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鳥取県八頭町/日本の未来のモデルになる田舎をつくる 鳥取県八頭町地方創生の取組

印刷用ページを表示する 掲載日:2020年4月13日

 

旧隼小学校


鳥取県八頭町

3116号(2020年4月13日)  八頭町長 吉田 英人


 

八頭町の概要

八頭町は鳥取県の南東部に位置し、扇ノ山など1、000mを超える山々に囲まれ、これらを源流とする大小多数の河川が合流して八東川を形成し、千代川を経て日本海に注いでいます。八東川流域は帯状に耕地が開け、古くから農林業が盛んで稲作を中心に、梨、柿、りんごなどの果樹栽培も盛んに行われています。

平成17年3月、3町が合併し、総面積206・71㎢、人口およそ2万人の八頭町が誕生しました。

当町へのアクセスは、羽田空港から鳥取空港を経て八頭町まで2時間半、京阪神からも特急列車や自動車で2時間半と、比較的交通アクセスに恵まれている町でもあります。

一方、合併当初は2万人だった人口も平成27年の国勢調査では16、985人と、10年間で約3、000人も人口が減少するなど少子高齢化が進んでいます。

このような状況の中で人口減少に歯止めをかけ、地域に活力を生み出そうと、平成27年9月、「八頭町総合戦略」を策定し、4つの重点取組事項をかかげ地方創生を推進してきました。このうち3つの重点取組についてご紹介します。


重点取組(1)

八頭イノベーションバレーの創出

隼Lab.の誕生

小・中学校の適正配置により、廃校となった校舎を活用して、IT企業などの誘致を行い、新たな雇用の創出や革新的な起業家(イノベーター)が活躍できる施設の整備を行いました。

その一つが、平成29年3月末に廃校となった旧隼小学校をリノベーションし、同年12月に公民連携複合施設として生まれ変わった「隼Lab.」です。

1階には地域の高齢者が集う地域福祉のコミュニティスペースやカフェが入居し、連日家族連れや地元の皆さんで賑わっています。また、2階・3階はオフィススペースやコワーキングスペースで、現在、入居事業所は16事業所とオープン以来、満室の状態が続いています。

「隼Lab.」で開催されるイベント・セミナーなどの実施回数は140回以上、来場者数は42、000人を超え、県内外からの視察数も50回を超えるなど、全国からも注目を浴びる施設となっています。

「隼Lab.」の施設整備は八頭町が、地方創生拠点整備交付金等を活用して、約1億8千万円でリノベーションし、管理運営は新たに設立した「(株)シーセブン」に行っていただくこととしました。この管理運営会社は、地元金融機関や、県内外の大手企業の民間7社が出資して設立された会社で、その代表を務めているのが、東京からUターンし、レストランや民宿を経営する32歳の古田琢也さんです。

古田さんは、「隼Lab.」の将来について、「まちにチャレンジを生み出し、イノベーションを起こす。この町に育つ子どもたちの未来の選択肢を広げる。日本の未来のモデルになる田舎をつくりたい。」と熱く語ります。

まだまだスタートしたばかりの「隼Lab.」ですが、若者たちが、力強く、たくましく地域に根を張っていく、そんな出る杭を伸ばす八頭町であり続けることが求められています。

「隼Lab.」で行われた起業家セミナーの様子

▲「隼Lab.」で行われた起業家セミナーの様子

親子連れで賑わう「隼Lab.」

▲親子連れで賑わう「隼Lab.」

廃校が里山リゾートホテルに変身

令和元年7月には、旧大江小学校を改修した里山リゾートホテル「オオエバレーステイ」が誕生しました。

3階建ての校舎の1階は、エントランスと囲炉裏を使って鳥取県産の食材を使った料理が楽しめるレストランです。2・3階は客室となっており、多様な宿泊客に対応できるよう、ドミトリータイプの部屋から豪華なジュニアスイートタイプの部屋など、22種類の部屋を備え、最大130人が宿泊できるホテルとなっています。年間3万人の宿泊客を見込んでおり、星空観察、農作業体験など、田舎ならではの体験プログラムも多数準備されています。

この「オオエバレーステイ」は、パンケーキなどで有名な、大江ノ郷自然牧場(代表:小原 利一郎さん)が経営を行っており、施設整備は大江ノ郷自然牧場が国や県の助成を受け、5億円余りをかけてリノベーションしました。

代表の小原社長は「自然豊かな田舎での宿泊や農業体験、鳥取県の食材を使った食事など、鳥取県の魅力が詰まった施設としました。鳥取県の観光拠点として、地域経済が発展するよう頑張っていきたい。」と語っています。

近年では来町される外国人も増加しており、「オオエバレーステイ」がインバウンドを呼び込む拠点施設となるよう大きな期待が寄せられています。

里山リゾートホテル「オオエバレーステイ」

▲里山リゾートホテル「オオエバレーステイ」

オオエバレーステイの内装

▲「オオエバレーステイ」の内装

自動運転バスの実証実験

八頭町では、町営バスを7路線運行していますが、運転手の高齢化や人材不足により、バス路線の維持が大きな課題となっています。そこで、自動運転バスの開発に取り組むSBドライブ(株)と平成28年5月に中山間地域の代表自治体として連携協定を結び、共同で自動運転バスの研究に取り組んできました。

これまでの成果を検証するため、平成31年3月23日から4月5日まで、八頭町で自動運転バスの実証実験を行いました。実験は町営バスが運行されている郡家駅から大江ノ郷自然牧場までの7・2kmを、実際に運行中のバスと同じ車種の車両が自動運転レベル3で走行しました。(自動運転レベル3とは、公道での走行が認められ、運転手が乗車するものの、手を離して運転するレベルです。)

この自動運転バス実証実験には、鳥取県内外から403人(59便)の方に乗車いただき、試乗後のアンケート調査では9割以上の方が「自動運転バスが導入されたら利用したい」「自動運転バスは危険ではない」と回答され、中には、「老人が生きる希望がわいた」と心に響くコメントも寄せられています。

自動運転バスの実証実験では、警察署、道路管理者である県、沿線住民の皆さんと協議、打ち合わせを重ねる中で、安全性を確保しながら実施することができました。

今後、自動運転バスの本格導入にあたっては、公道を無人で走行するための道路交通法の改正や信号機、踏切等の自動認識システムの改良、自動運転システム導入のランニングコストなど課題はたくさん残されていますが、中山間地域の公共交通を維持するためにも、自動運転バスの本格運行を目指して取組を促進していきたいと考えています。

自動運転バス

▲地元の皆さんも期待を込めて

自動運転の様子

▲自動運転の様子

出発式の様子

▲出発式の様子


重点取組(2)

若桜鉄道を活用した観光振興

水戸岡 鋭治氏デザインによる若桜鉄道「観光列車」の運行

若桜鉄道は国鉄の民営化により、昭和62年10月に設立した第三セクター「若桜鉄道(株)」が運行する鉄道で、平成21年4月から全国初の公有民営方式に移行しています。

若桜鉄道区間の郡家駅から若桜駅までは8駅、19・2km、所要時間約30分の区間を運行し、8駅のうち6つの駅舎が昭和5年の開業当時のまま現存することから、平成20年7月に文化庁の有形登録文化財に認定され、若桜鉄道全体が文化財的価値を持った施設となっています。

若桜鉄道が保有する車両3両を、平成29年から令和2年までの3年間かけて観光列車にリノベーションしました。デザインはJR九州の「ななつ星IN九州」のデザインを手掛けられた水戸岡 鋭治氏にお願いしました。

観光列車第一号は平成30年3月、若桜鉄道沿線の空の青と水の青をイメージしたブルーカラーの「昭和」が、平成31年3月には、八頭町の特産品である柿をイメージしたロイヤルレッドの「八頭号」がデビューしました。さらに、令和2年3月にはモスグリーンの「若桜号」がデビューします。観光列車は鮮やかなデザインの外装に加え、内装は木材をふんだんに使用し、座席シートも高級感のある仕上がりとなっています。この観光列車は、通常の通学・通勤列車としても運行されていますが、土日には貸し切り臨時列車として、団体旅行にも活用されており、減少傾向にあった利用客が増加するなど、大きな反響を呼んでいます。

また、8つの駅舎や沿線周辺も「昭和レトロ」の風情に戻す取組も行っており、鳥取県内だけではなく、日本の観光資源としても注目を浴びることとなりました。

今や若桜鉄道は、沿線の人を運ぶ交通手段としてだけではなく、地域の活力を見出す、地域の宝として生まれ変わろうとしています。

観光列車 八頭号

▲観光列車「八頭号」

観光列車の内装

▲観光列車の内装

「昭和レトロ化」に改修された因幡船岡駅

▲「昭和レトロ化」に改修された因幡船岡駅


重点取組(3)

八頭ブランドの確立

八頭町の基幹産業は農業です。農業生産量のトップは稲作で年間の生産量は1966t、次に多いのが梨で852t、3番目に多いのが柿の669tと、果樹栽培の盛んな町でもあります。

特に「こおげ花御所柿」は平成30年12月に、GI(地理的表示保護制度)に登録され、八頭町の特産品として、首都圏でも注目を浴びています。東京の有名フルーツ店では、1玉が1500円以上で販売されるなど、味、品質とも定評があり、人気の商品となっています。

また、稲作においては、平成29年から県の特別栽培米として「神兎」のブランド化を推進し、堆肥を活用した減農薬で栽培された米は、環境や体にやさしいブランド米として販路が拡大されつつあります。

しかしながら、本町においても基幹的農業生産者の平均年齢が70歳を超えるなど、農業後継者不足は大きな課題となっています。このような状況の中で、ITを活用したスマート農業に挑戦する若者も出てきており、農業を通して地域活性化を図っていく取組も進みつつあります。

今後は、儲かる農業、体や環境に優しい農業をめざしていくことが期待されています。

花御所柿畑で柿狩りを楽しむ観光客

▲花御所柿畑で柿狩りを楽しむ観光客

特別栽培米 神兎

▲特別栽培米「神兎」​

現状と今後の課題

地方創生事業に取り組んでから5年。人口減少をいかに食い止めるかに主眼をおいてきたわけですが、なかなか人口減少には歯止めがかからず、都市部からの人口流入も少数に留まっているのが現状です。

こうした状況の中、八頭町人口の自然増減は、毎年▲150人程度で推移している一方、社会増減では「隼Lab.」や「大江ノ郷自然牧場」の取組により、若手従業員や起業家の移住も進み、5年前が▲120人であったものが、昨年は▲17人と社会減には歯止めがかかりつつある状況も生まれてきました。

今回紹介させていただきました地方創生の取組のキーワードは「公民連携」にあると考えています。幸いにも八頭町には、(1)勢いのある、全国に向けても発信力の高い若手経営者が存在していること、(2)若手経営者の方々が、地域コミュニティ組織とも連携しながら、事業展開していただいていることなどが成功に結び付いているのではないかと考えます。

地方創生の取組は短期間で結果が見えるものではなく、地道な取組を継続していくことが重要です。令和2年3月に策定予定の「八頭町第2期総合戦略」では、(1)八頭町で活き活き働く、(2)八頭町で伸び伸び子育て、(3)八頭町で元気に暮らす、(4)八頭町でキラキラ輝く、(5)八頭町で楽しく交流 の5つの視点をキーワードとして、日本のモデルとなる田舎をつくっていきたいと考えています。