参議院厚生労働委員会(阿部正俊委員長)は、7月16日、「健康保険法等の一部を改正する法律案」の審議における参考人質疑を行い、参考人として同委員会に出席した山本文男全国町村会長(福岡県添田町長)が国民健康保険制度の厳しい現状や医療保険制度の一本化等について意見陳述を行いました。
山本会長の意見陳述の概要と質疑応答は次のとおりです。
平素は町村行政につきまして種々ご高配を賜り、また、本日このような意見陳述の場を設けていただき、厚く御礼申し上げます。
この機会に国民健康保険を運営する市町村の立場から、かねてより主張し続けております医療保険制度の一本化の必要性、そして、一本化実現までの当面の措置としての健保法改正案の早期成立について意見を述べさせていただきたいと存じます。
医療保険制度は国民皆保険制度を採用しており、全ての国民が、いつ、どこにおいても平等に医療機関において医療を享受できる体制が採られていますことはご承知のとおりであります。この制度は、世界的にみても非常に優れたものであり、国民皆保険制度を堅持することは国民の総意であります。
我が国の医療保険は、自営業者や無職者等を対象とする市町村国保等と政管健保及び組合健保等から構成される被用者保険に大きく二分化される構造となっています。
このような状況の下、国保には全人口の概ね37%が加入しており、その財政運営は危機的な様相を呈しています。更に無職者・低所得者の増加、毎年1兆円規模で増加している老人医療費など、多くの課題・問題点を抱えています。
従ってこれら各種の問題点を解決するためには、医療保険制度改革が急務であり、医療保険制度の一本化なくして皆保険制度は維持できないものと考えております。
次に、国保の現状について説明させていただきます。
平成12年度の市町村国保の財政状況は、法定分の一般会計繰入金3,953億円と併せて、法定外負担(繰入金)として3,197億円もの巨額が投入されているにも関わらず、1,029億円の赤字となっており、保険者の6割余が赤字運営となっています。最終的な単年度実質赤字は概ね4,200億円を超えており、これは毎年度恒常化しています。
国保事業については、特別会計が組まれており、住民のことを第一と考えればこそ、制度を維持するために、市町村の一般会計から毎年多額の法定外繰入を行っています。それでも赤字収支となっている現状を考察いたしますと、もはや国保事業は破綻している状況にあると言っても過言ではありません。国保の保険料(税)の収納率をみると、平成12年度の全国平均は91.35%、町村部は94.80%であり、毎年低下傾向にあるものの、90%を超える収納率を維持してきたことは、市町村の努力の結果であります。しかしながら、今日の厳しい経済情勢及び介護保険制度の導入に伴い、国保加入者にとって負担感が増大し、今後、一層の収納率の低下が生じることも予想されます。
また、近年多くみられるのが、失業等により所得のない加入者が昨年では153万人増加し、保険料が払えないという事態を招き、結果として未納者の増加に繋がってしまい、収納率が低下することとなります。そして、制度を維持するため、穴の開いた金額を市町村が一般会計より更に補填するという悪循環が生じることになります。
一般会計から法定外の繰入金を投入するということは、本来、市町村が行うべき事業に予算が回らず、各種の福祉施策及び行政サービスを阻害していることになります。また、このことは、国保加入者のみならず、間接的には他の被用者保険加入者を含めた全住民が国保の負担をしていることにもなるのであります。
国保、政管健保、組合健保の各制度を比較いたしますと、加入者の年齢構成や年間所得等に大きな格差が生じています。
加入者の平均年齢をみてみますと、国保は51.7歳、政管健保は37.0歳、組合健保は33.9歳であります。
老人の加入割合でみてみますと、国保は26.2%、政管健保は5.6%、組合健保は2.8%でございます。
報酬月額の平均では、政管健保が29.1万円、組合健保が、36.8万円でございます。また、1世帯当たりの年間所得では、国保が168万円、政管健保が244万円程度、組合健保が380万円程度となっております。さらに1世帯当たりの保険料では、国保が15.3万円、政管健保が15.0万円、組合健保が、16.0万円となっておりますが、1人当たりの診療費は、国保が16.3万円、政管健保が12.1万円、組合健保が10.2万円でございます。年間所得をもとに算定した保険料率をみてみますと、国保が9.1%、政管健保が6.1%、組合健保が4.2%となっております。
さて、国保の職業構成の変化をみてみますと、昭和40年度には、農林水産業が42.1%、自営業が25.4%、被用者19.5%、その他が6.4%、無職は6.6%でした。これが平成27年度の見込みでは、全く逆転し、農林水産業が2.5%、自営業が20.9%、被用者が18.4%、その他が1.2%で、無職の人が57.1%になるという状況でありますことをご認識いただきたいと思います。
各医療保険制度の法定給付率をみてみますと、政管健保及び組合健保共に本人及び家族の入院が8割となっているのに対し、国保は一般で7割となっているにもかかわらず、他の制度の1.5倍程度負担割合が高くなっています。
負担と給付の公平化のためにも、我々市町村国保保険者はかねてから「医療保険制度の一本化」を主張し続けてまいりました。各種の医療保険制度を一本に統合することにより、負担と給付の統一化が図られることになります。
現時点において、黒字を維持している保険者も、多くは数年のうちに赤字に陥ってしまうことが推測されます。国民が安心して医療を享受できる体制を整えることが必要ではないでしょうか。
昨年11月29日に政府・与党社会保障改革協議会において取りまとめられた「医療制度改革大綱」では、「医療保険制度の一元化について具体的な検討を開始し、一定期間内に結論を得る」と記述され、一定の評価はしております。
しかし、大切なのは医療保険制度の一本化を有力な考え方とするだけでなく、最終的な将来の方向性として明確に位置づけることであり、一刻も早くその実現に取り組むことが必要ではないでしょうか。
五、健保法改正案の早期成立
先程も申し上げましたが、残念ながら国保はすでに破綻状況にあり、現状のままでは持続するほどの体力は市町村には残っておりません。一本化実現までの当面の延命措置として、健保法改正案を成立させる必要があると考えております。
法案には被用者保険の7割給付が盛り込まれております。給付率の安易な引き下げは好ましいものではないと考えていますが、結果として制度間の給付が統一されることになり、負担と給付の公平化の第一歩に繋がるものと認識しております。
次に、老人医療費拠出金の算定方法の見直しについてであります。具体的には、老人加入率の上限の撤廃、あるいは、退職者に係る拠出金を退職者医療制度で全額負担するといった内容についてですが、これらについては、高齢者や退職者を多く抱え、負担が偏重しており、かねてからの要望でもあります。
老人医療費を全国民で公平に負担するという老人保健制度の趣旨を踏まえれば、是非ともこれを実現をしていただきたいと考えております。
第三に、国民健康保険の財政基盤の強化に関してであります。
国保は一般会計からの繰入で、かろうじて運営されており、その財政運営が危機的状況であることなどから、医療保険制度が抜本的に改正されるまでの臨時的な措置としてどうしても必要であり、早急に実施する必要があります。
そうした意味で、低所得者を多く抱える市町村の負担を軽減する「保険者支援制度」や国保財政を安定させるためのための「高額医療費共同事業の拡充・制度化」は評価できるものと考えております。
以上いろいろと申し上げましたが、医療保険制度のあり方は国民生活に直結する重大な問題であります。しかしながら、国民健康保険をはじめとする医療保険財政は、各制度とも逼迫し、崩壊状況にあります。
このような状況を踏まえれば、当面の対策として、国民健康保険の財政基盤の強化のため、直ちにこれらを実施することが必要であり、法案の早期成立を望むものであります。
問:制度の一本化については、山本参考人から国保は事実上破綻しているとのお話があり、そのような状況は、私も実感としてよく理解しております。制度の一本化については、様々な問題があると思うのですが、この一本化について、どのようようにすべきかお答えいただきたいと思います。
答:山本会長
私どもが一本化を申し上げているのは、医療保険というのは一つであるというのが当然であるとの考えにもとづいています。これは理論的にも正しいと思います。そのやり方を申し上げているのであって、例えば国民健康保険の場合には医療費が西高東低になっており、これを一本化して同じ保険料でやるのは不公平を生むことになりますので、これを都道府県単位でやるべきであると思います。実質の一本化を都道府県でやり、国民健康保険連合会のような運営
を行う機構のようなものをつくるというスキームです。保険料や医療費が高いところや安いところがございますが、そういうことをコントロールしながら一本化を図ることが望ましいと思います。
さらに一歩進めて考えますと、組合健保との一本化は難しいと思いますが、これは、十年後に一本化すればよいということにして、その前に政管健保と一緒になってはどうかと、ご承知のとおり政管健保は社会保険庁が所管しており、母体は同じではないかということであり、民間が主体の組合健保との統合は十年後ということを目指しているわけです。その前に、まず国保の一本化をやってほしいということです。
問:高齢者医療に対する拠出金と退職者の給付金に対する拠出金が非常に財政を圧迫しているのは、貸借対照表等をみれば明らかなのですが、これについては賛成を表明しておられますが、何かご意見はございますか。
答:山本会長
退職者の人と離職者の人が国民健康保険に入っていることは事実ですが、国民健康保険は、先ほども申し上げましたように市町村の負担が非常に大きいのです。今のような状況では、小さな町村においてはこの負担に耐えかねるという状況になります。
したがって、6割強の市町村がそのために財政破綻を来たしており、やらなければならない事務事業を抑えているということになります。言い換えますと全市町村民が国保の負担をしているということになります。退職者や離職者の人が入ってくることに対しては、国が支援しなければ財政上持ちこたえられず、これをどうしてくれるのかということで、今後、国保運営上の大きな課題になってくると思います。