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 もっとプロセスを大切に

印刷用ページを表示する 掲載日:2002年8月5日

兵庫県夢前町長 為則政好

わが町兵庫県夢前町は、姫路市の北に隣接し夢前川の清流が山の緑を映しながら清々として播磨灘へ流れています。

うつつには さらにもいはず 播磨がた

夢さき川に ながれてもあはん

紀貫之が旅にあって詠んだこの歌にもあるように、願いを持って生きることのすばらしさを夢前の名とともに千年も前から持ち続けてきたことを誇りに思っています。その夢前川の源流に遠目には雪ほど白い雄々しい岩峰を空へと突き上げる雪彦山がそびえております。また、名湯の塩田温泉、平安の高僧性空にちなむ名刹の弥勒寺、さらに中世の時代に播磨だけでなく備前美作までも領した赤松氏の居城置塩山城跡も私たちの誇りです。

こう申せば町域がおよそ146平方キロ、人口2万2千余人の町のたたずまいを想像いただけますでしょうか。

この夢前町が3村の合併により誕生したのは昭和30年7月1日でありましたが、奇しくもその年私は町の職員に採用されました。50年近くも前のことでしたから、人口1万4千余人の農林業を主とした町で、何事も不便でまだ欠乏感に苦しんでいましたが、人は生きることに意欲的で生き生きとしていたように思います。その頃に、私は税務係として公務員生活を送ることになりました。当時、1番に悩み苦労したのが税の徴収でありました。毎朝午前7時30分には役場に入り、夜遅くまで残業し、家に帰ってからも税の仕組みから税の精神、さらには納税者の心をつかむにはどうすれぱよいかなど、税のことばかりが頭にありました。そうしているうちに、多くの方からいろいろと励まされ支えていただくようになり、県内での徴収率も非常に目立つようになりました。その嬉しさは今も忘れられません。

「為せば成る」のことわざは何よりも自分のためにあると実感したものでした。

当時は国からの補助金等にも多くを期待できず、町民からの税収が直接に響く時代でした。それだけにシステムが不十分なら算出もお粗末な状態でしたが、意欲だけは熱くありました。何事も語れば相手の理解が得られる、努力すれば成果は必ず返ってくる、その成果は必ず町民の喜びにつながっていく。すべての仕組みが未成熟でしたが、それゆえに税務という冷徹な場にさえ意欲が心から心へ伝わって成果をあげていく温かさがありました。今はシステムが整い、計算の方途も十分になり、納税者の要望や質問に対応するノウハウも整ったわけですが、それに反して温かさがなくなってきているように思われます。それは税務の場だけのことでない気がします。行政全体がコンピューターという強力な助っ人を得て、効率よく業務が処理され、実に正確な結論を出してくれます。

しかし、誰かから割り振られたような結論は実施に移すときどうしても仕事としての取り組み以上のものは望めません。やはり物事の結論に至るプロセスに願いとか思いといったものが積み重ねられてこそ、結論を実施に移した時の熱い行政力になっていた気がします。現在のような状況では今の地方行政の財政難は乗り越えられないと危惧しています。この財政難は国政的な規模での不況と財政変革に伴うものですから、1つの町のスケールで語るのは適切でないとは思いながらも、生活環境の悪化等から町民を守ることなど、行政に新しく課せられている難題を思うと、人と人の熱いつながりの中で成果をあげていくことの確かさを改めてもう1度行政の場に取り戻したいと強く願っています。

行政のプロセスに人と人の熱い討論を求めると共に、私は住民にも我が町への熱さを取り戻してもらいたいと念じ、住民主体の町づくりを推進するべく日々努力を重ねているところです。