兵庫県多可町長 吉田 一四
多可町は、平成17年に多可郡の旧3町(中町・加美町・八千代町)が合併して誕生し、本年(2025年)は町制20周年という大きな節目を迎えました。
本町は兵庫県のほぼ中央に位置し、人口約19,000人と小さい町ですが、田畑、森林に囲まれた豊かな自然環境に恵まれています。何よりも、温かく親切な住民の皆さまが、多可町の最大の魅力です。また、神戸・大阪・京都といった大都市へ車で90分程度という「ちょうどいい田舎」として、近年移住者も増え、新しい店舗や民泊施設も多数オープンしています。
本町は、地域の特性から生まれた世界に誇る3つの発祥を持つまちです。
まず1つ目、酒米の最高峰「山田錦」発祥のまちです。昭和11年、「山田穂」と「短稈渡船」の交配により誕生した「山田錦」は、全国の酒造りに欠かせない存在です。母となる「山田穂」は、中区東安田(旧東安田村)の山田勢三郎翁が発見したものであり、「山田錦発祥のまち」としての誇りを持っています。平成18年には自治体として全国初の「日本酒で乾杯の町」を宣言し、令和7年には「兵庫の酒米『山田錦』生産システム」が日本農業遺産に認定されました。これからも、この貴重な財産を未来へとつないでいきます。
2つ目は、手漉き和紙「杉原紙」発祥のまちです。杉原紙は、日本最古の手漉き和紙の1つで、奈良時代から伝わる伝統工芸です。加美区(旧杉原谷村)で生まれ、丈夫で白く美しいことから、かつては公文書や高級な書物に使用されていました。現在も職人の技によって受け継がれ、町内の小学校では卒業証書を杉原紙で作るなど、こどもたちがその伝統を学ぶ機会も大切にしています。貴重な伝統文化を今後も守り続けていきます。
そして最後に、国民の祝日「敬老の日」発祥のまちです。昭和22年、八千代区(旧野間谷村)で始まった「としよりの日」が全国に広まり、昭和41年には国民の祝日「敬老の日」として制定されました。本町では、敬老会や絵画展を開催し、平成28年には「敬老文化」のまち宣言をしました。今後も高齢者を大切にする精神を受け継ぎ、地域全体で支え合うまちづくりを進めていきます。
この20年間、地域の皆さまの力強い支えとともに、多くの課題に向き合い、変化と成長を遂げてきました。少子高齢化、人口減少、自然災害への備えなど、地方が直面するさまざまな課題に対して、私たちは「地域の強み」を活かすことで持続可能なまちづくりに取り組んできました。
令和7年4月、いよいよ生涯学習まちづくりプラザ(愛称:『Asmile(あすみる)』)がオープンします。愛称『あすみる』には、明日のスマイル(笑顔)のために、明日を見据えて学んだり集まったりする拠点にとの願いが込められています。この新たな交流と学びの拠点は、町民の皆さまがともに集い、生涯にわたる学びを深める場であり、地域づくりを進めるための大切な拠点となる施設です。
『あすみる』では、生涯学習講座や各種イベントが開催されるだけでなく、多可町の未来を担うこどもたちが夢を育むとともに、多様な世代が自由に交流し、アイデアを出し合いながら新たな活動を生み出す場として活用されることを期待しています。
町制20周年という節目を迎えるにあたり、改めて感じますのは「人のつながり」の大切さです。本町発展の原動力は、何よりも町民の皆さまの温かさと、地域を良くしようという強い思いです。これからのまちづくりにおいても、「人」が主役であることに変わりはありません。『あすみる』をはじめとする新たな拠点を活用しながら、住民の皆さまとともに、多可町の未来を築いていきたいと考えています。
20年間の歩みに感謝し、これからも本町が一人ひとりにとって「住みたい」「住み続けたい」と思える町であるよう、町民の皆さまと力を合わせ、より良い未来をめざして歩んでまいります。