第33次地方制度調査会(会長 市川晃住友林業株式会社代表取締役会長)は4月13日に第3回専門小委員会(委員長 山本隆司東京大学教授)を開催し、本会の荒木泰臣会長(熊本県嘉島町長)をはじめ、地方六団体が出席、意見を述べました。
同専門小委員会は、第33次地方制度調査会の諮問内容である「社会全体におけるデジタル・トランスフォーメーションの進展及び新型コロナウイルス感染症対応で直面した課題等を踏まえ、ポストコロナの経済社会に的確に対応する観点から、国と地方公共団体及び地方公共団体相互間の関係その他の必要な地方制度のあり方」について、地方六団体から意見聴取するために開催されたものであります。
荒木会長からは、はじめに、この国と地方のあり方として、「東京一極集中の是正」と「地方の活性化」を車の両輪にして、「地方分散型の国づくり」を推進することが我が国の持続可能性の追求には必須であるとし、このことは、現在直面する新型コロナウイルス感染症や、将来の首都直下地震・南海トラフ地震等の大規模自然災害への対応でも重要であり、食料やエネルギーを確保し、地域経済を循環させ、脱炭素化社会を推進していくうえでも極めて重要な課題であるとの前提に立った上で、①社会全体のデジタル・トランスフォーメーションの進展に対応した地方行政のあり方、国の役割、国と地方公共団体の関係のあり方について②新型コロナウイルス感染症で直面した課題を踏まえた国・都道府県・市町村の役割の明確化、国の関与のあり方について③大都市圏域における都道府県間の連携や、都道府県と大都市を含む市町村との連携、市町村間の連携のあり方について、以下の通り発言しました。
「社会全体のデジタル・トランスフォーメーションの進展に対応した地方行政のあり方、国の役割、国と地方公共団体の関係のあり方」については、DX(デジタルトランスフォーメーション)やデジタル社会の推進は、あくまで「手段」であり、何をめざすかの認識の共有がない限り、検討のスタンスがはっきりしない。これまでの専門小委員会でも発言があったように、デジタル化推進が「集権化」へと繋がらないよう、我々の思いと同じ方向での検討を訴えました。
その上で、私たち町村は、デジタル新時代を迎える中で、中央政府や東京の「末端」ではなく、ポストコロナ時代の「先端」を担うという気持ちを大切にしており、中山間、離島等の条件不利地域も含め、地理的条件や人口・経済の格差を乗り越え、「小さい」「遠い」「不便」といった地域のマイナスをプラスの個性に変え、国土全体を活かし切る手段になりうると述べました。
そして、情報通信インフラやこれを活用するためのシステムなどの社会共通基盤について、都市部と地方で格差が生じないよう、ユニバーサルなサービスを提供するために、国が責任を持って整備を加速化する必要があり、例えば、情報システムの標準化・共通化や、マイナンバーカードの普及等については、国からの積極的な支援が行われることで、全国的な利活用が早期に進むことと併せて、いま居住する住民だけでなく、移住・定住や二地域居住、テレワーク等や、交流人口・関係人口の拡大、都市住民の田園回帰に寄与し、「地方分散型国づくり」や「都市と農山漁村が共生する社会の実現」に貢献する視点も大事にして検討いただくよう求めました。
また、孤独・孤立対策や生活困窮者支援、児童虐待防止など、従来の地域社会の枠内の取組では限界があるような課題については、デジタルを活用し、地域を越えて、国や自治体のみならず、NPOなど多様な主体や専門家がつながることで、地域社会の新たな可能性が広がるものであるとし、これらの視点を大事にした検討を求めるとともに、行政分野でも地域づくりの分野でも、「人材」がカギを握り、デジタル分野や感染症対応の専門人材を含め、人材の確保・育成が将来にわたる課題となるため、この点についても、小規模自治体にとっても希望が持てる方向性を示すよう要望しました。
なお、情報セキュリティの重要性について、ユニバーサルなサービスをだれでもどこでもいつでも受けられるというデジタル社会の観点からは、サイバー攻撃をはじめとするインシデント(重大な結果につながりかねない事案・事象)のように、今後、一自治体の責任というより全国自治体共通のデジタル基盤の位置づけの中で、バックアップ・復旧等をどうするかも含めて、情報セキュリティへの対応が益々重要となると訴えました。
最後に、町村では特に、住民との対面の温もりある活動とデジタルがうまく融合し、課題解決への柔軟な取組や地域の実情に応じた創意工夫が活かされるような仕組みが、デジタル社会においてこそ必要になるということにも留意するよう強調しました。
「新型コロナウイルス感染症で直面した課題を踏まえた国・都道府県・市町村の役割の明確化、国の関与のあり方」については、ワクチン接種は、国、都道府県、市町村、医療機関等が連携して取り組み、初期に発生した様々な課題や問題を乗り越えてきました。現在、自治体の現場では3 回目接種の促進等、各般のコロナ対策に取り組んでいますが、依然として各分野における人材不足という課題は大きく、特に町村部では、コロナ禍以前から大きな課題であった医師、看護師や介護人材等の不足が顕著に表れてきており、このような人的資源の不足を平時と非平時においてどのように確保・補完していくのかといった点についても議論を進めるよう要望しました。
また、新型コロナ対応の緊急時における国・都道府県・市町村の役割分担や連携の制度化については、個別法の改正や運用の見直しで対応できるものも数多くあり、緊急時の対応と、一般法である地方自治法そのものまで見直すことの必要性については、地方自治の原則に鑑みても、少々飛躍していると述べ、地方自治制度として必要かの議論や、実態を踏まえて平時と非平時を柔軟に切り替えられるような制度設計について、しっかりとした検討が必要と述べました。
その上で、我々がコロナ対応で改めて学んだことは、地域医療の確保をはじめ地域コミュニティや住民の力も含めた「安全安心な地域社会の再構築」であり、こうした視点を忘れずに検討を行うよう訴えました。
「大都市圏域における都道府県間の連携や、都道府県と大都市を含む市町村との連携、市町村間の連携のあり方」については、広域連携について、都道府県や近隣の自治体、さらにはデジタルも活用した遠隔自治体との連携など、多様な連携を推進することは大変重要でありますが、第32 次地制調において私たち町村が強く反対し、導入しない方向で決着した圏域行政など、町村の自治権を大きく損なう連携については、再び議論の対象にすることがないよう、強く要請した上で、我々町村は、今後とも、市町村間や都道府県と連携協力しながら、コロナ対応をはじめ重要課題に全力を尽くしていく所存でありますが、自治体間の役割分担を意識しながらも、地域の実情に応じて、現場に合わせた柔軟な対応が求められることを強く感じており、この点も踏まえた議論を求めました。
▲意見を述べる荒木会長
その他地方六団体側委員からは、「『国と地方の協議の場』の分野別分科会の設置など、国と地方が実質的に協議を行う仕組みの強化」「『従うべき基準』や計画策定等の見直し」「地方議会の位置付け等の地方自治法での明文化」「議員報酬・政務活動費の充実」等の意見が出されました。
その後の意見交換においては、荒木会長から、町の感染防止対策について、「特にワクチン接種に力を入れており、国に対しても、ワクチンの供給体制の確立が最優先の要望事項である。また、医療機関が少ない町村は、医師、看護師の確保について、県や医師会に支援をお願いすることが多い。ワクチンをしっかりと供給してもらって接種をするということが重要であると考えている。」との発言がありました。
また、デジタル人材の育成について、全国町村会の地域情報化研究会で5月に取りまとめる報告書「町村発、地域からのデジタル改革」を踏まえ、町村職員を対象にした研修「全国町村会デジタル創発塾」を7月から実施することとしており、人材育成に一歩一歩取り組んでいくと述べました。