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今後の基礎的自治体のあり方について(地方制度調査会専門小委員会における「西尾私案」)に対する意見

印刷用ページを表示する 掲載日:2002年11月12日

全国町村会(会長・山本文男福岡県添田町長)は、平成14年11月12日、常任理事会を開催し、地方制度調査会専門小委員会(松本英昭小委員長)に西尾勝同調査会副会長が提出した「西尾私案」について、「人口規模の少ない町村を切り捨てるという横暴極まりなき論旨であり、絶対容認できない」とする「今後の基礎的自治体のあり方について(地方制度調査会専門小委員会における「西尾私案」)に対する意見」を議決しました。
 同日、山本会長が松本専門小委員長に面談し、同意見書を提出しました。


△松本専門小委員長(左)と面談する山本会長                   

 

今後の基礎的自治体のあり方について(地方制度調査会
専門小委員会における「西尾私案」)に対する意見

 全国町村会は、これまで合併を進めるにあたっては、まず理念、将来像を示すべきであると主張してきた。
 理念や将来像を示すにあたっては、事前に我々町村側の意見も十分きき、協議し、合意を得るという手順を踏んだ後、示されるべきことは当然であり、過日の専門小委員会のヒアリングの際にもこの旨申し上げたところである。
 この「私案」は、たとえ事前に示されたとしても到底合意できるものではないので、以下、意見を申し述べたい。

1.基礎的自治体論について

○市町村を人口一定規模以上の基礎的自治体に強制的に集約していくという考え方は、地方分権改革の中で掲げられてきた、「自己決定、自己責任」の理念や、分権型社会の構築にあたって重要であるはずの個性の発揮の理念を放棄していると言わざるをえない。

○地方分権の担い手としての受け皿論が展開されているが、基礎的自治体に対し、具体的にどういう事務や権限を移譲していくのか、また、そのプログラミングも全く示されていない。
 現実に市が処理している程度の事務というが、現在町村が処理している事務とほとんど違いがないのではないか。
 すべての市が、事務を単独で完結して行っているわけでなく、近隣町村と協力して一部事務組合又は広域連合等を設置して処理しているケースも多く、「現に市が処理している事務」を根拠にして、強制的な手法によって基礎的自治体を人口によって一定規模以上に再編成していくという考え方は無理がある。

○これまで、町村は、多様化する住民ニーズや新たな行政課題に対し、工夫によって、連携によって、地域の実情に沿った個性豊かな行政を展開し、最も住民に身近な行政主体としての役割を果してきたし、また、行政改革にも懸命に取り組んできた。このような実態を評価せず、また明確な根拠も示さず、小規模なものは能力がないと一方的に決めつけ、基礎的自治体への再編を説くことは納得できない。

○地域ごとの歴史や文化や地形や面積等を無視して、全国一律に人口だけで集約して数合わせの自治体をつくるという発想は、経済効率・規模の拡大にのみ視点を置いたものであり、政治的・行政的空洞化を招きかねず、いわば中身のない空虚な基礎的自治体をつくるだけで、ここで述べている分権の担い手となるとは到底思えない。

○住民生活にとって、必要不可欠な公共サービスは、最も住民に身近な自治体で実施すべきであり、これは自治体の規模の大小、財政の裕・不裕を問わず、自治体共通の責務である。その意味から「小規模」といえども、すべての市町村は基礎的自治体として位置づけられるべきであり、多様な自治体が共存しあえる地方自治制度であるべきである。

2.強制的合併手法について

○市町村合併は地方自治の根幹に関わり、将来にわたる地域のあり方や住民生活に大きな影響を与える最重要事項である。
 町村は歴史的な経緯、文化・風土や自然的・地理的条件等が異なっている。合併については、あくまで関係市町村の自主的な判断を尊重することが基本である。従って、合併は財政効率・経済効率を優先させた強制的なものであってはならない。
○全国の町村には、中山間地域等地理的な条件等により、合併になじみにくい地域があり、このような地域には広域連合制度の改良・改善をはかった上で、その活用を検討し、将来的な合併気運の醸成をはかりながら、いわば緩やかな合併を目指すということも一つの手法として真剣に検討すべきである。

○一定規模の人口に満たない市町村を強制合併の対象としたり、権限の制限・縮小等を行うことは、地方自治の本旨にそぐわないものと考える。
 地域のことは地域の住民で決めてこそ住民自治であり、国が一方的に住民サービスの権限を制限・縮小したり他の基礎的自治体への編入を法定等によって義務づけることは、まさしく自治の否定そのものに他ならない。

3.基礎的自治体に再編成されなかった自治体について
(1)事務配分特例方式(垂直補完)
○地域にかかわることは、身近な行政主体である市町村が行うべきであり、都道府県や他の市町村が行うことは、住民の声が届きにくくなり、地域の実情に合った個性豊かな施策が展開できなくなる。
 
○地方分権の大きなテーマが、住民に密接なかかわりあいのある事務は、できるだけ住民に最も身近な行政主体である市町村に権限を移譲して、行わせるということであるのならば、都道府県に補完させるという「私案」は、この流れに逆行したものである。

○都道府県が市町村の事務を補完して行うことは、広域自治体としての都道府県の性格を曖昧にし、また直接処理を行おうとする場合、出先機関を整備しなければならないことも考えられ、行政改革の理念にも反する。
 
○都道府県が直接処理をせず、他の基礎的自治体に委託する場合、事務を処理してもらう市町村は属地扱いを受けるという感じを持つようになろうし、責任の所在が不明瞭になり、住民の意向が行政に反映されにくくなる。

(2)内部団体移行方式(編入による水平補完)
○人口一定規模未満の自治体を、その意向を無視して、他の基礎的自治体の内部団体に自動的・強制的に編入することなど到底容認できない。

4.国土保全について

○これまで町村は、森林の水源涵養機能や食糧自給の機能等の重要な役割を果たしてきた。しかし、「私案」では、理論的に明確な根拠も示さないまま、町村が小規模であるということのみで、今後はそれらの重責に堪えられないと断定している。地域の現場を熟知している住民たる町村の職員がいてこそ、きめ細かな行政を展開できるのであり、「私案」は国土を守り、支えてきたのは我々町村であるという誇りを根底から否定するもので、とても納得できるものではない。
 
「私案」は財政効率、経済効率、規模の論理を優先することで貫かれており、地方自治・地方分権の理念に照らしても問題があるばかりでなく、総じていえば、人口規模の少ない町村を切り捨てるという横暴極まわりなき論旨であり、絶対容認できない。

平成14年11月12日

                                    

全国町村会長
山本 文男

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