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「鎮山親水」に思いを馳せて

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年12月20日

熊本県山江村長熊本県山江村長 内山 慶治​​

山江村は、熊本県の南部、人吉球磨盆地の北西部に位置する面積121・19㎢、人口3、400人の小さな農山村です。急峻な九州山地の脊梁を北に有し、北から南へ流れる万江川、山田川が日本三大急流の球磨川に合流しています。南部は里山が広がり、盆地特有の寒暖の差と南向きの斜面で栽培される栗は、昭和52年の天皇陛下への献上栗として重宝され、都市部の高級栗菓子の原材料として使われており、秋に開催している「山江栗まつり」は1万人近い人々の参加で賑わいます。また、地域情報を映像として発信する直営のCATVから始まった地域づくりの取組は、ICT教育へと発展し、子どもの学力はもとより、移住者が増える等、地域にも変化をもたらし情報通信月間(平成20年)及びICT教育アワード(平成30年)の総務大臣賞を受賞しました。

本村は明治22年4月いわゆる明治の大合併以来、昭和、平成の大合併時にも合併の道を選択せず、昨年の3月末日に村政施行130周年の記念すべき年を迎えました。

ただ、20年後に向けてのタイムカプセルに入れた私のメッセージには「現在の課題は、令和元年暮れから令和2年初頭に中国で発生した新型コロナウイルスの感染者数が、世界で40万人に及ぶ勢いで広がり世界そして日本を震撼させ…(中略)。本村においても不特定多数が集まるイベントや会議はすべて中止、不要不急の会議も中止及び延期を強いられており、いつ収束するか検討もつかない見えない恐怖の敵と戦っているところであります。」と記しています。

「20年後の村民の皆さんへ」としたこのメッセージですが、令和3年10月現在では、コロナウイルスの感染者は、世界で40万人どころか、2億4千万人、日本でも170万人を超え感染拡大が止まらず、世界の歴史さえも変える影響を及ぼしています。この、人が自由に動けない状況は、暮らし、社会活動の変化、コミュニティの希薄化、さらに大きな経済損失をもたらしました。本村でも、行動自粛による介護認定の審査件数が増加。保育園の先生の口元がマスクで隠れ、口の形がわからず子どもが言葉を覚えるのに影響がある。など思いも寄らないところの報告を受けています。

加えて日本各地で大規模な自然災害が多発する中に、人吉球磨地方も、後に「令和2年7月豪雨災害」と名付けられた線状降水帯の停滞による豪雨で壊滅的被害を被りました。大きく報じられてきた人吉市、球磨村は元より、域内10市町村全体に被害が広がり、本村も応急的復旧工事から、ここにきて本格復旧工事が始まったばかりです。発災当初より全国各地の町村会の皆様を始め、関係機関の方々の支援には物資のみならず精神的にも励まされ心から感謝申し上げます。まさにダブルパンチの中での自治体経営を強いられ、職員にも随分負荷がかかっているのを感じておりますが、このパンデミックと大規模化する災害は色んなことを教えてくれています。

本村では災害の検証を通し復旧・復興、そして村づくりの理念として「鎮山親水」と掲げました。発災直後に下流域から上流域に向かい歩くと、海岸域はゴミの散乱、下流域は津波のような水による家屋浸水・流失、中流域は土砂の大量堆積、そして上流部は山林崩壊という事実でした。上流部からの山林崩壊を起因に土砂が堆積し、その土砂堆積により川底が上昇して越水、堤防破堤が起こり、森からの流木が海岸を埋め尽くすという災害の現象が見えてきました。しかし、面積の90%が山林の本村も経済林としての限界から人が森に入らなくなり荒れています。「森づくり」により豊かな暮らしを取り戻すことは災害に強いゼロ炭素社会へ向けての実践でありSDGsの事業そのものです。そして人の都市部への一極集中がパンデミックに弱い社会構造も見えてきています。

山江村のタイムカプセルが開く20年後の社会はどのように変わっていっているのか、将来に夢を馳せながら幸せな暮らしであることを願うばかりです。