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 鷹と共に

印刷用ページを表示する 掲載日:2003年4月7日

青森県七戸町長  福士 孝衛

幾年も
  我が家の杜に  巣篭もれる
     鷹早春の  天空に舞う
思えば、50年程前、造林に熱心な祖父と共に、造林地の造成のために、広葉樹林を伐採しておりましたが、時々飛来する鷹のいることに気がつきました。
そこで早速、林内を見て廻った所、奥まった一角の一抱えもある栗の木に巣があり、2羽の雛が育っているのを発見しました。これはすごいと思い、巣の周囲の伐採を巣立つまで控え、大事に保護することにしました。
それから何ヶ月か後に、雛は無事に巣立っていきました。私は、何か良い事をしたとの思いと、巣立った親子の鷹の無事を祈りながら、伐採し、造林しました。
それから何年か後、弟が結婚することになり、家を建ててやろうと山の一角の松を伐採していて、巣立った後の鷹の巣があることに気づきました。その時は、「あっ、ここにも鷹がいたのか」位にしか思いませんでしたが、その翌年、その山から300メートル位離れている松林の際立った巨木に鷹が営巣しているのを発見しました。
私は、大変驚きました。なぜ私の山だけを転々と移動しながら営巣をするのか理解に苦しみました。その時浮かんできたのが、5、6年前の伐採を控え、巣立つまで待った私共の気持ちが鷹にも通じているためではないかという、なんとも不思議な思いでありました。
以来、今日まで鷹は1年も欠かす事無く何処からともなく訪れて、ひと夏をかけて雛を育てて、何処へともなく去って行くことを繰り返しております。それに合わせて、私は犬を連れて毎朝、その巣の見える所まで散歩をする習慣がつき、楽しみが増えました。山に近づくと、私を出迎えるかのように鷹が現れ、上空を旋回し姿を見せてくれることも良くあり、元気かと、私も声をかけたりするようになりました。
今年も3月、もうそろそろ鷹が帰ってくる頃になりました。時折、杜の上空を見上げて、無事に帰ってきてくれることを祈っております。
このように鷹と関わりをもってから、私にも色々の事がありました。私は亡き祖父を偲びながら、山造りに専念し、林業の研究を重ねながら林業グループなどに加わり、交流を深め、青森県の林業研究会連合会長に推挙され、その会の全国の副会長も長年務めさせて頂きました。そうしている内に町議になり、三期目で議長に、その半ばに町長が急逝をし、悲しんでいる間もなく私が後継者として就任するなど、全く予期せぬ事の連続でした。また、町政についても、たくさんの大きな課題を乗り越えることができました。
特に、新幹線の整備計画で、私共の町に駅ができることになっている当初計画を財政問題で町とは関係の無いミニ新幹線で建設するという国の決定が、当初の計画に戻るなど、私共をめぐる状況は幸運としか言えようのないものでありました。
私がこのように恵まれた道を歩むことができたのは、鷹を大事にし50年、鷹が安心して住める自然を残している私の心情を、天に届け、それを知った天の神々のご加護によるものではないかと思うようになりました。また、我が家の杜に鷹が住み着いているということで、自然に勇気と誇りが沸いてくることと、山まで散歩することで健康が保たれることなど、鷹には心から感謝の日々を送っております。
自然や動植物を大事にする心は、環境の保全はもとよりでありますが、人々が社会で協調し安心して生きていく上での最も大切な基本的なものではないかと思うようになりました。そのために、まず自分の身を律し、優しい心を基本に福祉の向上に努める、その事を強く自分に言い聞かせている昨今であります。
  
裏山の
  松の巨木に  巣篭もれる
     鷹はいつしか
           親となり居り