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豊かなふるさとの原風景を次世代に引き継いで!!

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年7月2日

栃木県塩谷町栃木県塩谷町長  見形 和久

水を越え岩に到ると胸をどる
高原山を得しようにわれ


歌人、与謝野晶子が関東平野を鉄道に乗り、北上した際、車中から高原山を眺め、本格的な山並みに感動して詠んだ歌の一句であると言われています。

一方で、昨年他界された本町出身の作曲家船村徹先生は、高原山こそ「山の日制定」発祥の地であり、心の拠りどころといわれておりました。そのうえで、地元新聞紙面に自らの想いを綴られたのですが、幼少期から慣れ親しんだ高原山を「ふるさとの原風景」と書き残されています。

朝まで雨が残り、開催が心配された5月19日、船村徹先生の山の日制定支援活動を目的の一つとする高原山の山開きが、「ふるさと高原山を愛する集い実行委員会」主催により行われました。

今年の参加者は私を含めて47名、昨年とほぼ同数でした。登山口となる県営の土上平放牧場では、まだ放牧されて日の浅い小牛たちの大歓迎を受けました。その後、祠に座する姥神さまに安全祈願のお参りをし、登山が開始されました。

道中、アジサイに似た小さな白色の花をつけるオオカメノキや、紫に色付いたミツバツツジが咲き誇り、アカヤシオやシロヤシオにあっては、標高に合わせたように、すでに散った低地部から満開の中腹部、まだつぼみの山頂部など、花や木々の美しさに感嘆しながら、歩みを進めました。登頂を目指して4時間あまり、1人の落後者もなく、無事に釈迦ヶ岳の山頂に到着しました。

登頂を達成した登山者の顔には、何とも言いようのない清々しさが溢れ、山の素晴らしさを実感した瞬間です。

高原山というのは、実は山の総称であり、実際に存在することなく、標高1、795mを誇る釈迦ヶ岳を最高峰に、中央に中岳、さらに西には西平岳、その北側には控えめな鶏頂山が連なります。また、釈迦ヶ岳の東側には剣ヶ峰、その東南にはミツモチ山が位置します。

高原山は、下流域に暮らす人々に、大きな恵みをもたらしてくれています。その一つが昭和63年に環境庁(当時)により選定された、全国名水百選の「尚仁沢湧水」であります。連日、この名水を求めて訪れる人々も多く、町はこの豊かな名水環境を、将来にわたって保全するため、平成26年9月に「高原山・尚仁沢湧水保全条例」を制定し、環境の保全とみだらな開発行為を制限しております。

豊かな自然、そしてその自然が育む環境保全のため、高原山は多くの先人たちが、何度となく汗を流してきた歴史を経て、今日の姿があります。私たちもまた、この雄姿を次世代へと確実に護り伝えていくことが、大きな責務であります。

現在、本県においては、第2期とちぎの元気な森づくり県民税事業を活用し、各地において森林の適正な管理活動が実施されています。そして、幸いなことに森林経営管理法が、先頃国会において可決成立されました。このことにより、長きにわたって悲願としてきた、森林の整備等に取り組むための税財源制度が、実現されることとなりました。

このように、都市部と比較して農山村地域には、追い風となる環境が図られつつあるわけですが、本町を含めた農山村地域の多くは、人口減少や高齢化の進展に伴う、林業従事者の減少などにより、環境の維持保全すら厳しい状況にあります。

よって今後、こうした課題と向き合いながら、豊かなふるさとの原風景を護るため、強い決意を持って、農山村の維持・再生に取り組んでまいりたいと考えるものであります。