高知県越知町長 小田 保行
越知町は、高知市の西方約32kmにあり、高知県のほぼ中央、仁淀川の中流域に位置し、総面積は111.95km²、人口は約5,000人の中山間地域の町です。
仁淀川は、国土交通省の「水質が最も良好な河川」に2012年~2023年の間に8回選ばれています。その水の青さから「仁淀ブルー」と呼ばれ、最後の清流・四万十川に対し、「奇跡の清流」とも称されております。
越知町は、藩政時代より仁淀川の恵みによって発展してきました。生活用水・農業用水はもとより、陸上輸送が主流となるまでは、上流からの木材、生糸や紙の原料の輸送に活用され、中継地点として栄え街が形成されました。また、原料の供給とあわせて、水が豊富であることから生糸農業協同組合や製紙会社が起こり、雇用が生まれ賑わいのある町となりました。しかし、高度成長期を迎え都市部へと人材が流出し始めると、人口は右肩下がりになり、だんだんと賑わいが失われ現在に至っています。あわせて、懸念されてきたのが、高知市と松山市を結ぶ国道33号沿線に位置しながら、旅行やビジネスで本町を訪れた方たちが滞在しない現実です。いつの間にか通過型の町になってしまい、さらに活気を失っていました。このような状況下、人口は、現町制になった昭和33年(1958年)は13,505人でしたが、令和5年(2023年)7月末には4,998人と5,000人を割り込み現在に至っております。人口構成は、第2次ベビーブーム期の昭和55年(1980年)には、人口9,052人に対し34歳以下は3,799人と約42%を占め、65歳以上は17%でした。これが、令和5年度末にはそれぞれ19%と48%と逆転しています。
さて、わが町を象徴するのは豊かな自然であります。前述の奇跡の清流「仁淀川」や西日本最高峰石鎚山系の「横倉山」を代表とする山々は、世界的にみても個性をもった自然資源と自負しております。
そこで越知町は、2018年10月に今なお残る山・川・里などの豊かな自然を活かした環境整備を推進し、多世代で自然に触れ「遊び」「学び」「楽しみ」を通して、人間が持ち合わせている「五感」「感性」などの「本来の人間力」を取り戻しながら「心豊かな生活」を営むことができる『アウトドアなまち』をめざすことを宣言しました。この宣言は、2018年4月の『スノーピークおち仁淀川キャンプフィールド』のオープンを契機として、町民の皆さまが町の魅力を実感しながら暮らす、同様に町外の方々にも、自然にどっぷりと浸り滞在していただきたいとの思いからです。
そのような中、追い風が吹き始めました。2021年7月に公開されたアニメ映画「竜とそばかすの姫」で、仁淀川に架かる浅尾沈下橋と鎌井田集落がモデル地となったことによって「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」に選ばれ、聖地巡礼で訪れる方々が後を絶ちません。
また、2023年に放送されたNHK連続テレビ小説「らんまん」は、隣町佐川町出身の世界的な植物分類学者牧野富太郎博士がモデルでした。「横倉山」は、博士がこよなく愛した山でもあり、ロケ地として番組に度々登場しました。また、仁淀川も主人公の幼少期の一場面で登場しました。この朝ドラによっても、注目度が上がり国内外から多くの皆さまに来ていただいており、一定の経済効果を生んでいるかと思います。
しかし、若者世代を中心とした人口減少は極めて大きな課題です。幸い、町の知名度アップが功を奏したのか、仁淀川に魅せられ、川を望む集落に移住される家族が少しずつ増え始め賑わいが戻りつつあります。
今後、頻発化・激甚化する自然災害に油断することなく備え、安全安心な生活環境とインフラ整備を図りたいと思います。あわせて、U・I・Jターンを意識し関係人口を構築しながら、こどもたちが、恵まれた自然環境の中で五感を磨き、先端の教育環境の中で学び、ふるさと愛を育み、成長できる教育行政を推進したいと考えております。
川で泳ぎ・山を駆け回った日々が懐かしく思い出されます。多くの人々にも享受していただきたいものです。