▲姫島村(全景)
大分県姫島村
3218号(2022年10月24日)姫島村役場 総務課長 江原 政光
姫島村は瀬戸内海の西端、大分県国東半島の北5㎞の海上に浮かぶ、周囲17㎞、面積6・99㎢、人口約1、800人の沿岸漁業と車えび養殖を主な産業とする一島一村の離島で、大分県唯一の村です。
島と九州本土とを結ぶ唯一の交通機関である村営フェリーが、国東市の伊美港との間を毎日12便(12月~3月は11便)往復しており、所要時間は約20分です。
姫島は、約30万年前からの火山活動が生み出した大地が悠久の時を経て瀬戸内海に浮かぶ4つの小島となり、それらが砂州でつながって1つになった島です。周防灘と伊予灘に囲まれ、古代から海上交通の要所であることと、古代、瀬戸内海を中心に広い範囲で流通し、石器に加工された黒曜石の産地であったことから、「古事記」に、国生みで12番目の島として姫島が登場し、「日本書紀」には、姫島の名前の由来であるお姫様(比売語曽の神)に関することが記載されています。黒曜石の産出する観音崎一帯が、「姫島の黒曜石産地」として、平成19年国の「天然記念物」に指定されました。
▲姫島の黒曜石
四辺を海に囲まれた姫島は古くから漁業が盛んで、明治時代から産卵期に漁を禁止する等の「漁業期節」を定めて、資源保護に力を入れてきました。漁船漁業が主で、現在は、天然の車えび、太刀魚、キス、タイ、タコ等が獲れていますが、近年、地球温暖化等による漁獲高の減少と後継者不足への対策等が課題となっています。
江戸時代から始められた、村の主な産業であった塩田は、昭和34年に廃止され、その跡地を利用して、昭和38年車えびの養殖が始まり、昭和40年に村も一部出資する第三セクターの「姫島車えび養殖株式会社」が誕生しました。以後、紆余曲折を経て、現在は「姫島車えび」の名前で全国的に知られ、沿岸漁業と並ぶ姫島の基幹産業となっています。また「姫島車えび」は姫島村の「ふるさと納税」の返礼品にもなっています。
平成24年、「国選択無形民俗文化財」に指定された「姫島盆踊」は、鎌倉時代の「念仏踊り」から派生したものといわれ、毎年8月14~16日の3日間開催されています。そのなかでも、子ども達が白い化粧をしてキツネに扮装して踊る「キツネ踊り」が特に有名です。
また、渡り蝶のアサギマダラの休息地としても脚光を浴びています。アサギマダラは、南は台湾から北は北海道まで、数千㎞移動することで知られており、春に姫島のみつけ海岸に自生するスナビキソウの蜜をもとめて、5月上旬から6月上旬頃、南の地から飛来し、姫島で休息したのち、涼しい北の地に向かって飛び立ちます。秋には10月中旬頃、世代を交代した蝶が、北から暖かい南の地へと向かう途中で、姫島に自生しているフジバカマの蜜をもとめて休息します。
▲車えび養殖池
▲子どもがキツネに扮装するキツネ踊り
姫島は、約30万年前の火山活動が元で、生まれた島であることから、随所にみられる火山活動の痕跡や砂州を利用して発達してきた産業、生態系など、多くの見所があります。
平成25年、「火山が生み出した神秘の島」をテーマに、海域を含めた島全体が「おおいた姫島ジオパーク」として、「日本ジオパーク」に認定されました。
「日本ジオパーク」に認定されたことから、「重要文化的景観」を目指して「重要文化的景観策定事業」に着手し、令和3年には「瀬戸内海姫島の海村景観」として海域を含めた島全体が「重要文化的景観」に選定されました。
姫島には歴史的に由緒ある「比売語曽社」と「大帯八幡社」の2つの神社があります。人々は、地形、自然、歴史をうまく利用して、2つの神社を中心に、7つの集落を形成するとともに、島と海の資源を活かして、漁業や塩業、農業などを営み、独自の海村景観を生み出し、一島一村として自立的な生き方をしてきたことが評価されました。
⑴「姫島ITアイランド構想」推進の動機
昨今の村を取り巻く環境は、基幹産業である水産業の低迷、少子高齢化、雇用の場の不足、若い世代を中心に村外への人口流出による人口減少等、大変厳しい状況にあります。
このような課題に対処するため、従来からの「水産業と観光の村づくり」に加えて、平成29年に県と連携のもと「姫島ITアイランド構想」を策定しました。IT企業・人材を村外から呼び込み、村に新たな雇用の場と活力を創造するとともに、未来のIT人材の育成・創出・定着を図ることを目的に、「ITの村づくり」の推進に取り組んでいくことにしました。
⑵「姫島ITアイランド構想」の取組内容
「姫島ITアイランド構想」を推進するためには、「都市部と変わらない情報通信環境の整備」、「企業・人材が定着するための支援」、「活力を呼び込むためのブランド力の向上」の3つの要素が必要であると考えました。このためIT企業が進出するための通信基盤の整備、進出後の定着支援、姫島村でのIT関連の勉強会の開催や首都圏等に向けた情報発信等を、大分県と連携して取り組んでいます。
⑶都市部と変わらない情報通信環境の整備
平成29年から令和元年にかけて、旧姫島小学校校舎を活用し、サテライトオフィス7部屋とコワーキングスペースを3カ所持つ「姫島ITアイランドセンター」を整備しました。現在、サテライトオフィスには2社1団体が入居しており、姫島出身者や県内外からの移住者16名が働いています。コワーキングスペースは、姫島に進出の意思がある企業や個人が、短期間試行的に業務を行うことができる施設で、Wi-Fi、プロジェクター、ホワイトボード等を備えています。仕切りのないフリースペース2部屋と小会議用1部屋で構成されています。また令和2年には、村内全域の光ファイバー網を更新し、「ITアイランド構想」のブロードバンド環境を整備しました。これにより、各家庭の通信速度が格段に速くなり、テレワークも問題なくできるようになりました。令和3年には、村内の主要施設や観光スポットにWi-Fiを整備し、観光客等の利便性の向上を図りました。
⑷企業・人材が定着するための支援
「姫島ITアイランド構想」を進めるうえでの課題等を検討するため、立地企業、地元有識者、県・村等で構成する協議会を設置しました。また、姫島村への移住を促進するため、新たに移住者向けのウェブサイトの構築やPR動画の製作、移住ガイドブックを作成して情報発信するとともに、住宅支援として、村営住宅の活用、空き家バンク制度の創設、空き家の購入・改修費用等に係る補助制度の導入をしました。
▲コワーキングスペースA
▲サテライトオフィス
▲姫島ITアイランドセンター(全景)
⑸活力を呼び込むためのブランド力の向上
島外の企業・人材を呼び込むため、LINEによる鮮魚の直売プロジェクト、小型電気自動車やスマートシティプラットフォームの実証実験等、先駆的なプロジェクトの創出に取り組む事業者への支援を行っています。また、IT企業に姫島への興味を持ってもらうため、セミナー、企業交流ワークショップ、プログラミングキャンプ等のイベントを開催しました。さらに、国主催のサテライトオフィスマッチングセミナー等、首都圏で開催される企業とのマッチングイベントやWEB・SNS等を通じた情報発信に取り組み、「姫島ITアイランド」としてのブランディングを図っています。
令和3年には、昨今のワーケーションによる観光需要の増加傾向を踏まえて、ワーケーションモニターツアーを実施しました。このツアーは、軽トラックを改造した斬新なモビリティに乗って、好きな観光スポットで、好きな時間に働くことができる事を目的とするものです。姫島の魅力を活かした自由な周遊プランが注目を集め、多くのご応募をいただき、姫島におけるワーケーションに対する関心の高さを実感しました。
⑹ICTを活用した教育
教育へのICT活用において、令和元年度に小・中学校にWi-Fi環境を整備し、小・中学校に1人1台のタブレット端末を配布しました。また、大分県と連携のもと、地元IT企業による授業サポート、教師向けの研修等、ICT活用事業を行っています。
また、アバターやタブレット、アダプティブラーニングツール等による教育・人材育成や親子プログラミング教室等の開催等を通じ、将来、姫島の子ども達が村内のIT企業等で活躍できる環境づくりを目指しています。
令和4年4月、姫島小学校の校長として大手電気機器メーカーのIT部門の幹部を務めていた方が着任されました。子ども達のIT教育が進むことを期待しています。
⑺「姫島ITアイランド構想」の課題と今後の方向性
企業のデジタル化の推進により、IT人材が不足している状況にあります。また、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、事業継続性の観点から地方におけるリモートワークが注目されており、全国的にIT企業の誘致に取り組む自治体が増えています。
このような状況のなか、ゆったりとした生活環境や豊かな自然環境等の魅力とともに、IT企業が既に進出しているというアドバンテージを活かして、IT企業の誘致に取り組み、大分県と連携のもと「姫島ITアイランド構想」の実現を目指します。
▲プログラミング教室
姫島村役場 総務課長 江原 政光