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 西ドイツに学ぶ農村整備について

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年6月14日

西ドイツに学ぶ農村整備について

佐賀県神埼町長 田原 英征


私は約20年前、町の産業課長の時、日本農村振興協会の派遣で、西ドイツの農村整備の実態調査のため訪問団に加わりました。

初めて見る西ドイツの農村整備のコンセプトは、「農村の整備はそこに住む人々のため、そこを訪れる人のためにしなければならない」というものでした。農村同士が、”我が村は美しく”といったコンクールで競い合っていることに感心しました。その”我が村は美しく”の本場であるビルゲンドルフ村は、ドイツロマンチック街道沿いにある小さな村でありました。その村の交流センターでは、村の人達との交流会が行われ、村の農家のほとんどが民宿を経営し、農家で休暇を長期間、安い経費で泊まり、周辺の農村や農業とふれあい、ゆっくりと楽しむことができ、ドイツの都市住民や外国の旅行者が年間を通してたくさん訪れています。村の道路は、並木道や花壇で美しく飾られ、周囲の広々とした自然の風景とよく調和しており、村の中はゴミひとつ散乱しておらず、気持ちがよいものです。ビルゲンドルフ村は、多くの人を受け入れ、美しい環境づくりをすすめることで、若者の定住や、将来までの住みやすい村づくりをすすめるものでありました。

そのような村づくりのコンセプトに感動し、ぜひ我が町も、と農村整備を積極的にすすめてきました。 

その代表的な事業が、農村総合整備モデル事業であり、田園空間博物館整備事業であります。

神埼町は、弥生時代の邪馬台国を彷彿とする我が国最大の環濠集落「吉野ヶ里遺跡」や、奈良平安時代には皇室領荘園であった「神埼荘」の条里制の地名の名残をとどめ、中世からの佐賀平野独特のクリーク地帯や、奈良平安時代に創建された神社や仏閣、江戸時代に日本でただ一つ、貿易港として開港された長崎と江戸を結ぶ重要道路として整備された長崎街道の宿場町や一里塚等、多くの歴史遺産や、山麓地帯から平野に広がる自然や清流などに恵まれているところから、町づくりの基本テーマを「自然と歴史と未来がひびきあうまち…かんざき」としております。

このようなものを背景に、我が町のすばらしい農村景観を利用し、ゆとりと潤いのある町を維持・発展させるため、神埼町を歴史的・自然的特長により、「国営吉野ヶ里歴史公園ゾーン」「自然と歴史の道ゾーン」「肥前七隈と古代の道ゾ―ン」「佐賀平野の歴史とクリークゾーン」「長崎街道かんざき宿ゾーン」の5つのゾーンに区分し、町内の吉野ヶ里遺跡、国の名勝「九年庵」、国土庁認定「水の郷」はじめ、数多くの歴史・文化遺産とこれらを擁する全国遊歩百選コースなどの自然景観や農村景観など、町全体を屋根のない博物館に位置づけ、ゾーンごとに歴史・伝統・文化等の多目的機能を再評価し、核となる施設の整備を図ってまいりました。

「国営吉野ヶ里歴史公園ゾーン」には、吉野ヶ里の古代イメージを壊さぬよう、景観条例をつくり、周辺に菜の花やコスモス等景観作物を植え、稲 麦など田園風景を保持しています。

「自然と歴史の道ゾーン」は、町の山麓から丘陵にあたる地域であり、城原川の清流や、その清流を利用した水車によって名産神埼そうめんの製粉を行っていた水車の里の復元、仁比山公園、国の名勝「九年庵」、江戸時代の蘭学者で日本に初めて種痘を取り入れた伊東玄朴旧宅、仁比山神社など、見るべきものが多い所でもあり、このルートは、全国遊歩百選のコースにも選ばれています。

「肥前七隈と古代の道ゾーン」

昔、烽が置かれた日の隈山は、春は桜、秋は紅葉が楽しめ、公園には天然芝の多目的グラウンドや子ども遊具などがあり、年間を通して子どもたちが遊んでいます。ゾーン中心部は、桜街道で佐賀平野クリークゾーンと連結しています。

「佐賀平野の歴史とクリーンゾーン」

ここは町内の穀倉地帯であり、佐賀平野の一角をなす田園風景が広がっています。佐賀平野は、数万年の長い年月の中で有明海の海進海退によって陸地が出来上がり、その時の水たまりがクリークに発達したもので、長い間人々の生活や農業に関わってきました。そのクリークを昔のまま残し、佐賀のくど造り民家を復元した横武クリーク公園が核となる施設であります。

「長崎街道かんざき宿ゾーン」

神埼町の中心部に位置するゾーンで、江戸時代の長崎街道の宿場町として栄えた町です。このゾーンには神社や仏閣が多く、その代表的なものに櫛田宮があり、神埼郡の中心的神社として崇敬を集め、太神楽や締元行列など民俗芸能が伝承されています。

以上のような町全体を、既存の史跡や自然景観をサテライト施設として活用・展示しながら、地域に関わりのあるものを復元し、そこに住む人々のため、またそこを訪れる人々のために整備し、我が町をより美しく整備するものであります。

皆様方には、ぜひ一度訪れていただきますよう、ご案内申し上げます。