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 豊かな人間関係を

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年3月8日

福井県三国町長  坂本 憲男

三国町は、福井県下随一の大河である九頭竜川の河口に位置する人口2万4千の町です。越前加賀海岸国定公園の中核である「東尋坊」「越前松島」や冬の日本海の味覚「越前がに」が水揚げされる町として全国に知られております。また、古くから北前船の寄港地として栄え、湊町としての輝かしい歴史と伝統を町民は誇りにしています。
平成9年1月、ロシア船籍のタンカーナホトカ号重油流出事故の際には、全国からボランティアや自治体はじめ多くの個人、団体のご支援を受けました。現在は、何事もなかったように元の海に戻りました。人々の熱意と自然の回復力の偉大さに目を見張るばかりです。改めて、全国の皆様に心から感謝を申しあげる次第です。
さて、たいへん残念なことですが、全国に知られた「東尋坊」は「自殺の名所」というたいへん迷惑なレッテルを貼られ、この地を人生の終焉の地に選ぼうとする人が後を絶たず、地元の私たちはたいへん苦慮しています。何とかこのようなことは思い留まっていただきたいと、行政、警察、地元観光業者など一体となって、保護・相談活動など、様々な努力をしておりますが、これといった防止策はなく、行政でできることも限られています。全国でも同じような悩みを抱えた自治体も多いのではないかと思います。
先般、東尋坊で保護され、本町を始め、各市役所などを点々とされ、結局、新潟県で自殺された方がおられました。本町で面談した際に、当町や県の職員が不適切な言葉を口にしたと、一部の新聞で報道されました。この報道で、当町や観光協会に全国から様々な非難の意見が寄せられ、対応でパニックとなりました。
担当職員からは、就職の斡旋や施設への入所まで勧めたものの拒否され、相談は不調であったものの、言われるような不適切な対応はしていないとの報告を受けておりますし、そう信じております。職員は、「自殺」という事実に向き合って仕事をしています。以前は、自殺された方が収容されると、担当職員は現場に出向いて立会っておりました。言葉では表現できない様々な状況を公務とは言え、否応なく眼の前に突きつけられてきました。
このような体験を通して、職員は生命の尊さ、自殺の悲惨さを自分の体に染み込ませております。不用意な言葉を口にすることは、相談者を鞭打つばかりか、自分自身の仕事を否定することであり、また、地道に活動している地元の人たちの努力を台無しにしてしまうことを誰よりも自覚しているからです。
自殺を選択しなければならないほど追い詰められた身の上に同情は禁じえませんが、少なくとも、自殺だけでも思い留まらせる相談相手が身近にいないという現実をたいへん悲しく思い、また哀れでなりません。
今年の成人式の際に、若い人たちにも申し上げましたが、私が愛読する相田みつをさんが書かれた詩の中に、「生きていて楽しいと思うことの一つそれは人間が人間と逢って人間について話をする時です」という作品があります。相田さんは「人間を動かし、人間をかえてゆくものは、難しい理論や、理屈じゃなく、感動が人間を動かし、出逢いが人間を変えてゆく」とも言われています。人間は一人では生きられません。だからこそ人との出逢いを大切にし、その人が必ず持っている「良さ」を見いだし、学ぼうとすることによって、自分の希望も生まれ、生きる力もわき上がってくるものだと思っております。
町づくりも、そうした出逢いを大切にする心から生まれた豊かな人間関係やその人の輪によって育まれた地域コミュニティが基本であると確信しております。
その中で自殺の増加、低年齢化する犯罪や子どもへの虐待の増加等を考える時、地域社会のあり方や役割などを今一度考え直す時代が来ているのではないかと思っております。