高知県町村会長・北川村長 上村 誠
北川村は、高知龍馬空港から車で東へ50分ほどの距離に位置する山間の静謐な自然に抱かれた村です。世界で唯一、フランス芸術学士院から命名された北川村「モネの庭」マルモッタンや北川村温泉など、訪れる人の心身を癒す場所も多くあります。
一方で、北川村は全国的な人口減少の波に直面しています。今、私たちは地方創生を成すために、「村の永続」という大きな課題に対して、「住みたい村」「住み続けたい村」の実現に向けて、果敢に挑んでいます。
まず、永続できる村となるためには、「生活できる収入」が必要です。北川村に住み、働き、家庭を築くことができる収入を得られなければ、誰も村にとどまることができません。私たちには、先人たちの知恵と努力が息づく「柚子」があります。柚子は、維新の志士・中岡慎太郎が庄屋見習いであった時代に、その普及を奨励したことに端を発します。昭和の高度成長期に村をあげて柚子栽培を奨励して以降、北川村は日本有数の柚子の産地として知られるようになり、今ではその柚子を軸とした農業が地域経済の中核を成し始めています。
私たちは、この柚子栽培を一次産業にとどめず、ほ場整備やスマート農業の導入による効率化に加え、加工・販売を視野に入れたブランディングにも力を注いでいます。こうした取組により、農業者の所得は増加傾向にあり、直近の全国世帯平均所得546万円に近づく水準である500万円超が視野に入ってきました。この成果は、村に住み、働き、家庭を築くことができるという希望を現しています。
そして、「住みたい村」には、収入だけでなく暮らしの質も必要です。私たちは、子育て・教育環境の充実と、健康寿命の延伸にも注力し、産業・教育・福祉それぞれの分野における振興を図っています。
教育においては、「全員が高校受験時に偏差値50を超える」ことを目標に掲げています。これは、こどもたちが自らの力で未来を切り拓く思考力と学力を身につけるための指標です。最近、平均偏差値50超が現実のものとなりつつあります。加えて英語教育では、ネイティブスピーカーとのマンツーマンレッスンを行うなど、実践会話力を身につける生徒も出てきました。今後は、多くの国で公用語として使用されているフランス語にも取り組み、こどもたちが将来、グローバル化する社会を生き抜くことができるよう、さらに、柚子の輸出に携わることができるように国際的な活躍ができる人材を育成することも見据えています。
また、高齢者を中心に「北川村ずっ〜と元気計画」を策定し、高齢者が生き生きと暮らし、最後まで自立して人生を楽しめる「健康寿命の延伸」をめざしています。栄養バランスを意識した食事など健康的な生活習慣の普及、運動や社会参加への支援、医療・介護の連携強化などにより、村全体の健康意識を高め、活気ある地域づくりを進めています。
これらの取組を支えるために、道路整備などのインフラ整備も重要です。山間地である本村において、生活や物流の基盤となる道路は経済活動の要です。また、将来を見据えた脱炭素化にも取り組み、再生可能エネルギーの導入や省エネ施策の推進にも力を入れています。これらは、村の未来を構築する投資でもあります。
北川村は、広大な面積と豊かな自然・歴史に恵まれた小規模な村です。小さな村だからこそ可能な、顔の見える人間関係、柔軟で迅速な行政対応、そして、村を心から愛する人々がいます。この「人の力」こそが北川村の最大の財産です。
今後も、「生活できる収入」と「住みたい環境」を両輪とした取組を推進し、北川村が未来へと続く持続可能な村であり続けられるよう、全力で挑戦を続けてまいります。次世代へつなぐ村の未来のために、皆さまとともに歩んでいけることを、心より願っております。