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私とふるさと

印刷用ページを表示する 掲載日:2021年3月29日

井上幸春町長福岡県みやこ町長​​ 井上 幸春​​

私は、福岡県の旧犀川町大坂(現みやこ町)という周囲を山に囲まれた大変鄙びた田舎に生を受け、高校卒業まではそこで暮らしました。その後郷里を離れましたが、町長に就任して三十数年ぶりに実家で生活するようになり、高校時代にタイムスリップしたような気がしている昨今です。

昔は駅周辺へ行くことを停車場へ行くと言っておりました。公共交通がないため我が家からは徒歩か自転車で行くほかなく、徒歩で1時間以上、自転車でも20分以上の時間を要しました。高校時代は自転車で、毎日往復16㎞の道のりを雨の日も雪の日も通学していました。子どもの頃はこの田舎を出て外の世界で学び、いつの日か故郷へ貢献したいと思い、高校卒業後は進学のため上京し、都会での暮らしを経験しました。当時は学生運動やベトナム戦争反対運動が激しく、東大入試が中止された年もありました。私の周りの学生の大半は学生運動に熱心だったと思います。私には留学の夢があったのでバイトでお金をためることと武道に専念した4年間でした。

五木寛之の『青年は荒野をめざす』に憧れたわけではありませんが、横浜から船に乗り、シベリア鉄道でモスクワ、レニングラード(サンクト・ペテルブルグ)を経由し、フィンランドのストックホルムに到着。その道中、旧ソビエト連邦領内では目に見えない閉塞感を感じ、フィンランドに入国した際は何とも言えない解放感を味わい、自由って素晴らしいなあと感じたことは今でも脳裏に残っています。その後、ヨーロッパの中心都市を旅しながら、目的地のフランスへ辿り着き、ブルゴーニュ地方にある大学で2年半近くの留学生活を経験しました。

フランス留学中は、生活費を稼ぐためにベトナム人と一緒にダンスパーティーの助手をしたり、武道の指導をするなどして空腹を凌ぎました。当時は情報技術が発達しておらず、ましてやSNSのない時代。人は優しく、仄々としたものがあり、人間がおおらかだったような気がします。情報技術の発達により世界は便利になった反面、人情が失われ、人間がせっかちになり、待つことの楽しさを失ったような気がします。私が生活していたフランスは、まさに、ベルエポックの時代。世界はあの平和な時代には戻れそうにもありません。今後、世界はどの方向に進むのだろうかと考える日々です。

さて、帰国後は国会で代議士秘書を13年務め、先輩の勧めで生まれ故郷へ帰り福岡県議会議員選挙に出馬。40歳で福岡県議会議員となり、5期19年務めた後、みやこ町長選挙へ出馬、当選し今日に至ります。県議時代は京築地域にとって大事な北九州空港と東九州自動車道の早期完成、水資源確保の伊良原ダムの完成等が目標でした。夢のまた夢と言われた事業は全て完成し、地域の浮揚につながっていると確信しています。

みやこ町は平成18年3月20日、勝山町、犀川町、豊津町の3町が合併し誕生しました。面積は福岡県下の町では一番広く、合併当時の人口は2万人を超えていましたが、少子高齢化により現在は2万人を切りました。

みやこ町を含むこの地域一帯のことを「京都」と書いて「みやこ」と読みます。これは第12代景行天皇がこの地域に仮の御殿を建て滞在し、長らく住まわれた処なので「みやこ」と呼ぶようになったという由来が日本書紀に記されています。また、奈良・平安時代には豊前国府・国分寺、さらには明治時代初期には豊津藩・豊津県の藩庁・県庁がおかれるなど歴史遺産の豊富な地域です。

私は町長就任の折、これらの歴史遺産を町の活性化に活かそうと「日本一元気なみやこ町」をスローガンに掲げ、町に眠っている「宝」を掘り起こしSNSなどで情報発信してきました。また、もう一つのスローガン「住めばみやこのみやこ町」のもと、若い人にとって「子育てがしやすく、住みやすい町」、高齢者にとって「安心して暮らせる町」を目指してきました。特に若者の定住促進のため、結婚祝金(10万円)、出産祝金(10万円、第4子以降20万円)、チャイルドシート購入補助金、学校給食費補助金(一定条件を満たした第3子以降無料)、医療費の助成(高校卒業までの一部負担額を除く医療費全額を助成)等により子育て世帯を応援してまいりました。また、これからの時代を生きる子どものため英語教育に力を入れ、小学生による英語劇、中学生による英語スピーチ大会、中学生を対象としたハワイでのホームステイ事業を行ってきました。

さて、現在、世界的な新型コロナウイルス感染症の発生により社会は混乱と自粛の中にあります。そんな中コロナ禍でリモートワークが浸透するなど世の中は急速にデジタル社会へと舵を切りつつあり、高速通信やスマートフォンなどの普及を機に地方自治体にもデジタル技術による業務変革が求められております。みやこ町は、美しい水と緑、そして数多くの歴史遺産に恵まれた町です。これらの環境とデジタル技術の融合により、子どもたちが素直に育ち故郷を誇れるような町、高齢者の方にとっては安全で安心して暮らせる町を目指し引き続き取り組んでまいります。