埼玉県ときがわ町長 渡邉 一美
埼玉県ときがわ町は、県の中西部に位置し、西には外秩父の峰々を望む典型的な中山間地域。町名の由来となった都幾山慈光寺は、奈良仏教の影響を受けて今から1350年前に開かれたとされ、国宝「装飾一品経」や国の重要文化財の銅鐘など、歴史と文化の香り高い古刹を有する。
わが家はこの緑と清流に恵まれた町で、80年続く豆腐屋を営んでいる。昭和54年、私は家業を継いだ。父の始めた製造卸売の豆腐屋を、時代の変化とともに業態転換し、地域大豆を使った製造直販の店へと舵を切った。
私は、豆腐づくりを通じて「地域の力」や「顔の見える信頼関係」の大切さを学んだ。田んぼの転作で生まれた大豆の売り先に困っていた農家の皆さんと、地元産大豆による豆腐製造という形でつながり、小さなまちに大きな価値を創出することができた。また、深井戸水を活かした手作り豆腐の直売所を開設、特産品としての地位を確立し、やがてときがわ町の集客スポットにもなった。
この民間での実績を評価いただき、平成30年に第2代ときがわ町長に就任した。行政経験はなかったが、私は現場主義と民間感覚を武器に町政に臨んだ。
一期目は、大規模山林火災、大型台風、新型コロナウイルス感染症など、想定外の災害の連続だった。しかし、民間で培った柔軟な対応力と「やるべきことは自分たちでやる」という精神で、職員と力を合わせ乗り越えることができた。
そして、二期目の現在は、町の総合振興計画に基づき、「優しさにふれるまち」から「優しさに溢れるまち」への発展をめざして、以下の7つの柱に基づく政策を進めている。
1.食と教育で選ばれるまちに
脳は体重のわずか5%にすぎないが、エネルギーの20%を消費する臓器である。食の質が教育や発達に大きく関わることは明白であり、安心・安全な地元食材を活かした食育と教育を両輪として進める。教育こそが未来をつくる最大の投資である。
2.町民自慢の観光のまちに
観光とは、まず「町民がふるさとを楽しむこと」から始まる。自分の町を好きになり、誇りを持って来客をもてなす。そんな町民の姿が、観光資源そのものだと私は考える。
3.高齢者にやさしいまちに
誰もが長生きしたくなる町をつくる。歩きやすい道路環境、文化活動、笑顔や会話があふれる場、運動と栄養、そしてスマホなどのデジタルにも前向きに向き合うサポート体制を整える。
4.地域力を活かした安心安全なまちに
あいさつが自然に飛び交い、お祭りや行事が続く地域には、自然と人のつながりが生まれる。顔の見える関係、支え合いの心、地域の文化こそが、防災・防犯にもつながる「安心のインフラ」である。
5.人口増加のまちに
高齢化が進むなかで、自然減を補う「社会増」には、若者世代が安心して暮らせる環境整備が不可欠である。住居・子育て支援・雇用など、町の強みを活かした施策で定住人口の増加をめざす。
6.女性が輝くまちに
女性の視点と力が町を変える。リーダーシップを発揮する女性、地域活動を支える女性、それぞれの立場が輝けるよう、活躍の場を広げる取組を積極的に進める。
7.SDGs・環境に配慮した持続可能なまちに
私たちの今の行動が、2050年の未来を左右する。資源循環、再生可能エネルギー、脱炭素など、地球と未来の町民のための取組を一つずつ積み重ねていく。
私たちの町は、小さくても温かく、美しい自然と誇れる人のつながりに恵まれている。これからも「優しさ」を礎に、町民の皆さまとともに、心豊かなときがわ町を育んでいく。