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東京都神津島村/この星空や自然・文化を「次世代に伝える」―星空保護区とエコツーリズム― 保護しながら観光資源として活用する取組

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年12月11日

星空

▲「美しい神津島の星空を子や孫の代まで残すこと」を目的とし、
始まった取組により、東京都で初めて「星空保護区」に認定された


東京都神津島村

3263号(2023年12月11日)
東京都神津島村長 前田 弘


1.神津島村の概要

多幸湾と天上山

 「神達集り給いて詮議有りし島なれば神集島と名付け給えり」伊豆諸島創世を伝える三宅記にはこのように記されており、この「神集島」が神津島の名の由来とされています。

 地理は、東京から178㎞、伊豆諸島のほぼ中央に位置し、面積18.58km²、周囲22㎞で、村落は島の西側に集中する一島一村の島です。

 東京湾竹芝桟橋から大型船で約12時間、高速船で約3時間45分です。また、調布飛行場から航空便は45分でアクセスできます。

 島の中央には、花の百名山並びに新日本百名山の一座に名を連ねる天上山をはじめ、宮塚山、高処山、秩父山が座し、急峻で平地が少ない地形となっています。

 島の人口は、昭和30年代の約2,800人をピークに、昭和45年には2,081人と、激減しました。平成2年には2,466人まで回復しましたが、その後徐々に減少し、令和4年8月1日現在1,794人となり、近年では横ばいの状況となっています。

 島の主な産業は、農業・漁業・観光業であり、農業の主な換金作物はアシタバ・レザーファン・パッションフルーツ等ですが、さらなる農業の活性化を目指して新規就農者の育成や支援を行うとともに、島に適した新たな換金作物を模索しています。

 漁業は、東京諸島で最も盛んに操業されており、伊勢エビ・海草類・赤イカ・金目鯛等、多種の漁獲物が市場に出荷されています。

 観光業は、近年では4万人ほどの来島者数で推移しており、主な観光資源として、天上山や後述する星空、白い砂浜と透明度の高い海等があります。その中でも、一番人気は海を目的とした観光であり、来島者数の約半数がマリンレジャーの盛んになる夏季に集中しています。

左:海水浴客で賑わう赤崎遊歩道 右:キンメダイ

2.昭和40年代のオーバーツーリズムと夏季観光への依存

 神津島の観光業は、昭和40年代の離島ブームにより急激に伸び、島の経済・生活環境に大きな変化をもたらしました。最盛期には年間10万人の来島者数がありましたが、そのほとんどが夏季に集中していました。この頃は夏になると島内いたるところで人があふれ、宿に入りきらない客もあるほどでした。当時はそのような概念がなかったかもしれませんが、まさにオーバーツーリズムという言葉が相応しい状況でした。その後、全国での観光地化、さらには激安海外ツアー等の普及により、来島者は減少、前記したように近年では4.5万人ほどの来島者数で推移しています。月別来島者数をみると、7月から9月にかけて半数以上の方が来島しており、夏季の観光に大きく依存している現状は変わりません。

 オーバーツーリズムが問題視される昨今、神津島における夏季来島者の受入状況は飽和状態に近く、来島者を増加させるためには、観光のあり方を改めざるを得なくなりました。

3.新たな観光資源として「星空保護区®」

 星空保護区とは、米国アリゾナ州に本部を有するNPO団体である国際ダークスカイ協会(IDA)が認定する光害の影響のない、暗く美しい夜空を保護・保存するための優れた取組をたたえる「ダークスカイプレイス・プログラム」の和名で、この認定地を総称したものを星空保護区と言います。令和5年9月現在、国内では4地域が認定されています。

 神津島では、平成29年より、NPO法人神津島観光協会が周年をとおして活用できる満天の星を「神津島まるごとプラネタリウム」と銘打ち、星空ガイド養成や星空観測会・星空観測ツアー等の事業に積極的に取り組んでいたこともあり、この認定に取り組むことになりました。

企画財政課の職員による説明を聞く児童
▲企画財政課の職員による説明を聞く児童

 令和元年9月、IDA関係者の方にご来島いただき、島内関係者向けに説明会を開催しました。そこで「美しい神津島の星空を子や孫の代まで残すこと」を目的とし、保護区認定を目指すこととなり、東京都が推進する東京宝島事業のサポートを受けながら動き出しました。

 令和元年12月には、美しい星空を保護することを目的とし、「神津島星空公園条例」及び「神津島村の美しい星空を守る光害(ひかりがい)防止条例」を制定し、翌年1月より施行しました。

 並行して、住民説明会を開催したのですが、星空保護区の認定を受けるには道路灯・防犯灯の形状・色温度がIDAの基準※をクリアするものに交換する必要があり、暗くなって安全性が保てないのではないかという不安の声が多く聞こえました。
 根気よく、説明を続け、理解をいただくことができました。

実際、道路灯・防犯灯交換後に、数か所、暗くなったとのご意見をいただきましたが、その場所に灯具を追加することで対応し、安全性を保つことができています。

道路灯・防犯灯改変工事 前後比較

 道路灯・防犯灯を交換するにあたり、大きな壁が立ちはだかりました。当時はIDAに基準合致する灯具がなく、その入手に頭を悩ませましたが、岩崎電気株式会社の協力により特注の道路灯・防犯灯を開発していただけることになり、令和2年4月より交換工事に着手することができました。同年7月には島内2/3の交換が完了し、8月にIDAに星空保護区への申請書を提出しました。そして12月1日星空保護区ダークスカイ・アイランドとして正式認定をいただきました。その後も星空ガイドの育成や星空観測会・星空観測ツアーを継続するとともに、地域住民への啓発活動として、講演会や特別事業を開催し、星空保護区の意味について理解を深めています。

 星空は季節ごとにその姿を変え、見る者を楽しませてくれます。特に神津島の観光閑散期である冬季は空気が澄み渡り、星空観測に最適な季節を迎えるため、通年の観光資源として最適です。

 実際、観光業に携わる方々に話を聞くと、星空保護区認定後から、星空を目的にご来島くださる方が増えたと伺いました。星空保護区認定がコロナ禍であったため、数字での比較ができませんが、星空保護区認定を目指したこの取組は、一定の成果を上げられていると感じ嬉しく思います。

 今後も、星空保護区について積極的にPRを実施すべく、イベント等での周知を図るとともに、他の認定地域と連携も図っています。
​ ※上方光束0%、色温度3000K以下

左:星空観察ツアーの様子 右:星空保護区の認定書とロゴ

4.自然環境や歴史文化を守り伝える「エコツーリズム」

 神津島では多様な自然環境と地域資源を活かした観光振興と環境保全活動に取り組み、神津島の豊かな自然と文化・伝統を次世代に引き継ぐエコツーリズムを推進することを目的に令和3年から神津島エコツーリズム推進協議会を立ち上げ、「神津島エコツーリズム推進全体構想」を作成しました。令和5年、この全体構想を主務大臣(環境、国土交通、農林水産、文部科学)へ提出し、9月1日に認定を受けることができました。

 神津島には天上山や海・星空等の自然観光資源と、漁師町の営みが色濃く残る歴史文化など、とても魅力的な観光資源がありますが、これまではマリンレジャーに頼っていた側面があります。今後は、この全体構想に基づき、自然を見せる観光から、自然を守る観光へシフトチェンジし、通年の観光資源として活用することを検討しています。

 具体的には、天上山のさらなるPRや、村内の史跡等を巡るツアーの充実を検討しています。そのためには、第1にツアーガイドの育成が重要です。本村では、すでに、星空ガイドの育成実績があることから、このノウハウを活かしガイド養成を実施していきます。さらに、講演会や特別授業等を開催し学習する機会を設けて、特に児童生徒にエコツーリズムの概念を学んでいただき、それを根付かせることで、さらにエコツーリズムが浸透していくことを目標としています。それが、自然を守り次世代につなげることであると考えます。

 また、観光振興の観点では、この取組によって、通年観光が成立し、多くのツアーガイドなど、観光事業者が専業で生計を立て暮らすことが最終目標です。

左:エコツーリズムの様子 右:神津島のかつお釣り行事の様子

5.その他特色のある取組「離島留学制度」

 都立神津高校は昭和47年に60名の入学生を迎え開設されました。少子高齢化や生活環境・教育環境の変化等により島内高校への入学希望者は激減し、全校生徒30名ほどまでに減少したため、後々の神津高校の存続が危ぶまれるようになりました。このため神津島村では、平成25年離島振興法の見直しに絡めて、平成24年の神津島村離島振興計画素案に「離島留学制度」を盛り込み、平成27年度より民家にホームステイという形で、男子生徒1名の留学生受け入れを開始しました。

 現在は男子寮・女子寮とも完備され、男子7名、女子6名が留学し、高校全体の生徒数は46名となっています。

 離島留学希望者は年々増加し、昨年は22名の面接を行い男子3名、女子2名の受入をしました。

 離島留学制度の導入により、神津島高校全体が活発になるとともに、全体の学力も目にみえてレベルアップしてきています。今後も神津島を担う有望な人材育成のため支援の継続・充実を図っていきます。

6.最後に

 私たちがこれまでに経験したことのない社会状況の中、全国的に少子高齢化と人口減少が問題となっています。本村も例外ではなく、令和12年には人口1,527人になると推計されています。

 人口規模の縮小が予想される中においても、神津島で暮らすことで、私たち一人ひとりが心も身体も健康で豊かに日々を送れるよう、神津島村第5次総合計画では「誰もが健やかで、生き生きと活力のある島づくり」という目標を掲げています。

 これを実現するためにも、星空保護区やエコツーリズムの取組を通じて、観光産業の活性化を図り、さらにインフラ整備や社会福祉、防災、教育の充実等に取り組んでまいります。
  ​※国立社会保障・人口問題研究所


東京都神津島村長
前田 弘