三重県大台町長 大森 正信
三重県のほぼ中央に位置する大台町は、総面積の約9割を森林が占め、清流宮川をはじめとする豊かな自然に恵まれた町です。町の南西部には、日本百名山の一つであり、国内有数の多雨地帯として知られる大台ヶ原がそびえ、雄大な山並みと深い森が広がっています。また、町の中央を流れる宮川は、国土交通省の「全国一級河川の水質調査」で何度も日本一に輝いた清流であり、地域の誇りとも言える存在です。この恵まれた自然環境の中で、人々は昔から森と川とともに生き、独自の文化と産業を育んできました。
大台町は、こうした自然の恩恵を活かしながら、持続可能なまちづくりに取り組んでいます。その象徴的なものの一つが、「ユネスコエコパーク」の登録です。2016年に大台町を含む地域が登録拡張され、自然環境を守りながら地域の活性化をめざす取組が国内外で評価されました。ユネスコエコパークの理念に基づき、町では環境保全活動やエコツーリズムの推進を積極的に進めています。例えば、宮川の清流を活かしたカヌー体験や、豊かな森林資源を利用した環境学習プログラム等が実施され、訪れる人々に大台町の自然の魅力を伝える役割を果たしています。
一方で、人口減少や高齢化といった課題にも直面しています。しかし、こうした状況の中でも、地域の資源を活かした新たな取組が芽生えています。その一例が、地元産の「奥伊勢ゆず」を活用した特産品の開発です。大台町は柚子の栽培が盛んであり、その風味豊かな果実を使った加工品が多くの人々に親しまれています。地元企業や農家が連携し、ゆずを使ったポン酢やスイーツ、さらには化粧品等、幅広い商品開発が進められています。これにより、新たな雇用が生まれ、地域経済の活性化につながることが期待されています。
また、大台町では移住・定住の促進にも力を入れています。豊かな自然環境とゆったりとした暮らしを求めて、都市部から移住する人々が増えており、町としても支援制度の充実を図っています。例えば、空き家バンクを活用した住まい探しのサポートや、新規就農者への支援等、移住者が安心して暮らせる環境づくりに取り組んでいます。こうした努力が実を結び、移住者が地域の祭りや伝統行事に積極的に関わることで、新たなコミュニティの活力が生まれています。
大台町は決して大きな町ではありませんが、ここには誇るべき自然と、それを大切に守りながら暮らす人々の温かさがあります。町民一人一人が自らの暮らしや地域の未来について考え、行動することで、大台町はこれからも魅力的な町であり続けることでしょう。私は町長として、この豊かな自然と人々の営みが調和する町づくりを全力で推進していきたいと考えています。
自然とともに歩むことは、時に厳しさを伴います。しかし、その先には、豊かで持続可能な未来が広がっています。大台町の魅力を次世代へとつなぐために、これからも町民の皆さまとともに、一歩一歩確実に前進してまいります。