福島県川内村
2848号(2013年7月22日)
2013年4月26日、川内高原農産物栽培工場。遠藤雄幸村長をはじめ、関係者によるテープカットが行われたオープニングセレモニーの会場は、あたたかな、そして力強い拍手に包まれました。 計画から1年半。村の誇りでもある“水”を最大限に有効活用した川内村の新しい農業が本格的にスタートした瞬間でした。
オープニングセレモニーでは、遠藤雄幸村長(左から3番目)ほか、多くの関係者によるテープカットが行われた
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福島第一原子力発電所事故発生後、避難勧告を受けたどの自治体よりも、いち早く声を上げた帰村宣言。村は、村民の生活のために、常に前向き、積極的に動いてきました。 帰村に関しては、もちろん村民に強制するものではなく、その判断は個々にゆだねるとしていますが、役場機能の帰村や計画的な除染作業、学校の再開など、 村内での生活の不安材料をひとつひとつ抹消していくことで帰村意欲が起きるよう努力してきました。しかし、何より帰村宣言への後押しとなったのは、村の豊かな“水”。 村にはもともと水道施設がありません。村全体が、井戸水または湧水を使用してきたのです。そして、数回にわたる慎重な計測により、自慢の“水”は、 原発事故後も放射能に汚染されていないことが証明されました。すべてのライフラインの中でも特に重要な“水”。それが安全に保たれていることは、村にとって何よりの命綱でした。
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新しい栽培方法や品種改良など、進化を続ける日本の農業。村でも常に新しい農業の形を見つめていました。そして震災後、縁あって、 2011年12月には多額の助成を受けられることが決まり、村の主産業である農業の再生と雇用確保を目的とした「川内高原農産物栽培工場」の建設が具体化。 村は以前から構想を温めていた「水耕栽培」の実現へと始動したのです。村の安全で豊かな“水”、外気を完全にシャットアウトする密閉型の工場での生産は、フル稼動すれば、 毎日8000株のフリルレタスやリーフレタスが収穫可能。安全安心な野菜を保障できると確信しています。しかし、計画がスタートしても、“土”を使わない屋内栽培に対して、 これまで営農してきた村民の理解を得ることは容易でないと感じていました。そこで、工場の完成を待たずに、試験栽培用として屋内栽培施設を作り、いつでも内部が見られるようにしたところ、 天候や季節に左右されず日々育つ野菜たちに、村民の多くが興味を示してくれるようになりました。
初出荷を前に行われた村民向け見学会では、収穫した野菜を試食してもらった
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村の再生にとって大きな存在となるこの栽培施設は、本当にたくさんの企業や団体のあたたかい支援によって実現しました。伝えきれない感謝の気持ちを力に、より美味しく、 よりたくさんの野菜の栽培を実現するべく、水の使い方、肥料、光の当て方等、常に研究を重ねながら、3年後の本格操業を目指します。村の野菜が再び全国に流通し、 そしてそれが避難中の村民たちの帰村にもつながることを信じながら。
LEDや蛍光灯を光源として、フリルレタスやリーフレタス、ハーブなども栽培していく
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