福岡県町村会長・水巻町長 美浦 喜明
随想の寄稿にあたり、水巻町の歴史を紐解きながら、町の紹介と私と水巻町との歩みについて触れさせていただきたいと思います。
水巻町は福岡県の北部に位置し、面積が11.01平方キロメートルと県内で4番目に面積の小さな町です。町の東は政令指定都市の北九州市に隣接し、西側は一級河川である遠賀川に挟まれた南北に細長い町です。
本町は明治6年頃に石炭が年間1,500トン産出して以降、炭鉱の町として目覚ましい発展を遂げていくことになります。本町を紹介する際はこういった紹介文が常となっていますが、生まれも育ちも水巻町である私の目を通してみてきたふるさとは、炭鉱町としてだけではなく、遠賀川を背景とした肥沃な大地がおりなす美しい農村の景色も鮮明に脳裏に焼き付いています。
そんな炭鉱の町として発展してきた水巻町は一つの大きな歴史的ターニングポイントを迎えることになります。昭和30年から始まる国のエネルギー施策の転換です。
始まりは、私が小学生だった昭和39年、日本炭礦の東部採掘施業案が福岡通産局によって不許可になり、北九州市若松区への北部採掘に転進を図ったため、実質的に本町から採掘炭鉱が消滅しました。本町唯一の産業といってもよい位置を占めていたため、町の根幹を揺るがす大きな出来事でした。
そして、昭和46年1月、日本炭礦閉山が公になったことを皮切りに、石炭産業は終えんを迎え、私の友人、その家族、多くの人々が本町を離れていきました。
この激動の時代を経て、28歳となった私は、水巻を去ってしまった多くの人たちに、『今一度水巻町を思い出して欲しい』、といった想いが日増しに強くなっていきました。そして、自分を生み、育んでくれた水巻町に貢献し、想いを実現するためには議員として町政に携わる道を邁進するしかないと決心し、町政への挑戦を決意しました。初挑戦にもかかわらず、多くの支援者の方々に支えられ、無事に町政への扉を開くことが叶いました。
しかし、当時はまだ議会構成に炭鉱の名残りが強く、炭鉱関係の町議会議員が過半数を占めており、若輩者の私に対しては逆風が吹き荒れる中で議員人生がスタートいたしました。そこから連続で30年間、またその間には議長を10年間務めさせていただき、先輩議員はもちろんのこと、多くの町民の方からも、まちについて学ぶ機会を与えていただくとともに、水巻町への想いについても共有させていただくこともでき、北九州市のベットタウンとしての発展に議員の立場として尽力してまいりました。
このような中、本町はベットタウンとしての発展だけではなく、町独自で住みよきまちとして持続、発展していける可能性を秘めており、これを実現するため、町行政の舵取り役を担って欲しい、といった声を頂戴する機会が増えてまいりました。日増しにその声は大きくなり、それに後押しされる形で、皆さまの想いに応えるため、平成25年に町長選挙に立候補をいたしました。そして、10月に初当選を果たし、現在まで3期11年間、議員時代よりさらに町民の目線に立つことを心掛け、町民、議員、そして、まちづくりを共にすすめる職員など、さまざまな人々との対話をしっかりと重ねながら『住みよきみずまき』の実現のためのまちづくりに取り組んでまいりました。
平成27年には、喫緊の課題であった児童生徒の熱中症対策として小中学校全教室へのエアコンの設置、また、築年数が30年以上を経過していたため、教職員、保護者の方々からも改修要望の高かったトイレ改修を、国の補助にも恵まれ、町内7校全ての小中学校の改修を3年で完遂することができました。
また、本町の長年の課題であったJR水巻駅南口周辺の環境整備について、平成30年度から着実に事業を進行し、令和4年度末に工事も完了し、町の玄関口が便利に生まれ変わり、JRを利用される方々の利便性の向上を図ることができました。
そして、生まれ変わった駅南口の目と鼻の先の町有地に、民間活力を最大限に活用する取組を実施し、健康入浴施設・スポーツジムなどの誘致のご縁をいただくことができました。町内外の方々からご好評をいただいていると伺っており、南部地区での賑わいの創出に大きく寄与できた取組であると考えています。
これらを受け、現在、本町の社会増減は好転しており、また、福岡県の調査によりますと8年連続で住宅地の時価が上昇しています。この、好循環は、私一人の功績ではなく、町民・議会・職員の皆さまが一丸となり、さまざまな取組を実行してきたことの賜物であると考えています。
地方創生からコロナ禍といったさまざまな難局を乗り越え、さらに今、強まる社会情勢の不透明感の中、今後のまちづくりにおける私の使命として、この好循環を本町だけではなく、圏域に波及させ、好循環の輪を広げていくことが重要であると考えています。
本町に関わっていただける皆さまから、10年、20年先も『水巻いいね!』と感じ、また体感していただけるよう、これを実現するための町の未来を見据えた事業展開にこれからも取り組んでまいります。