ページの先頭です。 メニューを飛ばして本文へ
トップページ > 町村の取組 > 高知県日高村/DXの前提を整えるー村まるごとデジタル化事業ー

高知県日高村/DXの前提を整えるー村まるごとデジタル化事業ー

印刷用ページを表示する 掲載日:2024年4月29日

スタディキャンプの様子

▲スマホ普及率100%を掲げた「村まるごとデジタル化事業」の成果を社会に還元するための
組織として一般社団法人まるごとデジタルを令和5年8月7日に設立。
また、令和6年1月25日~ 26日 には長野県塩尻市にてスタディキャンプを実施した。


高知県日高村

3279号(2024年4月29日)
高知県日高村役場
企画課 安岡 周総


  1. 日高村の概要
  2. 社会背景と認識
  3. 事業企画
  4. 村まるごとデジタル化事業の概要
  5. 成果と拡大
  6. 最後に
 ポイント ●
・高知県日高村は、なぜ、「スマホ」を選んだのか。なぜ、最初の取組として「デジタルディバイド層の解消」を実施したのか。​
・人口減少下において、「本質的な課題」は「人口が減ること(事象)によって、どのような『困った』が増えるのか」。​
・「誰一人取り残さない」を枕にする事業ではなく、「誰もが利用できる環境や状態」があって初めて「誰一人取り残さない」事業を展開できる。​

1 日高村の概要

毎年1,000人以上が訪れる住民主催イベント
村特産のシュガートマト

 日本の高知の村「日高村」は、県中部に位置する人口4,800人の小さな村です。JR駅が村内に3カ所存在し、県都から車で約30分間の距離と県内では比較的利便性が良く、日本一の清流「仁淀川」が流れるなど自然に囲まれた静かな環境で、のんびりとした時間を過ごすことができます。

 高齢化率は現在43%、子どもの割合は9%程度となっており、少子高齢化が進むいわゆる「地方」の自治体です。2045年には、人口が今の約半分、高齢化率は60%、子どもの割合は6%程度になる将来推計となっており、今後どのように「日高村」として継続していくかを検討し、実施する必要に迫られています。ただ、この課題は、日高村のみならず、日本全国の地方の小さな自治体においては同様に起きている事象であり、その原因や要素の構成は多少異なるものの解決手法と時間があまり残されていない点は共通しています。そこで、解決手法の1つとして「デジタル化」「DX」が見いだされ全国的に取組を展開しています。当村においては、令和3年度から『日本で初めてスマホ普及率100%を目指す自治体宣言』を行い、「村まるごとデジタル化事業」を実施しています。

 なぜ、「スマホ」だったのか。なぜ、最初の取組として「デジタルディバイド層の解消」を実施したのかについて、重点的に説明いたします。

2 社会背景と認識

デジタル化推進の社会的背景

 まずは、そもそもなぜ、これほどまでにデジタル化の動きが加速しているのかについてですが、人口減少は私たちの村だけでなく全国的に起きている事象です。移住対策等の施策も展開しており、自分たちの自治体だけを考えると必要な取組ではあるものの、本質的には「課題」の解決にはつながらないと考えています。

 人口減少下において、「人口が減ること」自体を「課題」と捉えてしまうと、解決策は「人を増やすこと」になり、手法として「移住施策」などが設定されますが、「本質的な課題」は「人口が減ること(事象)によって、どのような『困った』が増えるのか」だと考えています。

 例えば、高齢化による医療費を含めた社会保障費の増加や人口減少によって行政サービスを維持するための税収の減少、地域の担い手が減ることによる地域住民活動を含めたコミュニティ活動の限界などです。前述しましたが、日高村は、2045年には人口が現在の約半分になります。単純に税収は半分になると仮定した時に、端的に表現すると「お金」と「人」が足りないという現実が大きな壁となって現れてきます。

 当たり前のことと思われるかもしれませんが、このままいくと「お金」と「人」が圧倒的に足りない状態を将来的に迎えてしまう。だからこそ、効率化や費用削減を行い、適切にシュリンク(縮小)させていくことが求められていると考えています。そのために、デジタル化やDXが手法として必要だと認識され、全国的に取組が加速しているという状況です。

 つまり、デジタル化等による「効率化」「費用削減」を通じて、将来的に起こるであろう「お金」や「人」が足りなくなる状態に備えようというロジックですが、令和元年当時、全国の自治体がさまざまな取組を行う様子を眺めていて、「これはひと昔前のハコモノ行政ではないか」と疑問が浮かんだことが、村まるごとデジタル化事業の企画を考え始めたキッカケです。

 例を挙げると、「オンライン申請」です。

 生産労働人口が多く、人口規模の大きな自治体であれば「効率化」や「費用削減」の面で効果があるのかもしれませんが、当時の状態でも、私たちのような小さな自治体では「規模の経済」が効きませんし、あまり期待する効果は得られないのではないかと思います。なぜなら、私自身が役場職員でないと想定した時に、「役場に用事がない」のです。あったとしても年に1回あるかないか程度でしょうか。4,800人のうち約半分が利用して、1人1件程度の利用と考えた時に、2,400件分の何らかの申請を利用したとして、その費用対効果は、本当に将来的な課題に対して適切な手法かを判断できなかったのです。ただ、人口のおよそ半分を占めるいわゆる高齢者層の方々が利用できる状態になれば、非常に効果の高い取組になります。

 しかし、それは非常に難しい。なぜ難しいかという点で、初めて「デジタルディバイド層」の存在が現れてきます。そして、その方々は、生産労働人口層よりも、よく行政サービスを利用される方々であるために、当時の状況で行政サービスをデジタル化したとしても、本来よく利用されている人たちは利用できない。利用できないからこそ、行政サービスをデジタル化してもアナログな手続きは延々と残る。生産労働人口層はそもそもそこまで高頻度で行政サービスを必要としていない点で、結果的に導入しても利用されない。その点において、維持管理費だけが大きくなり、将来の負担になってしまう昔のハコモノ行政と本質的には同様の動きになってしまうのではないかと考えました。

3 事業企画

 「誰一人取り残さない」を枕にする事業ではなく、「誰もが利用することができる環境や状態」があって初めて「誰一人取り残さない」事業を展開することができるのではと考えた結果、令和元年末から令和2年4月頃にかけて事業を企画しましたが、その前に次のことについて考えました。

  • (1) 日高村においてデジタルディバイド層とは誰か。
  • (2) 日高村においてデジタルディバイド層を解消している状態とは具体的にどういう状態か。
  • (3) (2)のために必要な「モノ」は何か。

 (1)については、「高齢者」と設定されることが多いのですが、日高村においては「行政サービスのヘビーユーザー」と設定しています。高齢者全般に設定するとその後の企画対象が広がり過ぎてしまい、具体的に事業をイメージすることが困難になる点と、そもそも何のために事業を企画しているのか忘れてしまうためです。

 (2)については、「インターネットに接続可能な媒体を持ち、常時オンライン化状態を選択可能な状態」です。単に、デジタルディバイド層を解消しようと目標を掲げても、解消できません。これは誰をどのような状態になると解消したと言えるかを前もって設定していないと事業が達成されたかが判断できないためです。

 (3)については、(2)で設定した「インターネットに接続可能な媒体」についてですが、こちらはどの分野の行政サービスをデジタル化していくかによるかと思います。日高村においては、当時コロナ禍真只中で、また、高知県は南海トラフ地震に備える必要があるため、「命」に関わる分野として「健康」と「防災」、「情報」の分野に絞って考えた結果、選択肢に「スマートフォン」を選びました。例えば、「防災」。「災害」は「誰にとっても、いつ、どこで起きるかわからない」ので「災い」であることから、肌身離さず持つことが可能なものでないと、そもそも選択肢にのぼりません。その1点においても、「スマートフォン」の選択肢しかありませんでした。

4 村まるごとデジタル化事業の概要

日高村「村まるごとデジタル化事業」サマリー

 令和2年5月に事業企画案を具体的な事業にするために、村内のスマートフォン普及率について全数調査を行いました。結果、当時の普及率は、64.5%と全国平均並みだったため、日高村で普及を進めることができるのであれば、他の自治体でも取り組むことができるのではないかと考えました。

 事業の詳細は、多くの取材をいただいているのでそちらに譲りますが、大きくは2本柱で構築しています。「スマホの普及事業」と「住民生活の質の向上事業」です。それぞれ「デジタルディバイド層の解消事業」と「スマホを使う機会を創出する事業」と読み替えてもいいかもしれません。令和3年5月にKDDI・チェンジ社と包括協定を締結し、同年6月から取組を開始しました。

デジタルディバイド層

 現在(令和5年10月時点)では、85.5%まで普及率は向上しています。(乳幼児などのスマホが必要ない、所有することが困難な住民を除いた実質普及率は92.7%)

 事業を振り返ってみて、大変だったことは、どのようにすれば、「人の意識」が将来迎えるであろう課題を認識して、前に一歩進もうとする意識に変えていただけるかでした。これまで関わっていただいた方々に丁寧に説明に回ったことを思い出します。

デジタルディバイド層の解消

媒体の選択

5 成果と拡大

住民説明会の様子
住民説明会の様子

 実は、この事業はスマホ普及率100%を目指したわけですが、目的は別にあります。掲げている目的は「住民のエンパワーメント」。要は、住民一人ひとりが主体的に自分の生活において自助力をつけていただくことでした。そのためには、「自信」が必要でした。「スマホの普及」は自信をつける取組として効果があったと思っています。「どうせ無理」が「やったらできる」に変わる時に、人は新しいチャレンジに向かうことができると考えています。

 拡大においては、さまざまありますが、特に令和5年8月7日に包括協定メンバーと全国の自治体7自治体の皆さまの協力のもと「一般社団法人まるごとデジタル」の設立に至った点です。こちらも詳細は同法人のHPに自治体向け説明資料がありますので、そちらをご覧ください。私たちの取り組んだ事業の成果やノウハウ、失敗したことも含めて社会に還元していく場とし、それに賛同いただける自治体や企業の皆さまとともに、社会課題を解決していく場を創出することができました。この場をお借りして感謝申し上げます。

6 最後に

村まるごとデジタル化事業の成果

 取組がここまで継続し、成果を上げることができ、また新しい仲間が増えて拡大しているのは多くの方の理解と協力があったからです。ただ、最初からすべてが順風満帆で進んだわけでなく、全国の自治体職員の皆さまにおいてもこれから事業を企画して走り始めた時に、多くの障害や挫折、失敗を経験されると思います。その時に、アルトゥル・ショーペンハウアーが残したとされる次の言葉を送りたいと思います。

「全ての真理は3つの段階を経る。第一に、それはあざ笑われる。第二に、暴力的に反対される。最後に、自明のこととして受け入れられる。」


高知県日高村
企画課 安岡 周総

一般社団法人 まるごとデジタルHP
https://maru-digi.org/

まるごとデジタルHP QRコード