町で風が強い町という概念があった。そこで、まず風力発電を考え風況調査を行ったところ、予想に反して意外と風が強くなく、平均三メートル(毎秒)程度という結果だった。
当時(平成十一年頃)は、風速五メートル程度でなければ効率的でないということで、その時点では断念せざるを得なかった。
しかしその後、開発研究が我が国でも進み、現在ではコンパクトなシステムになり、三メートル程度でも可能となったようである。
その地域新エネルギービジョンには、多くの提言が盛り込まれた。 
太陽光発電、太陽熱温水利用、冬場に多量に降る雪氷熱利用、小水力マイクロ発電、農畜産バイオマスエネルギー、木質バイオマス、廃食用油バイオディーゼル燃料、一般廃棄物(生ゴミ等)利用、し尿、汚泥利用(メタン発酵)、エコクリーン自動車の導入等々である。
この提言を受け既に公共施設(学校、保育所)への太陽光発電(三ヶ所)、太陽熱温水システム一ヶ所、生ゴミ、し尿混入によるバイオ発電とコンポスト生産一施設、ハイブリット自動車十二台導入などを行った。
また、木質バイオマス事業についても「木質バイオマス利活用小型ガス化発電実証調査事業」が終了し、今年から平成二十年度の本格導入に向け準備段階に入る。
今後は職員による研究プロジェクトチームを組織し、「雪氷利用」「風力発電の可能性」「廃食用油の利用」等を検討しながら、滋賀県愛東町の例も研究し「遊休地への菜の花栽培と油の生産(無農薬・有機)利用、廃油の再利用」など夢を広げつつある。
第三のオイルショックの到来といわれる現在、小さな自治体から取り組む姿勢を示し住民にもアピールすることが大切と考え、本年度から町民向けに「太陽光発電施設設置助成制度」をスタートさせた。
一件二十万円を限度として、既に十件の申請が出され初年度としては出来すぎの感があるスタートと思われるが、これも町民の意識の現われと言えよう。
いまどこの自治体も行財政改革に取り組んでいる。基本にあるのは費用対効果であるが、その最たるものがこの地球環境に対する費用対効果であろう。現時点では費用の方が大きくなることもあるかも知れないが、拙速に効果を期待するのではなく、時間をかけ実効あるものにしていかなければならない。
また、国が政策として太陽光発電など省エネルギーの研究開発や製品への助成を行い、価格を下げることによって人々に利用しやすい環境を作ることも大切である。
このまま地球環境が悪化をたどれば、どんな手立てをもってしても元に戻ることはできない。私たちの時代がその愚を侵してはならない。その岐路に立っているいまこそ、自治体が連携し、地球温暖化防止に取り組むべき時であろう。
小回りの利く小さな自治体がその役割を担っていると思うのである。