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 クラシック音楽とまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2006年3月27日

栃木県町村会長 壬生町長  清水 英世

 
昨年十月八日壬生町中央公民館(城址公園ホール)で、ショパンコンクールでアジア系人として初めて、しかも、最年少で優勝して世界中をあっと驚かせたユンディ・リのピアノリサイタルが開催された。この事業は、町村合併五十周年記念事業の一環として開催されたものだが、異常な人気を博し、チケットは即日完売ということになった。申込みは県内は言うまでもなく、県外からも購入申し込みがあった。インターネットが普及したせいもあると思うが、県内外からこのように多くの購入申し込みがあり、その異常な人気に驚くばかりだった。ユンディ・リのピアノリサイタルは、東京サントリーホールを始め、横浜・大阪・名古屋などの大都市の会場でも開催されたが、百万都市以外での公演は、本町を含めて、長崎や長野など数ヶ所に限られていた。本町のように、小さな田舎町が会場に選ばれたのは嬉しい限りであるが、町主催で入場料が格安であったこともあって、注目を集め、購入申し込みが殺到したものと思われる。チケット完売後も購入申し込みがあり、丁重にお断りするのに苦労した。
さて、当日の演奏は、満員の聴衆を十分満足させる素晴らしいものであった。生まれながらの音楽的才能、それに異例のテクニックと表現力も加わった演奏に、聴衆は感動の極に達した。私も割れんばかりの拍手に圧されて、アンコールを繰り返すユンディ・リの姿を見ながら、演奏者と聴衆が一体となって醸し出される音楽会特有の雰囲気を満喫するとともに、音楽を通してまちづくりを進めてきたことに自信を深めた。
本町は、二十年前、国の補助を受けて中央公民館を建設したが、核となる大ホールは、音響効果の素晴らしいものに仕上がった。それを利用して、クラシック音楽会を開催して好評を博していた。町長に就任した私は、その事業を継続するとともに、その内容をさらに充実して、音楽を通してまちづくりを進めることにした。それは、着任して間もなく、宮城県に転任した知人の紹介で視察した、中新田町の音楽を通してのまちづくりに刺激されたからである。この町は、音楽性を徹底的に追求し、特に、小編成の室内楽を聴くのに最高のホールと評価される音楽ホールを建設した。(田園の中のバッハホールとして有名)そして、このホールを核に、音楽を通してのまちづくりを進め、全国に「音楽のまち中新田」を発信しようという試みを実践していた。その町を視察して、私は中新田町に負けないクラシック音楽を愛するまちとして、まちづくりを推進しようと決めた。以来、十数年間、議会や町民の皆さんの温かい理解と支援を得て、年間約四千万円を予算化し、クラシック音楽会を主催する事業を積極的に推進し、クラシック音楽を大切にする町として、全国の音楽ファンに向けて発信を続けている。幸い、東京から近く、高速道を利用すれば短時間で来られるという地理的条件の良さもあって、毎年、国内外の一流の演奏家やオーケストラを招いて、十回近くの演奏会を開いている。その結果、近年本町の音楽会は、ホールの音響効果の素晴らしさや、聴衆の質の高さが評判となり、演奏家達からも高い評価を受け、音楽会を主催する町としても、大きな励みになっている。
先日、県知事宛てに「苦しくても、壬生町では、町長の陣頭指揮の下、素晴らしい音楽会が年間を通して計画され、先日のピアノリサイタルでは、チケットが完売ということです」という手紙が届いたと披露された。これは、県に対して、もう少し芸術文化に力を入れてほしいという願いを述べた手紙の一部であるが、町にとっては、この上ない励ましの言葉であった。本年度も相変わらず厳しい予算編成を強いられているが、本町のまちづくりの核となる事業であり、また、芸術文化に対する町の取り組みの姿勢を示すものとして、今後とも内容を充実しながら、クラシック音楽事業を推進したいと考えている。