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 世界遺産白川郷近況

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年4月10日

世界遺産白川郷近況

岐阜県町村会長 白川村長 谷口 尚


「世界遺産」という言葉を、テレビや新聞などのメディアを通じて本当によく見聞きするようになった。多くの人々の関心事という点で、この言葉はすでに市民権を得ているし、言葉には特権階級的な響きがあり、その経済効果は群を抜いている。

白川郷の合掌造り集落は、世界遺産に登録されてから10年がたった。国内の文化遺産は現在10箇所登録されているが、白川郷は4番目と比較的早い。推薦を受けた当時は、世界遺産という言葉自体が新鮮で耳慣れず、住民に登録の理解を求めるのにもずいぶん苦労したものだ。それにしても驚いたのが、法隆寺や姫路城など日本の名だたる重要文化財と山奥の民家群が肩を並べたことで、地道に保存を進めてきたわれわれにとっては、まさに青天の霹靂というべき快挙であった。

いわゆる「町並み保存」を進める地区は全国にあって、白川郷もその歴史は古いものの、長野県妻籠宿のように他に先駆ける草分的存在ではなかった。それがこの登録によって、いきなりトップランナーにさせられた。以降、世界遺産という未知の冠が、確かに白川郷に多大な影響を及ぼしてきたことに間違いはない。

集落保存の難しさは「そこに人が住むからだ」というのは言わずもがなである。ここには約150世帯、およそ600人の生活がある。全戸が守る会に所属し、景観を損なわないための外観規制を受けている。保存の基本は「住民の合意形成」であるが、これがなかなか一筋縄ではいかない。時代に即した数々の問題を、常に抱え続けてきた。

年間150万人の観光地である白川郷には、シーズン中は人とバスと車でごった返す。こういう状況は当然のごとく様々なトラブルを生む。村と地域は、これらの弊害を解消し観光のあり方をコントロールするために、集落内の観光車輌通行規制実施に向けた取り組みを行っている。平成13年から国土交通省の助成を得るなどして、毎年交通社会実験を試行してきた。

18年度中にも8回の規制実施を計画している。しかし、集落はテーマパークではないので、容易にことが進まない。規制をしようとしている道路線上に個人営業の駐車場がいくつもあり、さらに地域営業の公共駐車場がある。それを中心に観光商売の店舗が軒を連ねるといった具合に、導線の改変は利害関係と密接に関わる。

例えば、文化先進圏であるヨーロッパには、お手本がいくつもある。伝統様式の建築物を残す都市では、郊外の駐車場に車を止めてから公共交通機関を利用して地区内の目的地に行くというパークアンドライド方式が当たり前のように行われている。国内でも、このシステムを取り入れて渋滞解消に成功した事例があるし、前出の妻籠では始めから宿場町の表通りに車を入れていない。

要は、住民の理解と協力が得られるかどうかなのだ。町並み保存は、住民の申し合わせによって成り立つ。この交通問題では、通行規制をしたほうがいいのは誰の目にも明らかである。打開策は、村が住民と知恵を出し合い、現在も模索し続けている。

白川郷は人々の暮らしと共に生きている。だから、その景観が変化していくのは必然なのだ。問題は「どう変わるか」。観光に迎合せず、受け継いだ遺産を誇りとして、こだわりを持って保存を追求したい。本物を残し、有効に見せる。それこそが最も望ましい集落保全の理想形である。冠の名にふさわしく、百年後でも二百年後でも人々の心を癒す桃源郷であるように、今後も目標とする美しい村づくりに邁進したい。