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岩手県西和賀町/ユキノチカラを町のチカラに

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年8月10日

青空と足跡一つない雪景色

▲冬の景色。県内有数の雪の多さで知られ、1年の半分は雪に閉ざされる


岩手県西和賀町

3129号(2020年8月10日) 岩手県西和賀町長 細井 洋行


西和賀町の概要

西和賀町は岩手県の奥羽山脈の西部、秋田県との県境に位置し、平成17年に旧湯田町と旧沢内村の町村合併により誕生した町です。人口約5、500人、南北約50km、東西約20km、面積590・74㎢で約8割を山林が占めています。

町の北部には和賀岳がそびえ、豊かな自然に恵まれ、南北に流れる和賀川から水を貯えるダム湖の錦秋湖があります。正岡子規が投宿した湯本温泉や古くから湯治場として知られる湯川温泉、JRの駅舎に温泉が併設されている「ほっとゆだ駅」など、個性豊かな温泉を有しています。

町の観光キャッチフレーズ「どこにもない四季と湯の里」のとおり、季節がはっきりしていることが町の特徴であり、その中でも冬の累計降雪量が毎年10mに及ぶなど国の特別豪雪地域にも指定されています。

親雪、利雪、活雪、克雪への取組

昭和30年の中ごろまでは大雪により交通が遮断され、病院まで行くことができないなど雪は住民の生活や生命を脅かす存在でした。現在では除雪体制が整備され、冬期間でも安心して通勤や通学をすることができます。

町内の2つのスキー場では、子どもたちがアルペンスキーやクロスカントリースキーに親しみ、全国大会で活躍する選手やオリンピックを目指す選手を輩出しており、さらに雪をまちづくりに活用しようとさまざまな取組を進めています。

冬季のニュースポーツとして町内で開催される「ほっとゆだ北日本雪合戦大会」は国内でも有数の大会となっており、町内チームは全国大会やフィンランドで開催された世界大会で優勝した実績があります。ミニかまくらや雪像にローソクの火を灯した「雪あかり」は、町内全域がテーマパークさながらに、地域ごとに住民が訪れる人をおもてなしします。

また、雪国文化研究所では雪の冷熱活用が研究されており、冬期間にため込んだ雪を夏に雪室として使うことで、農産物を新鮮に保存することで単価の高い時期に出荷する取組も進めています。

このように西和賀町の取組は、雪と戦い、雪と親しみ、そして雪を活用するなど、雪と密接に関わってきました。

ほっとゆだ駅

▲町のシンボルにもなっている ほっとゆだ駅

ユニフォームを着て雪合戦する人々

▲ほっとゆだ北日本雪合戦大会​

地方創生推進事業への取組

中山間地である西和賀町では、特色ある気候に裏付けられた農産物や加工技術により付加価値を高める6次産業化の取組を進めていましたが、地元の特産品や農産物のパッケージのリデザインを行い、いかに魅力を伝える商品にするかを目指し、地方創生推進交付金事業を活用して、町の地域ブランドづくりに取り組みました。​

6次産業の取組

西和賀町では、事業者の規模が小さいため、町内の農家や製造事業者が手を組み、契約栽培や共同開発に取り組むことで、町内で経済の流れを作る、西和賀型の6次産業を推進してきました。

西和賀町のブランド山菜である「西わらび」は、太くて柔らかくとろみがあるのが特徴で「商標登録」をしながらブランドを高め、他産地の品が250円で販売されているものが500円で扱われるなど付加価値化が図られています。

また、厳しい冬の寒さの中で漬け込まれる「大根の一本漬け」はオーナー制度を採用し、新鮮な状態で届ける体制を整備し、当初は500本だったものが3万本まで販売数を伸ばしています。

湯田牛乳公社では質の高い生乳を活かした低温殺菌牛乳が人気で、良質な生乳をスイーツに加工することで「プレミアム湯田ヨーグルト」や「ギリシャヨーグルトgara」といったヒット商品が生まれ、全国に発信されています。

このほか、町内産のそばを加工した「西和賀そば」は町内の飲食店で提供する地産地消による食文化を活かした取組を進めてきました。このような取組は1次産業の農産物に付加価値を高めることにつながりましたが、地域資源を活用した魅力ある地域の発信とブランドづくりが課題でした。

青空の下、まっすぐに空に向かって伸びる西わらび

▲ブランド山菜として知られる「西わらび」​

西和賀デザインプロジェクトとしてスタート

こうした課題に取り組むためにスタートしたのが、西和賀デザインプロジェクトでした。これまで、6次産業の取組として町内の農家と事業所等の連携のみに留まっていましたが、日本デザイン振興会、県内のデザイナーなどの力を借りて「作る」から「売る」までをトータルで地元事業者を支援することによって、特産品や農産物のパッケージの新たなデザインに取り組みました。

このような取組は全国初めてとなる挑戦であったことから、事業開始の際もメディアに向けて会見を行うなど、町のPRと併せて積極的に行いました。

デザイン案

▲ユキノチカラプロジェクトのフレーム

西和賀デザインプロジェクト、ユキノチカラのロゴマーク

▲雪が持つ魅力を伝えるロゴマーク

ブランドコンセプトの検討

初めに取り組んだことはブランドコンセプトの検討でした。商品開発事業は従来の事業でも行われており、個々のデザインを一新するだけではなく、西和賀町のブランドとして強いメッセージを伝えるシンボルのブランドコンセプトです。

日本デザイン振興会やデザイナーといった関係者も頻繁に西和賀町を訪れ、プロジェクトに参加した事業者のヒアリングや、現場視察を重ねて町の特徴を掘り起こし、雪の多い冬を乗り越えて生きる人々の逞しさ、降り積もった雪が生み出す豊かな水資源、その水が潤す大地が育んだ特産物であることこそがキーであるとして、これらを象徴するブランドコンセプトを「ユキノチカラ」とし、「雪」がプロジェクトのコンセプトとなったのです。

雪をテーマとした「ユキノチカラ」プロジェクト

町の地方創生の取組として進めてきた「ユキノチカラ」プロジェクトは雪をテーマとして商品を開発することで、商品だけでなく、その背後にある町の魅力を伝えることにもつながっています。

さらには、雪の持つストーリーや、雪国のくらしを丁寧に発信することで、魅力を感じた西和賀町のファンが生まれ、移住のきっかけにもつながっています。

県内有数の雪の多さで知られる西和賀町は、1年の半分は雪に閉ざされ、年間の降雪量は10mを超えます。敬遠されてきた雪を「西和賀ならではの地域資源」としてブランディングし、町の魅力を発信するプロジェクトが平成27年から始まりました。

このプロジェクトでは、町と地元信用金庫、町内の食品事業者、県内デザイナーなどが協働し、商品開発・販路拡大を進めて、菓子・酒類・山菜など、多様な商品を揃えています。町の魅力がたくさん凝縮された「ユキノチカラ」は、地域の魅力の再発見にもつながっています。

打合せの様子

▲地元事業者、デザイナー、町が一丸となった打合せ風景

具体的な取組

このコンセプトのもとでロゴマークを作成し、商品開発は事業者とデザイナーのマッチングにより、関係機関が支援を行うことで進めてきました。

新商品開発や既存商品のブラッシュアップなど、事業者の希望はさまざまでしたので、参加した事業所も当初は商品を開発してもらえる従来型の事業を想定していましたが、コンセプトを丁寧に説明することで、全体の統一感を保ちながらも個々を光らせる商品・デザインが生み出されました。

平成27年度は町内産の素材による8つのアイテムが誕生しました。いずれの商品も背景が伝わるパッケージデザインとなりましたが、見栄えの良いパッケージデザインのみならず利益率を上げるための工夫も盛り込まれました。

開発商品の1つとして、どぶろく「ユキノチカラ」が開発されています。西和賀町では、どぶろく特区を取得し、製造を行っていた事業所が中止したため、製造が途絶えようとしていました。このことから、第3セクターが製造を引き継ぎ、「ユキノチカラ」プロジェクトを象徴する商品が完成しました。

また、わらび餅で黒蜜と抹茶クリームを包んだ「雪のようせい」という商品は、それまで黒蜜と抹茶クリームが6個ずつ入った12個入りの商品でしたが、3個入りのミニ包装としてバラ売りをすることで、利益率を上げるという提案が行われました。

商品を「作る」だけでは終らず「売る」ところまでをトータルでフォローするのが、このプロジェクトの特徴と言えます。

お菓子やビールやわらび餅などの商品が並んでいます。

​▲完成した商品の数々

ストーリーから商品を作り上げる

これまでは、個々の商品の魅力のみの勝負でしたが、ブランドストーリーを整理し、そこに沿った商品を開発することで商品群として発信することにつながりました。西和賀町としてブランドの旗を立て、その下で商品開発を進めることで、強い発信にもつながっています。

開発された商品は盛岡駅や東京駅の構内に店舗を有する商店の人気商品となっています。参加した事業者も「以前は町内の旅館や店舗での販売が中心だったが、プロジェクトに参加したことで想像以上に販路を広げることができた」と喜んでいます。

また、「ストーリーから商品を作り上げるのは初めてだったので、これからの商売はこういうものかと勉強になった」と事業者の新たな発見につながっています。

事業者の主体的な活動に

平成28年度には、地ビールや岩手県の地鶏「南部かしわ」などもプロジェクトに加わり、商品開発と企画営業にも力を入れながら、西和賀町の魅力を伝えるプロモーション映像を作成し、商談会場やイベント会場で商品の背後にある地域の物語を丁寧に伝えました。雪国の暮らしを伝えるウェブサイトは、町のファン拡大にもつながり、町の魅力を感じて移住のきっかけになったという人も出てきました。

町の魅力を体現する多くの商品が完成しました。現在、参加した事業者により協議会が立ち上げられ主体的な活動が進められています。

全ての商品が順調に売り上げを伸ばしているわけではありませんが、行政の支援に頼らない取組が始まっています。

商談会

​▲商談会場での様子

フォーラムの様子

▲フォーラムを開催しユキノチカラを町民に共有

ユキノチカラのコンセプト

参加した事業者だけでなく、町民が町の魅力を感じることは大切なことであり、町民向けのフォーラムを開催しながら、身近な資源に気づくことで、地域に誇りを持つきっかけにもつながっています。

次がユキノチカラの柱となった取組のコンセプトです。


岩手と秋田の県境に位置する西和賀町。岩手県内でも一番の豪雪地帯として知られています。

冬の活動を妨げる雪・・・でもこの雪は西和賀の大きな財産です。たくさんの雪が豊富な水を生み、そのおかげで美味しい食材が育ちます。

西和賀名産の西わらびも、雪の重みに耐え、たくましく春に芽吹くのです。春の草を食む牛たちは栄養たっぷりの牛乳を蓄えてくれます。

雪を力に変えるユキノチカラ、岩手県西和賀町から全国へ、自然が生み出す美味しい食を発信していきます。

雪を力に変える挑戦

これまでは社会活動や経済活動を阻害する雪に対して、町民もマイナスイメージを持っていましたが、地域資源として活用を考えることで、見方を変えるきっかけにもつながっています。

ユキノチカラプロジェクトも最初は商品開発から始まった取組でしたが、小さな雪玉がころころと転がることで大きくなっていくように、取組の輪が広がっています。雪を力に変える西和賀町の挑戦はまだまだ続きます。