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鳥取県智頭町/住民と共に築くデジタルまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2023年9月11日

モバイルWi-Fiルータを搭載したコネクテッドカー

▲モバイル Wi-Fi ルータを搭載したコネクテッドカー。遠距離でも行政サービスの提供が可能


鳥取県智頭町

3253号(2023年9月11日)
鳥取県智頭町 企画課 松村 陽平


1.公共交通の課題


災害時には現地対策本部の拠点となるコネクテッドカー
▲災害時には現地対策本部の拠点となる

 智頭町は鳥取県の東南部の県境に位置する中山間地域で、近年過疎高齢化が進み、高齢化率は40%を越え、総面積の93%を山林が占めています。

 狭隘な平地に走る深い谷合いに集落が点在しており、町の中心部まで車で20分ほどかかる地域もあります。

 公共交通としてコミュニティバス「すぎっ子バス」が定時定路線で各谷を走っていましたが、1~2時間に1本の運行スケジュールであること、より細かな谷には入れないことなどから、行政手続き等を行うための住民の交通利便性は高くありませんでした。

2.コネクテッドカーの導入

 そのような中で鳥取県からSociety 5.0事業の一環としてコネクテッドカー導入補助金の話をいただき、町長の即断で導入の検討が始まりました。

 車両に通信機器を搭載し、役場あるいは保健センターと接続して、一体どんなサービスを住民の皆さまへ提供するのか。アイデア検討で活躍したのが、役場若手職員で構成される「情報化推進チーム」でした。行政のICT化に対応するため、各課横断的な情報共有と意見交換、情報化事業推進の実動部隊として編成されたチームです。

 行政手続きのほか、福祉、防災、eスポーツなどさまざまな提案が出され、それを実現していくために必要なシステム、機材を集約し、予算化、事業化を進めました。

 一方で、コネクテッドカーの活用について広く住民の皆さまのアイデアや構想が実現できるよう、智頭町が誇る住民自治組織「智頭町百人委員会」へ情報提供を行いました。

3.効果と課題

 車両はミニバン・ワンボックスをベースに車内架装を自由に変更できる改造を施し、通信にはキャリア5Gモバイルワイファイルータにより閉域網でセキュアなネットワークを構築することで、行政系システムへどこからでもアクセスできる仕組みとしています。

 ある程度小回りのきく車両であることから、これまでバスが入ることのできなかった細かな谷合いの集落までサービスを提供することができるようになりました。

 現在は、マイナンバーカードの出張申請、ロコモ・フレイル予防システムによる健康相談、防災現地対策本部車両としての活用、集落公民館やイベント会場でのeスポーツ体験などを実現しています。

 現在智頭町でのマイナンバーカード申請率は88%(うち交付率76%)(令和5年5月1日現在)、国のポイント制度とも相まって徐々に向上しつつあります。

 最も反響があったのがeスポーツ体験です。コネクテッドカーお披露目会(R4.4月に開催)では地域の高齢者の皆さまがゲームを楽しみ、別のイベントでeスポーツコーナーを設置した際は地域の子どもたちが殺到し、大賑わいでした。ゲームの力はスゴいですね!

 こういったイベントの様子をビデオカメラで撮影し、SNSで即座に配信するなど、情報発信にも一役買っています。

 課題としては、まだまだ住民の皆さまの認知度が低いということ、行政内外部からの活用アイデアの発出に乏しいところです。地域住民の課題解決ツールとしてさらなる活用推進を図らなければなりません。

ロコモ・フレイル予防システムによる健康相談イベント会場でのeスポーツ体験
コネクテッドカーでの行政手続き集落公民館でのeスポーツ体験

▲住民の移動距離を短縮化するため、集落公民館へコネクテッドカーを配置して役場ネットワーク等
  と接続。その場で行政手続きや介護予防事業ができるだけでなくeスポーツ体験会の開催等を通じて
  認知度向上にも努めている

4.今後の展開

 今後選挙時の期日前投票所としてコネクテッドカーの活用を検討しており、投票率向上を図っていきます。また、現時点で実験的な運用しかできていませんが、智頭病院の医師や療法士等と接続して、健康相談の実施、さらに進めて健康診断などを実装していきたいと考えています。

 他市町村での活用例を見れば、簡単な移動販売、スマホ教室など、すぐにでも行えそうな取組がありましたので、参考にさせていただきたいですね。

5.2022夏のDigi田甲子園

 本町の取組が鳥取県予選を経て全国大会にまで出場できたのは、光栄なことでした。

 全国大会では各市町村1分動画を制作しなければなりませんでしたが、とにかく時間が少ない中で、智頭町に移住してこられた方と東京で動画制作の会社を営んでいらっしゃる方、地元大学職員の3名と、上述の情報化推進チームによる即席プロジェクトが立ち上がり、全国的にも珍しいフルアニメーションでの紹介動画ができあがりました。

  https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/archives/koushien/chiiki/tottori.html

  残念ながら受賞にはいたりませんでしたが、背景や特徴など非常にわかりやすくまとまっていますので、この場を借りて紹介いたします。

 DXがつないでくれた人脈は、これからも智頭町にとっての大切な関係人口となります。

智頭Miraize プロジェクト(内閣府HP)  

智頭Miraizeプロジェクト 動画タイトル

智頭Miraizeプロジェクト 動画1

智頭Miraizeプロジェクト 動画2
Digi田甲子園へ応募した際の取組紹介動画。移住者等
  の即席プロジェクトチームで制作した

6.まとめ

 国が積極的に推し進めているデジタル化ですが、日々進化し続ける技術とは裏腹に、過疎化が進む中山間地域に暮らす高齢者の多くが置き去りになっていることは否めません。

 誰しもがデジタル化の恩恵を享受できるまちづくりを進めるためには、格差を埋める接着剤として我々自治体職員が高くアンテナを張り、限られた予算と人材を効率的に投じなければならないと共に、外部の組織や人材のノウハウをうまく地域で展開できる環境づくりが必須であると強く感じます。

 その例として最後に智頭町が取り組むDX事業をいくつか紹介し、今回の結びとします。

  •  1.AI乗り合いタクシー「のりりん」登場!

    乗り合いタクシー「のりりん」概要。
    ▲図1 乗り合いタクシー「のりりん」概要。住民ドライバーが自家用車で送迎する

     冒頭述べたすぎっ子バスは令和4年度末をもって公共交通の役目を終え、スクールバスとなりました。すぎっ子バスに代わる新たな公共交通体系がAI乗り合いタクシー「のりりん」です。
     住民ドライバーが自家用車で送迎するという共助交通の仕組みであり、予約にはIP告知端末を活用し、運行制御をAIが行います。
     IP告知端末導入ベンダーと大手キャリアのAIシステムを融合し、智頭町独自の交通体系を構築し、利便性向上、福祉増進、高齢者の生きがい創出を目指します。

  •  2.IP告知端末でビッグデータを活用「デジタル健康脳測定会事業」!

    図2 町民のバイタルデータを収集・分析。新しいコンテンツ作成に活かす
    ▲図2 町民のバイタルデータを収集・分析。新しいコンテンツ作成に活かす

     IP告知端末に搭載された脳トレアプリや、町内各所で行われている健康体操、ミニデイで町民のバイタルデータを収集、分析し、健康意識の醸成や、分析データから導き出される新しいコンテンツの端末搭載を目指す事業です。

     IP告知端末を使えば使うほどデータが蓄積され、どんなコンテンツが「刺さる」かを解析します。データをオープンにすることで、サードパーティによる提案も期待できます。

  •  3.ブロックチェーンと自治体との融合「日本で最も美しい村デジタル村民の夜明け事業」!

    図3 村の景観をモチーフとした作品等をNFT として販売し、その収入による事業の自走を見込む
    ▲図3 村の景観をモチーフとした作品等をNFT として販売し、
                その収入による事業の自走を見込む

     日本で最も美しい村連合に加盟する鳥取県智頭町と静岡県松崎町との広域連携事業です。美しい村ならではの景観をモチーフにしたデジタルアート作品や、美しい村でしか体験できない権利を「NFT(唯一無二であることが保証されたデジタル暗号資産)」として発行し、ブロックチェーンで管理します。

     購入者はデジタル村民として認定され、さまざまな特典が付与されるほか、地域における新たな課題解決プロジェクトに参画できる権利が与えられます。デジタル村民自らが提案者となることも可能です。

     美しい村を守り続けていく活動がブロックチェーン技術により、新たなステージへ。


鳥取県智頭町
企画課 松村 陽平