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福島県昭和村/「からむし織の里奥会津昭和村 先端的過疎への挑戦」

印刷用ページを表示する 掲載日:2022年4月11日

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▲昭和村の風​景​​


福島県昭和村

3196号(2022年4月11日)昭和村長 舟木 幸一


昭和村の概要

 昭和2年11月に野尻村と大芦村が合併して誕生した昭和村は、間もなく村政95周年を迎えます。福島県の南西部に位置する本村は県内7つの町に囲まれ、東西16・8㎞、南北21・55㎞、周囲82・3㎞で、面積は東京23区の面積の約3分の1に当たる209・46㎢です。主要な道路として会津若松市に至る国道401号と、南会津町を経て栃木県に至る国道400号があります。国道401号博士峠については施工中のトンネルが昨年貫通し、長年の悲願であった供用開始が待たれるところであります。村内にある10の集落は、標高400~700mにある野尻川、玉川及び滝谷川に沿った僅かな平坦地に形成されております。ほとんどが山岳地の農山村で、2mを超える雪が降り積もる特別豪雪地帯でもあります。一方、本村南部にある国天然記念物「駒止湿原」、中部にある村天然記念物「矢ノ原湿原」、村内各地で湧き出る銘水など、数々の豊かな自然に恵まれております。特に、新緑もさることながら、紅葉シーズンを迎えた交流・観光拠点施設「喰丸小」の大銀杏は圧巻であり、多くの観光客が訪れています。 令和元年10月には「日本で最も美しい村」連合の加盟が承認されました。「古より伝わるからむし織」と「日本一のカスミソウと木造校舎が残る昔懐かしい農山村風景」が本村の地域資源として高く評価されたものであります。 令和2年国勢調査による本村の人口は、ピーク時(昭和30年)の約4分の1となる1、246人、高齢化率は55%超と公表されたものの、減少率は昭和40年以降の調査において最も低く抑えられています。カスミソウ栽培を希望する新規就農者、「からむし」や昭和村の「人」にあこがれて入村する織姫など、移住者による社会増で自然減を補おうとする村の取組の効果が現れ始めています。

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▲喰丸小と大銀杏

村の特産品「からむし」・「からむし織」

 「からむし」は苧麻とも呼ばれ、背丈以上に伸びるイラクサ科の多年草です。冷涼な気候の本村においては、貴重な換金作物となる「からむし」を上布用の原材料として栽培し続け、根株を増やし守っていくことで、絶やさずに受け継いできました。5月末頃に行われる「からむし焼き」では、からむし畑の表面を焼くことにより「からむし」の発芽をそろえ、成長が均一になるようにします。収穫は7月20日頃から始まります。刈り取ってすぐに数時間から一晩程度、掛け流しの清水に浸けた後、皮の部分を丁寧に剥ぎ取り、からむし引きの道具を用いて1枚ずつ表皮と繊維に分けていきます。表皮をそぎ落としていくことで、繊維に薄緑がかった銀白色の光り輝く「キラ」と呼ばれる独特の光沢が現れます。11月以降、乾燥された繊維を糸の太さに合わせて裂き、繊維をつなぎ合わせます。非常に根気のいる作業であり、帯1本分の量にするまでに約3か月を要します。紡がれた糸を昔ながらの地機や高機にかけ、手織りされてできた「からむし織」は、通気性や吸湿性に富み、軽くてしなやかで肌触りが良く、涼しい着心地は夏衣として最高級と評されています。 平成3年に、からむし生産と繊維に加工する技術が国の選定保存技術に指定され、平成23年には「会津のからむし生産用具及び製品」が国重要有形民俗文化財に指定されました。そして、平成29年には「奥会津昭和からむし織」として、本村のからむしを用いた地機織が国伝統的工芸品の指定を受けたほか、令和3年には伝統技術「からむし織」の伝承と後継者育成に関する取組が、厚生労働省主催の「地域発!いいもの」に選ばれました。

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▲背丈を超える「からむし畑」​​​

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▲乾燥された「からむし」の繊維​

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▲からむし織​​

からむし織体験生制度

 30数年前において「からむし」は、全国的に知られているとは言い難い状況にありました。そこで、「からむし」を始めとする本村の魅力を知ってもらおうと、平成6年度に「織姫体験生制度」を開始しました。当初は、からむし織関連技術保持者の自宅にホームステイする形式でしたが、平成7年度以降は村施設での共同生活としました。後に、体験終了後も村に残り、深く学びたいという希望が多数寄せられたため、平成11年度からは最長で3年間の「研修生制度」を導入しました。近年は、「からむし」と「からむし織」を学ぶことに加え、畑作業体験、生活工芸体験、郷土料理体験など、山村生活でのさまざまな体験を行っております。また、平成29年に昭和村からむし後継者育成協議会を設立し、地機織の後継者育成のための講習会を始め、糸づくりから織りに至るまでの技術向上と習得を目指した研修事業を実施しています。このような活動を通し、令和3年度までに28期生、129名の織姫と彦星を村に受け入れ、そのうち30名を超える方々が村内で生活を続けています。

夏秋期出荷量日本一の昭和かすみ草

 本村の基幹産業は農業でありますが、戦後は長く米と葉タバコが基幹作目として重要な地位を占めていました。しかし、昭和60年、葉タバコの廃作奨励が契機となり、昼夜の寒暖差が大きい本村の気象条件に適した宿根カスミソウの栽培に転換していきました。この取組が功を奏し、今では夏秋期の出荷量が日本一を誇るまでになりました。そして、昭和村集出荷貯蔵施設を通して出荷されたものをブランドとして「昭和かすみ草」と呼んでおり、花が大きく日持ちする品質の高さが特徴です。この集出荷貯蔵施設、いわゆる「雪室」では、大型ダンプ約300台分の雪を搬入し、予冷庫に自然の冷気を送り出しています。令和3年度には予冷庫の拡充・機能強化を図り、低温仕分室から常温の場所を経由することなく、直接トラックへの積込みが可能となるパーフェクトコールドチェーン(低温流通体系)を確立することができました。また、染色液を茎から吸わせて染める「染めカスミソウ」をいち早く開発し、販路拡大を図っています。近年のコロナ禍で冠婚葬祭での需要が大きく落ち込む一方、巣ごもり需要や、染めカスミソウの需要が好調で、昭和かすみ草の販売額は令和3年度に過去最高となる5億6千万円を超えました。今後は、地理的表示保護制度に基づく「昭和かすみ草」のGI登録の実現を目指し、さらなるブランド化に大きな期待を寄せているところであります。

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▲染めカスミソウ​​​​

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▲雪室​​​​​

カスミソウ新規就農者

 平成29年度から新規就農者を募るインターンシップ事業「かすみの学校」を開始しました。まずは昭和村を知ってもらうことを念頭に、1日から4泊5日までの研修期間の中で、ハウスの設置や花の摘み採りなど、栽培全般について栽培農家から講義を受ける農業体験を行い、新規就農者の定住促進につなげております。このような取組もあり、平成15年度から令和3年度までの間に24組33名を受け入れ、そのうち18組25名が現在も本村で就農し、高い定着率を維持しています。今年度は、1年間の研修から始める方と直接経営を始める方を合わせて、新たに6組10名を迎えることになりました。かつての新規就農者が現在の新規就農予定者を指導するサイクルも出来上がりつつあります。 また、子どもたちには、村の基幹産業であるカスミソウ生産を知り、自分が住む村に誇りが持てるよう、小学生は生産農家を訪問したり雪室を見学し、中学生は実際にカスミソウを育てるほか、染色、市場での競り前挨拶、仲卸や生花店での販売を体験する「花育」を実践しています。

先端的過疎への挑戦

 デジタル技術が進展し、自治体におけるデジタル変革が求められる中、除雪車両を遠隔操作する実証実験や、公共インフラとして全村にWi-Fiを整備するための調査を進めています。 本村では除雪オペレーターの高齢化と担い手不足が問題となっていることから、1つの解決方法として、5Gを活用した除雪車両の自動運転に向けた実証実験を始めました。令和3年度は、4Gでありながらも既存の除雪車両にカメラや遠隔操作を可能にする後付け装置を設置し、運転手が乗車することなく別室で遠隔操作用の機器を使って、通行止めにした公道400m区間の除雪を行いました。今年度は別の公道を選定し、通行止めにせず5Gを活用して遠隔操作する実験を計画しております。 公共インフラWi-Fi整備事業については、行政や村民が農業・福祉・医療・教育・防災など、さまざまな分野で暮らしを豊かにするため、1つの手段として全村どこでもWi-Fiを活用できるようにするものです。今年度は携帯電話の不通エリアにあるカスミソウのほ場にアクセスポイントを設置し、新規就農者が現地にいながらにして、遠隔で栽培技術の相談を受けることができるスマート農業実践支援事業を進める予定です。 本村は令和3年度に第6次昭和村振興計画を策定し、100年後も昭和村が昭和村であり続けるために、まずはこれからの10年間を「ここちよく」暮らせるよう、基本構想をまとめました。さらに、本村を含む会津地方13市町村と県会津地方振興局では、地域住民が健康で文化的な満足度の高い生活を実現し、地域経済が持続的に発展できるよう、デジタル技術を始め、アナログ的な手法も含め、あらゆる手法を活用し、事務事業の効率化や標準化、広域連携による地域の課題解決を進めることを目的に、本年1月に「人生100年時代 会津地域自治体広域連携指針」を策定したところです。村民が心穏やかに、不安なく暮らせる村の実現を目指すとともに、村民に寄り添った「顔の見える行政」が実現できるよう、今後も住民サービスの充実を図るため、先端的過疎への挑戦を続けてまいります。

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▲除雪車両の遠隔操作​​​​​​