わが国の森林・林業を取り巻く環境は、木材価格の低迷、林業従事者の減少等依然として厳しい情勢にあり、山村では過疎化・高齢化が進行している。町村は地域森林の維持管理において、大きな役割を担っているが、国土保全、水源かん養等年間70兆円を超える森林の多面的・公益的機能の発揮や地球温暖化防止のため京都議定書で定められた二酸化炭素排出量削減の目標達成には、森林・林業基本法及びそれを具体化した森林・林業基本計画に基づき、森林の整備、木材の供給・有効利用、山村の活性化を促進する必要がある。
よって、国は次の事項を実現されたい。
1.森林・林業基本計画に即した施策の総合的推進
(1)新たな森林・林業基本法に基づき策定された「森林・林業基本計画」に即し、重視すべき機能に応じた森林整備の目標や木材の供給・利用の目標の達成に向けて森林・林業施策の総合的・計画的な推進をはかること。
(2)国民生活において欠くことのできない森林の多面的・公益的機能を持続的に発揮させるため、森林整備に対する新たな財源の確保等、国民的支援の仕組みを構築すること。
2.林産物の特性に配慮した貿易ルールの確立
林産物に関するWTO交渉においては、地球環境の維持、森林資源の持続的利用の観点にたって、輸出国、輸入国双方の林業・木材産業の健全な発展に資する貿易制度の確立・違法伐採を抑制するルールづくりに努めるとともに、関税の引き下げ等により国内林業の採算性がこれ以上低下することのないよう配慮すること。
また、急激な輸入量の増加により、国内林業が深刻な打撃を受ける事態が生じた場合は、一般セーフガード(緊急輸入制限措置)の発動を迅速に行うこと。
3.地域における適切な森林管理対策の拡充と森林基盤整備の推進
(1)「市町村森林整備計画」を円滑に推進するため、要員の確保を含め町村への財政措置を拡充すること。
また、地域の実態に即した土地利用の調整をはかるため、保安林の指定、解除に係る町村長の権限を強化すること。
(2)担い手対策、公有林化、上下流連携による森林整備、地域材の利用等を一層促進するため、「森林・山村対策」、「国土保全対策」を強化すること。
なお、平成十四年度をもって終了予定の「ふるさと林道緊急整備事業」については、山村地域の定住環境改善のため、継続実施すること。
(3)町村における森林・林業行政の充実をはかるため、地方交付税において測定単位を森林面積とする「森林・林業行政費」を新設すること。
また、投資的経費の補正要素に「林道延長」を加味すること。
(4)「緊急間伐五カ年対策」を着実に実施し、森林の機能充実をはかるとともに、間伐材の利用を促進すること。
(5)野生鳥獣と人間との共生を基本とした鳥獣被害防除対策を確立するとともに、松くい虫等の森林病害虫防除制度を強化すること。
また、被害未発生地域に対する予防対策を講じること。
(6)森林法に基づき区分された「水土保全」、「森林と人との共生」、「資源の循環利用」という重視すべき機能に応じて森林整備を効果的に促進するため、造林・林道・治山事業の拡充強化を図ること。
また、大規模林業圏開発林道事業を推進すること。
(7)林道等の新設・改良を行う場合の財政措置を拡充するとともに、用地費については一般道路に準じた扱いとすること。
なお、森林管理道を補完する作業路の開設事業については多額の経費を必要とするので、森林管理道に準ずる助成措置を講じるとともに、災害復旧に係る補助制度を新設すること。
(8)国民参加の森林や緑をまもる運動を推進するため、緑化推進事業、ボランティア活動を支援すること。
(9)相続による森林保有の細分化、世代交代による境界の不明確化、採算性の低下等により放置森林の拡大が懸念されるため、森林管理を安定的・効率的に施業・経営を行える者への集約化および町村、第三セクター、森林組合等による公的な関与・管理を推進すること。
また、公益性の高い森林の公有林化にあたっては、所得税の減免措置を講じること。
(10)林地への廃棄物の不法投棄等を防止するための対策を講じること。
5.担い手の育成と経営改善
(1)林業労働力の確保・育成、および森林組合作業班の体質強化をはかるため、「林業労働力の確保の促進に関する法律」の適切な運用に努めるとともに、通年雇用制度の確立、他産業従事者並みの所得の確保、社会保障制度の整備、研修制度等の充実をはかること。
また、緊急地域雇用創出特別交付金を活用した森林環境保全等の雇用創出事業(いわゆる「緑の雇用対策」)については、安定的な雇用を確保するため、現在6ケ月未満に限定されている雇用期間の大幅な延長をはかるなど実施要件を緩和するとともに、恒久的な事業制度化をはかること。
(2)地域林業の中心的担い手である森林組合を強化するため、広域合併、組織・経営基盤強化の条件を整備すること。
また、生産森林組合が分収林契約に基づく分収金を組合員に分配した場合、法人税の所得の計算上、従事割配当と同様損金算入を認めること。
(3)競争力のある木材産地を形成するため、担い手への森林施業や経営の集約化、木材の加工流通体制の整備を推進する林業・木材産業構造改革事業を推進すること。
(4)しいたけ等特用林産物の国際競争力を高めるため、高品質しいたけの生産や生産・流通コストの削減に向けた支援対策を推進すること。
(5)農林漁業金融公庫資金、林業改善資金、木材産業等高度化推進資金の貸付枠の確保、貸付条件の改善を行うこと。
5.木材の安定供給と需要の拡大
(1)木材の拠点的加工・流通施設等を整備し、流域一体となった原木の安定的供給体制の推進、木材産業の体質強化をはかること。
また、国産材素材価格の安定をはかるための対策を講じること。
(2)公共建物、公共土木事業、住宅建設における国産材の利用促進をはかるとともに、林地残材等の木質バイオマスエネルギーとしての活用をはかるため、ガス化等の技術開発及び施設整備に対する支援を強化すること。
また、国産材を利用した場合の税制・金融上の優遇措置の拡充、木材利用に関する情報提供・PR活動等により木造住宅の需要拡大を推進すること。
(3)住宅の品質確保の促進等に関する法律の施行に伴い、より良質で安定した木材製品の供給が求められているため、木材の乾燥の促進等に対する支援を一層強化すること。
また、集成材等の高次加工技術の研究開発について、国産材利用を促進する観点から早急に取り組むこと。
6.中山間地域対策の推進
(1)森林の有する多面的機能の発揮をはかる観点から、森林施業の実施に不可欠な地域活動を支援する森林整備地域活動支援交付金制度の円滑な推進をはかること。
なお、協定の締結、実施状況の確認等に係わる町村の事務を簡素化し、町村に過重な負担がかからないようにすること。
(2)山村と都市との交流活動・施設等の充実により、双方の住民にとって、森林・山村が活力と魅力ある地域となる施策を推進すること。
7.国有林野所在町村に対する森林管理対策の充実
国有林野事業の改革に伴う組織・要員の合理化等により、森林の維持管理が低下することのないよう適切な森林整備を行うこと。
また、国有林、民有林一体の管理体制を強化するため、流域管理システムに対する支援措置を拡充すること。