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印刷用ページを表示する 掲載日:2024年1月29日

有田町長 松尾 佳昭佐賀県有田町長 松尾 佳昭​​

 現在、世界を見回しても日本の少子高齢化率は世界一である。経済的に豊かとされた日本は今後抱える課題の先進地である。第二次大戦敗戦後の復興は目覚ましいものがあった。しかし戦後から始まり平成前半まで右肩上がりの日本はもう戻らないのが現実である。

 戦後は多くの地域に住んでいた若い世代の国民が東京をはじめとした都市部に就職や進学をした。地方の多くの働き手が都市部に集中し移り住んでいった。当時はそれが正であり負になることなど考えもされなかった。

 しかし今の時代は地域の過疎化は少子化、高齢化と共に一気に加速している。都市、地方と分けずとも日本全体で人口減少している。

 将来推計人口(令和5年推計)によると、残念ながら、少なくとも2070年までは人口が増えることはない。人口増、少子化に歯止め、高齢社会の明るい世の中を政策として掲げることも必要だ。その一方では現実をしっかりと見据え、人口減になった世の中を築く想像力が必要である。いままさにDX(デジタルトランスフォーメーション)が民間も行政も人口減少の中で主要な政策となり、デジタル田園都市国家構想の波にのり地域も人口減の社会を見据えた整備が必要である。


 有田町でも18歳を迎え高校などを卒業すると進学、就職等で毎年多くの若者がこの地を出ていく。「18歳の壁」「18ショック」と呼んでいる。コロナ禍もあり、地元志向の人も微増したが大きな歯止めとはなっていない。やはり働く場所があることが若者が町に住み続ける大きな要因である。当町としても製造系の企業誘致のための工業団地造成の計画、そしてIT・事務系などの企業誘致にも積極的に動いている(過去6年間で5社)。

 有田町は、農業(畜産業、兼業農家)と窯業(有田焼)が町の主産業である。近隣の市町には多くの企業があり、町民の方々もそちらで働かれている。日本の中でも窯業という同じ業種だけで約400年間も続いている町はない。この特色ある町を訪れてくださる方も、コロナ禍後はインバウンドも含め大変増えている。しかし、町内では空き家や空き店舗が増えている。独居老人の方も多く、お亡くなりになってもお仏壇を残したままほぼ空き家状態である。都市住民の方の心情も理解できるが、町中は寂しくなっていくばかりだ。

 そのような地域が増えていると嘆く一方で、都市部では大きな高層マンション群が建ち並ぶ活況ぶりだ。片や賑やかだった地域は縮んでいき、狭い都市部は「縦」に伸びていく。これが今の日本の現状である。


 いまこそ発想を転換する機会だ。この都市部の狭いところを上に伸ばして住むのではない。地域の空き家や空き事務所などを再活用して歯抜け状態になったところを埋めていく。もう一度町の賑わいをつくる発想が必要だ。コロナ禍で場所を選ばない働き方が可能な職種や、地域でしか味わえない職種もあることに気づいた。町中の空き家を開放すべきである。レストラン、民宿等創造できる。そこにはさまざまなスペースが描け、事務所などさまざまな仕事が可能である。「自由自在」に創造する機会だ。地域のこれからの活用法だ。アルベルゴディフーゾ的思考だ。

 アルベルゴディフーゾは、イタリアで始まった、街中や集落の古民家を客室とし、一体で宿泊経営を行う分散型宿泊施設の考え方である。空き家を活用した分散型の宿である。有田町も十分に取り組む価値がある。既存の活かしきれない資産を、地域の皆で運営にあたる。地域の方の収入も上がり関係人口増に、そして活性化につながる。それぞれの地域の個性があるアルベルゴディフーゾ風があっていい。有田町は重要伝統的建造物群保存地区の通りがあり、古民家で空き家も沢山ある。この通りは多くの欧州の観光客にも喜ばれている地域である。

 いまこそ、もう一度地域を「横」に展開する時ではないか。