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投票率向上への一基礎自治体の試み

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年9月4日

宮城県利府町長 熊谷 大宮城県利府町長 熊谷 大​​

​ 利府町は、宮城県のほぼ中央に位置し、人口3万6千人弱の町である。政令指定都市の仙台市の中心部まで車で約30分の通勤・通学圏という点や、インターチェンジが4つあるなど、町外へのアクセスの良さや、医療・商業・公共施設等の充実、自然と都市のバランスが良い住環境が魅力となっている。

 さて、近年の利府町の投票率は、衆議院議員総選挙57.36%(県知事選挙と同日・R3.10.31)、町長選挙35.26%(R4.2.6)、参議院議員通常選挙51.08%(R4.7.10)と、国政選挙は県内平均を上回っているものの、低迷している。
 そのような中、将来の政治参画及び投票率向上に取り組むため令和元年度から挑戦している「こちら町長室」(小学校高学年を対象に、地方自治の現場である役場等を町長が自ら気軽に案内する企画)も定着し、子どもや保護者に好評である。しかし、若い世代の投票率は低迷しており、さらなる主権者意識の醸成を図るため、「親子で投票へGO!」という新しい取組に挑戦した。

 令和3年度から選挙管理委員会が実施した「親子で投票へGO!」は、公職選挙法において選挙人の同伴する子どもが投票所に入場できることを利用した、町内小学生対象の入場体験企画である。事前に学校を通して配布するチラシの“選挙についての質問”に子どもが回答し、保護者と共に投票所に入場する。保護者の投票後、出口付近の専用投票箱に回答用紙を投函すると、後日抽選で、選挙管理委員会から文房具などのプレゼントが贈られる。
 投票所は、選挙権を持たない子どもにとって新鮮な場所であり、投票用紙や記載台に興味津々といった感じで、保護者が何を書いているかのぞき込んだり、「ここで受付をし…、多くの人が投票所で働いて…」など子どもに丁寧に説明する保護者の姿も見受けられた。中には「こちら町長室」に参加した子どももいて、地道な啓発が主権者意識の醸成につながっていることが実感できる。

 この企画で期待される効果は2つ。1つ目は児童が選挙に“慣れる”ことである。小さな頃から選挙に行くことに“慣れる”、投票所の雰囲気に“慣れる”、それにより、子ども自身が抵抗なく、選挙デビューできるのではないか。2つ目は、親世代(主に30・40代)の投票率の向上である。全国同様、本町でも30・40代の投票率は低い。「親子で投票へGO!」を周知するため学校を通じてチラシを配布しているが、子どもの会話でも話題となり知名度も上がっている。今まで選挙に無関心であった選挙人も、「親子で投票へGO!」に参加してみたい!という子どもに連れられ、成果も見え始めているのではないか。

 未来の投票率だけでなく「今」の投票率にも目を向けなくてはならない。利府町では選挙人の利便性向上を目指し、令和4年度に幅広い年代が訪れる町内の大型商業施設「イオンモール新利府南館」に期日前投票所を設置した。期日前投票所は2か所目となるが、町有施設以外への設置は初めてである。同施設内の掲示板を活用したデジタルサイネージによる投票の呼びかけや同施設での街頭啓発により、大型商業施設のメリットを生かした取組を展開した。

 「親子で投票へGO!」の取組や期日前投票所増設の功績が認められ、利府町選挙管理委員会は令和4年7月10日執行第26回参議院議員通常選挙に係る総務大臣表彰を受賞した。投票率の低下に歯止めをかけるため、「こちら町長室」に引き続き挑戦した新たな取組が認められたことは大変喜ばしい。
 「親子で投票へGO!」の“選挙についての質問”は実施の都度変える。今回は「これからの日本は“  ”(な)国になってほしい。」、子どもからの回答で一番多かったキーワードは「平和」、次いで「安心・安全」だった。昨今のロシアのウクライナ侵攻や長引いた感染症対策を、子どもは敏感に捉えているのだろう。このような時期だからこそ、子ども自身の現時点での意識的な政治参画、また、将来の政治参画を促したい。子どもが想う平和な日本を子ども自身が創っていけるよう、引き続き主権者教育を重要視していきたい。