ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村長随想 > 持続可能な「美しい村」を目指して

持続可能な「美しい村」を目指して

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年6月8日

村長顔写真山形県大蔵村長​ 加藤 正美

大蔵村は、山形県の北部、最上郡の最南端に位置し、明治22年町村制施行以来、一度も町村合併を経験することなく、令和という新しい時代の幕開けとともに村制施行130周年という節目を迎えました。

人口規模では、山形県で最も小さな村で、多くの自治体と同様に人口減少問題に直面しており、少子化対策や定住促進など多方面からさまざまな施策を展開しています。

私は、大蔵村で農家の長男として生まれました。幼少のころから祖父に、長男は家業を継ぐものだと教え込まれ、当然のように農業の道に進み、稲作を中心とした専業農家を営みました。青春時代は、いざなぎ景気の真っただ中で、多くの若者が都市部へ就職する中、地元に残った仲間とともに青年団活動に没頭し、減反政策という大きな転換期を迎えた農業の将来について語り合い、さまざまな形で実践しました。

そうした経験から、45歳の時に村議会議員活動を始めましたが、自分の考える村づくりを行うには、議員活動では限界があると感じ、村長選挙に挑戦し現在に至っています。

本村は、農業と観光産業が基幹産業でありますが、私は農業に元気がなければ村の活性化はあり得ないと考えています。村の観光産業を支える肘折温泉も、近郷近在の方々が農閑期に骨休めをする温泉地として栄えてきましたので、観光振興を図るうえでも農業振興が急務との思いです。

本村の農家の多くは、稲作を中心とした単作経営だったことから、減反政策の拡大による所得の減少と併せて、農業分野においても急速な機械化が進み、余剰となる労働力の受け皿づくりが課題でした。私は、専業農家だったという自負もあり、企業誘致に頼るのではなく、先祖伝来の農地を守り、新規作物の導入による農業で生活できる所得向上を目指した施策に挑戦することにしました。

その1つが、夏秋トマト、ミニトマトの導入と普及です。減反政策により余剰となった農地でのトマト栽培を普及するため、水田の畑地化や雨よけハウスの導入に大きな支援を実施した結果、トマト農家の急増とともに、農家所得が目に見えて増加し、雇用の創出にもつながっています。さらに、若い方々の新規就農を容易にするため、平成22年に農業後継者自立支援に関する条例を制定し、篤農家での研修制度や利子補給制度の導入、仲間づくりに対する支援も行っています。こうしたことから、若い方々のUターンによる後継者や、新規就農する方が多く見られるようになっています。若い方々の定着とともに、子どもの数も一時的ではありますが増加傾向となるなど明るい兆しが見られています。

また、本村の居住区域の半分を占める山間地域では、古くから傾斜地を耕した棚田で稲作を中心とした農業を営んでいます。耕作条件不利地であり、減反政策により耕作を放棄する農地が増加し、離村する方も多く見受けられるようになりましたが、生活雑排水が一切入り込まない清流で稲作をおこなっているという、この地域特有の環境を前面に棚田米としてブランド化を図り高価格での販売を目指しています。過疎化と高齢化により後継者不足が大きな課題となっていますが、この地域に限定した農業機械更新補助事業に取り組むとともに、気候条件に合う花卉栽培の導入による農業振興と地域コミュニティを維持してまいります。

本村は、「日本で最も美しい村」連合の立ち上げの村として、志を同じくする全国の仲間とともに活動を行っています。自然と人間の営みが長い年月をかけて作り上げた大蔵村を、損なうことなく、より良く、より美しくして次世代に引き継ぐことが今の時代に生きる私たちの使命です。

多くの自治体で、人口減少が大きな課題となっておりますが、私は専業農家出身との心意気を持って、村民が主体となった協働の取組により、農業を自然と結びついた持続可能な「なりわい」として成長させ、地域資源を大切にした、魅力あふれる元気な「きよらなる里」として、誇れる村を目指してまいります。