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「不易流行」と「人が人を呼ぶ」

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年9月6日

鳥取県江府町長鳥取県江府町長 白石 祐治​​

全国で一番人口の少ない県、鳥取県の中でも一番人口の少ない市町村。それが江府町です。「河川が合流し府(中心)となす」というのが町名の由来で、きれいで、美味しく、豊かな水が町の自慢です。ふるさと納税の返礼品の約7割が、地元の工場で製造されているサントリー天然水というのも、江府町が水の町であることの象徴の一つかもしれません。

江府町を語る上でのもう一つのキーワードは、「江尾十七夜」です。戦国時代、尼子と毛利が中国地方の覇権を争っていた頃、尼子方の豪族であった江美城主蜂塚右衛門尉はとても徳のある人でした。毎年旧暦の8月17日に城を開放して、領民も武士も無礼講の宴を開いていたということです。最後まで義を貫き、尼子を裏切ることなく討ち死にしてしまった城主を偲んで、その後毎年毎年旧暦の8月17日に領民たちは踊り続けました。これが「こだいぢ踊り」として県の無形民俗文化財となり、現在まで継承されています。「江尾十七夜」はこだいぢ踊りの他にも、火文字、灯籠流し、山車、相撲、太鼓、花火等、数々の行事が同時進行していきます。そして、狭いメインストリートいっぱいに立ち並ぶ屋台、人の波。この日だけは町の人口は1万人以上になります。町の一部の集落がその会場なので、密度はかなり高くなります。熱気あふれる非日常的な世界がそこに生まれます。私も子どもの頃からこの祭りが大好きでした。さまざまなイベントや屋台で楽しめるのもその要因ですが、長い間出会うことのなかった人と再会したり、友だちの家に集まってプチ同窓会が始まったりと、人と人との出会い、交流の場が自然にできるところが素晴らしいと思います。片想いだった人の浴衣姿をチラリと見るだけで、何とも言えない気持ちになったものです。このように、江府町民にとってなくてはならない「江尾十七夜」は、昨年の8月、新型コロナウイルス感染症対策のため、やむを得ず中止になりました。残念で残念でたまりませんでした。江府町民はもちろんのこと、町外に出られた出身者、そして、この祭りを楽しみにしておられた多くの町外の方も、同じ気持ちだったと思います。しかし、江府町観光協会の担当者が一念発起。こだいぢ踊り保存会に協力をお願いして、こだいぢ踊りだけを無観客で実施することを企画しました。また、せっかくなのでその様子をYou Tubeを使って全世界に発信することも。この様子はドキュメンタリーとしてNHKに取り上げられ、30分番組として、山陰、中国地方、そしてBSでも放送され、大きな反響がありました。

私は町長に就任してから、まちづくりのための方向性を示すいくつかの言葉を発してきました。その一つが「不易流行」です。「古き良き伝統をしっかりと受け継ぎながら、進歩に目を閉ざさないことにより、理想を創造する。」という意味があります。まさに、江府町には戦国時代にそのルーツを持つ「こだいぢ踊り」があり、それを核にして「江尾十七夜」を時代に合った形で作ってきました。コロナ禍でも心折れることなく、想いの強さは負けない、そんな誰かが言い出したことを、周りの人達がしっかり支えて盛り上げていく。顔の見える小さな町だからこそ、こうした支え合う気持ちがとても大切です。新型コロナウイルスワクチン接種でも、役場職員のこまやかな配慮について多くの町民の方から感謝のお言葉をいただきました。おかげさまで職員は大いに成長し、今後もより良いサービスを心がけるでしょう。

最後に、江府町は他の中山間地の小さな自治体と同様に、少子高齢化、人口減少という大きな課題に直面しています。その流れに少しでも抗うためには、町の自慢である水と併せて、困難を何とか乗り越えようとする一人一人の力がとても重要です。その人の魅力に惹かれ、江府町に関心を持っていただける人が一人でも増えることを期待しています。「人が人を呼ぶ」これも私が大切にしている言葉の一つです。