ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村の取組 > 福岡県苅田町/デジタルで住民サービス向上へ 苅田町における取組

福岡県苅田町/デジタルで住民サービス向上へ 苅田町における取組

印刷用ページを表示する 掲載日:2025年8月25日更新

苅田港と臨海部に広がる工業地帯

▲苅田港と臨海部に広がる工業地帯


福岡県苅田町

3330号(2025年8月25日)
福岡県苅田町
企画課デジタル推進室


  ● ポイント ●

  • デジタル化は手段であり、目的は住民サービスの向上と業務の効率化の追求
  • 手続きガイドで住民自身が質問に答えて手続きを洗い出し、そのまま電子申請システムで申請が完了する仕組みを構築
  • 頻度の高い手続きからデジタル化に着手し、根拠規定の整備や職員向け研修会等を実施することで、実際に使われる電子申請・手続きガイドを作成

苅田町の概要

左:福岡県指定無形民俗文化財「苅田山笠」 右:国指定天然記念物「青龍窟」

 苅田町は、福岡県北東部に位置し、北九州市と行橋市の間に位置する人口約3万7千人、面積49.58平方キロメートルの町です。

 東側は周防灘に面し、重要港湾苅田港を中心とする臨海部に日本有数の企業が立地し、北九州空港、東九州自動車道などの陸・海・空の交通ネットワークの整備により、北部九州を代表する交通拠点都市、工業港湾都市として発展を続けており、昭和50年から50年連続で普通交付税の不交付団体となっています。

 一方、西側はカルスト台地である平尾台に連なり、国指定天然記念物の青龍窟や広谷湿原などの自然景観が広がっています。

 また、町内には石塚山古墳や御所山古墳などの歴史的遺産が点在し、等覚寺の松会(国指定重要無形民俗文化財)は千年、苅田山笠(県指定無形民俗文化財)は五百年の歴史があり、古代の文化や歴史を感じられる地域でもあります。

 今後は、北九州空港の滑走路の延伸や臨海部の新松山工業団地への新しい企業の進出も予定され、陸・海・空の交通の結節拠点としてさらなる発展が期待されています。

DX推進の背景と必要性

 近年、インターネットの普及率が非常に高まる中、スマートフォンを活用したさまざまなサービスやクラウドサービス、さらにキャッシュレス決済サービスも暮らしに身近なものとなってきています。

 苅田町ではこれらの環境の変化を捉え、住民サービスのさらなる向上を図るため業務の効率化やデジタルインフラに対応したまちづくりをめざしています。

 内部事務では、これまで各課で独自に導入していた複合機を一元化、再配置し、庁舎内のどこでもスキャンや印刷を可能としたほか、文書管理や財務会計、勤怠管理などは電子決裁を導入し、ペーパーレス化を図っています。デジタル技術の活用を積極的に進め、住民の申請から受付後の内部事務の電子化を図り、業務の効率化および住民の利便性の向上のための具体的な取組を進めています。

 今回は、苅田町のDX推進、特に「電子申請システム」および「手続きガイド」の導入における取組についてご紹介します。

導入の経緯

苅田町DX推進体制(手続きのデジタル化検討・導入当時)

 苅田町では、令和4年11月に「電子申請システム」と「手続きガイド」を導入しました。その後、令和7年3月時点で公開中の電子申請は70手続き、暮らしに関する手続きガイドは8種類となり、全庁的なデジタル化を進めています。この「電子申請システム」と「手続きガイド」の導入の契機となったのは、マイナポータルによる引越し手続オンラインサービスの開始でした。マイナポータルによる引越し手続オンラインサービスでは、転出届や転入・転居予定の連絡等の住民異動に関する手続きはオンラインでできても、水道の停止や開始、国民健康保険に関する手続き等が残ってしまい、結局住民が来庁し手続きする必要があるという課題がありました。

 この課題を解決するため、行政のデジタル化を総合的かつ全庁横断的に推進することを目的として設置した「苅田町DX推進本部」にて検討しました。その結果、転出・転入や転居の際に必要な手続きをデジタル化するため、キャッシュレス決済機能を備えた「電子申請システム」と、質問に答えるだけで住民自身が必要な手続きを簡単に洗い出せる「手続きガイド」を導入することになりました。

導入に向けての取組

苅田町の暮らしに関するガイド(転入手続きガイドの場合)

 導入にあたり、まずは住民異動に関係する部署のメンバーによるワーキンググループにて、

(1)転出入・転居時に必要となる手続きの洗い出し

(2)デジタル化する手続きの検討・決定

(3)転出入・転居手続き等の新しい業務フローの構築

を行い、各手続きの担当課と企画課デジタル推進室で「電子申請システム」での電子申請の作成に取り組みました。

 また、「手続きガイド」は、前述(1)の転出入・転居時に必要となる手続きに加え、ライフイベント発生時の手続きとして、結婚や離婚、出生、死亡、氏名変更に関する手続きも対象としました。「手続きガイド」の構築には、ライフイベントの区分ごとに各課の手続きをまとめる作業が必要となるため、ワーキンググループにて調整を行いながら作業を進めました。さらに電子申請が可能な手続きは、「手続きガイド」の結果ページに電子申請ページへのリンクを置くことで利用者がスムーズに手続きを完了させることができるように構築しました。

デジタル化にあたっての課題と対応

左:職員向け電子申請作成研修会の様子 右:個別相談の様子

 DX推進にあたり、課題となったのは、職員のデジタル化への不安感、日々の業務への対応で手一杯のところに新しい業務が増え、対応が大変になるのではといった業務繁忙による負担感の解消でした。

 そこで、「電子申請システム」「手続きガイド」の導入では、デジタル推進室が中心となり、導入に向けて取り組むべきことの整理やスケジュール管理、電子申請の作成のフォロー、手続きガイドのとりまとめ等の伴走支援を行いました。特に、導入に向けて取り組むべきことの整理に関して、従来紙媒体での申請を前提としていた届出・申請等の根拠規定(規則、規程、要綱等)は、電子申請に対応した形に改正する必要がありました。この改正作業が電子申請の拡大を阻害しないよう、デジタル推進室にて電子申請を可能とする条例および規則を整備しました。

 また、電子申請の作成に関しては、全庁へのさらなる拡大のため、全職員向けにデジタル推進室主催の研修会を開催し、システム操作だけでなく、紙の申請と電子申請の違いや利用される電子申請のポイントの解説といった内容を盛り込みました。研修後には個別相談会を開催し、具体的に取り組みたい手続きがある場合には、手続きごとに詳細をヒアリングしながら、都度状況に応じたアドバイスを行い、職員が不安なくスムーズにデジタル化に取り組めるように体制を整えました。

職員向け電子申請作成研修会資料(一部)

導入による効果

電子申請の入力フォーム画面(水道の使用開始の申込の場合)

 「電子申請システム」「手続きガイド」の導入により、利用者は24時間365日、いつでもどこからでも申請や手続きの確認が可能になりました。

 例えば、水道課の水道の使用開始・中止手続きでは、約半数がオンラインで受け付けられるようになり、電子申請後の申請者レビューでは、「平日、役場に行く時間が取れない中で、インターネットでの申請は非常に助かります」といった好評の声が寄せられています。

 また、ライフイベントが発生した時には、利用者がオンライン上で質問に答えることで、自分の状況に合わせて必要な手続きや手続き窓口の場所、手続きに必要なもの、手続きの期限の確認が可能となり、転入の手続きガイドに対しては、「転入に関連する手続きにどのようなものがあるか、Q&A形式で分かりやすく知ることができるので非常に素晴らしいと思います」といった声をいただき、住民の利便性向上を実感しています。

 さらに業務の効率化の面では、窓口での対面手続きや電話での問い合わせが減少し、申請データのデジタル化により、データ管理や処理に関する職員の事務負担が軽減されました。

苅田町におけるデジタル化のポイント

 手続きのデジタル化に取り組むうえで、主に以下の点を意識して進めています。

 まず、デジタル推進室と関係課の職員との密なコミュニケーションを心がけ、丁寧なフォローと伴走支援を行うことで、職員のデジタル化への苦手意識や不安を取り除くよう努めています。また、小規模な取組から始め、成功事例を積み重ねることで、職員のデジタル化への意欲を高めています。デジタル化の対象としては、頻度の高い手続きから着手し、実際に使われる電子申請・手続きガイドの作成をめざしています。作成時は、案内の文章等は誰にでも分かりやすい表現となるよう意識しています。

 方針を決定する際には、職員の業務効率よりも住民サービスの向上を最優先とすることを基本としています。住民サービスを充実させることで、住民からの問い合わせや不備が減り、結果として職員の業務効率も自然と向上すると考えています。

 さらに、デジタル化はあくまでサービスへのアクセス方法の選択肢を増やすものであるという認識のもと、初めから完璧をめざすのではなく、8割の人が問題なく実施できればよいという視点を持って取り組んでいます。

 デジタル化を進めるうえで重要なのは、最新のデジタル技術を導入することだけではなく、それを使いこなす人材の育成と、利用者である住民の視点に立ったサービス設計を行うことであると考えています。デジタル化は手段であって目的ではありません。真の目的は住民サービスの向上と業務の効率化の追求です。

現状と今後に向けて

オンラインで行える手続きをまとめた「デジタル町役場デジタル窓口」

 転出入や転居時に必要となる手続きから始まった手続きのデジタル化の取組は、現在では庁内全体に広がり、電子申請の利用件数も増加し続けています。

 その一方で、電子申請可能な手続きが増えることで、どの手続きがオンラインで行えるのか分かりにくくなることを防ぐため、苅田町では公式Webサイト上に、今回ご紹介した電子申請や手続きガイド、施設予約など、住民や事業者がオンラインで行える手続きをまとめ、「苅田町役場デジタル町役場」として掲載しています。このサイトでは、手続きのカテゴリー別や窓口別に情報が分類されており、利用者が状況に応じてスムーズに手続きにアクセスできるよう工夫し、利便性の向上を図っています。

 また、現在は全国的な取組でもあるアナログ規制の見直しを進めています。見直しを通じて、デジタル化が可能となった手続きについては、令和7年度中にデジタル化を完了させることを目標としており、予算措置が必要なものについては令和8年度以降に順次対応する予定です。デジタル推進室による伴走支援を継続し、電子申請のさらなる拡充を進めています。

 今後も、住民サービスの向上と事務の効率化の追求という目的のもと、社会情勢の変化やデジタル技術の進化に柔軟に対応しながら、継続的な改善と発展につながるDXの推進に取り組んでまいります。


福岡県苅田町
企画課デジタル推進室