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長野県喬木村/人口減少に立ち向かう村~遠隔教育をはじめとするICTを活用した教育の取組~

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年7月8日

遠隔合同授業

遠隔合同授業


長野県喬木村

3086号(2019年7月8日) 喬木村教育委員会


喬木村の概要

喬木村は長野県の南部、伊那谷を南北に流れる天竜川の東岸に位置し、河岸段丘上にあります。人口6,369人(平成31年3月31日現在)で、村内には保育園3園、小学校は喬木第一小学校(児童数313人、以下第一小)と喬木第二小学校(児童数47人、以下第二小)の2校があり、児童は第一小に隣接する喬木中学校(生徒数195名、以下喬木中)に進学します。村全体の少子高齢化も深刻な課題ですが、特に第二小学校区では児童数の減少が急速に進行しています。

人口減少対策が喫緊の課題となる一方で、リニア中央新幹線が開通すると、東京から45分、名古屋から25分、また浜松と中央道を結ぶ三遠南信自動車道路が開通すれば、浜松から90分で結ばれるなど、利便性の向上や人口流入が期待されています(図1)。

図1 リニア新幹線でつながる都心と喬木

図1 リニア新幹線でつながる都心と喬木

喬木村では文部科学省実証事業「人口減少社会におけるICTの活用による教育の質の維持向上に係る実証事業」(平成27~29年)の採択を端緒に、地域創生の施策の一つとして「教育」を位置付け、「子育ての村・喬木村」として「教育」を村の魅力として発信し、移住定住の促進にもつなげていこうと、最先端のICT機器の整備を進めています。伝統が息づく自然豊かな村の風土を最大限活用しながら、ICTを効果的に教育に取り入れることで、未来を生き抜き、次代を担っていくリーダーの育成を目指し取組を進めています。

ICTの導入の契機

中山間地域に位置し、児童数の少ない第二小は、「学級内で交流する個性が限られてしまう」「リーダーシップのある児童の意見に左右されやすい」「考え方が固定化される傾向がある」などの教育的課題を抱えています。第二小を維持しつつ、このような課題を解決するため、平成27年度より文部科学省の実証事業「人口減少社会におけるICTの活用による教育の質の維持向上に係る実証事業」に応募し採択を受けました。小規模校である第二小と第一小を遠隔会議システムで結び、多様な他者と交流し、様々な考えに触れることができる合同授業を行うことで、課題解決を目指しました。本取組は、実証事業を終え、村独自の体制になった現在も継続しています。

また、小学校での実証事業の開始に伴い、中学校へのICT機器の整備も行いました。小・中学校間のスムーズな引き継ぎに考慮し、小学校で培ってきた経験を存分に発揮するため、中学校には全普通教室への電子黒板の配置のほか、生徒一人一台のタブレットPCを、ふるさと納税による税収を活用し導入しました。

以上のように、本村における教育へのICT機器導入の契機は、小規模校の課題解決を目指したものでしたが、その根底には、ソサエティ5・0の時代を生きぬく子どもたちのための教育環境を実現しなければいけない、という首長の強い願いがあります。AI技術やロボット産業の発展により、予測困難な社会が到来します。学校教育においてもICTを学習手段の一つとして使いこなし、生涯学び続ける力を育成していかなければいけません。新学習指導要領で示された目指すべき教育の在り方においても、ICTが整備されている環境があることが前提となっています。

リニア新幹線などの高速交通網の発展やテレワークの導入といった働き方の変容を鑑みれば、勤務地を都会に置きながら本村のような自然豊かな中山間地域を居住地とする生活を選択することへのハードルも低くなっていくことが考えられます。そのような働き方を選択し移住のニーズがある層にとっては、移住先の条件として教育環境の充実を求める割合も決して低くないはずです。伝統が息づく豊かな自然に囲まれながら、先端技術による未来を志向した教育を受けられる本村へ、「子育てをするなら喬木村」と移住を決断していただけるような魅力ある教育環境づくりが急務であると考えています。そこで、村の施策の一部としてICT活用による教育の振興を位置付け、首長部局と教育委員会事務局が連携をとって現在まで取組を進めています。

学校による取組の実際

・小学校「遠隔合同授業」

現在、第一小と第二小の遠隔合同授業は両校のパソコン教室を改装した「アクティブラーニング教室(以下、AL教室)」で行われています。AL教室には、テレビ会議システム(カメラやスピーカー、マイク、大型モニター等)や電子黒板、児童用タブレットPCなどが常設されています。

遠隔システムは、大きく分類して次の3つの構成でできています。

一つ目は、連携映像音声システムです。AL教室には、教室正面から児童の様子全体を捉えるカメラと、教室後方から教員や発表者を捉える2台のカメラが設置されています。ズームしなくても相手校の児童の顔を把握することができる解像度なので、カメラを頻繁に操作する必要がありません。また、話している児童もわざわざカメラの前に出てきたり、マイクの近くに寄ったりせず、自分の席で普段と同じ声量で話せば、相手校に音声が伝わります。モニター越しではありますが、同じ教室にいるかのように、普段通りの先生と児童のやりとりが行えます。

二つ目は、連携電子黒板システムです。これは、片方の電子黒板で映し出している資料や書き込み内容と同じものが、相手校の電子黒板にもリアルタイムで映し出されているという、画面共有機能のことを指します。

三つ目が、連携学習支援システムです。児童用のタブレット端末に課題を送信したり、児童がそれぞれタブレットに書き込んだ内容を電子黒板上で一覧表示できるシステムです。

システム上の名簿は、第一小・第二小を合わせた合同クラスとして編成してあるので、第二小の先生が配信した課題は同時に第一小の児童にも届き、電子黒板には両校の児童のタブレット画面が一覧表示されます。

連携電子黒板と連携学習支援システムがあることで、離れた二つの教室にいても、まるで同じ教室で授業しているかのように同じ板書や資料をみて意見を言い、電子黒板に一覧表示された多様な考えをもとに議論をすることができます(図2)。

図2 遠隔合同授業の様子

図2 遠隔合同授業の様子

このような学習形態のほかにも、タブレット端末で遠隔グループ学習にも取り組めるような環境を整えています。さらに平成30年度からは、AL室で行う第一小と第二小の遠隔合同授業だけでなく、普通教室で簡易につなげられる遠隔システムを使い、他県や海外の学校と合同授業を行う取組も始めています(図3)。

図3 海外との交流の様子

図3 海外との交流の様子


・中学校「一人一台のタブレットPCの活用」

喬木中では、生徒一人一台のタブレットPCと全普通教室への電子黒板、そして教員にも一人一台の授業用PCを整備しました。平成27年度に整備が始まったことをきっかけに、学校が主体となり授業改善の取組を行ってきました。

最初の1年目は、教員のICT活用力の向上を目標に、電子黒板やデジタル教科書を活用して「わかりやすい授業」を実現していきました。電子黒板上にデジタル教科書を提示し、ズームして資料を大きく写したり、書き込みをして重要な個所を強調したりすることで、生徒の理解を促し、知識の定着を図りました。教員が教材を自作し、授業で活用する場面も多くみられました(図4)。

図4 中学校 教員のICT活用

図4 中学校 教員のICT活用

2年目は、生徒が主体的にタブレットPCを活用しながら学習を行っていくことを目標に、授業支援ソフトやOffice系のソフトを活用し「協働的な学び」の実現を図りました。自分の考えや調べたことをまとめたデジタルノートをクラス内で共有し、ほかの友達の考え方を参考にしながら、さらに深く考えたりディスカッションを行ったりする授業や、学んできたことをプレゼンテーションとしてまとめ発表するような授業が展開されました。

そして、3年目には、長野県のICT活用パイロット校に指定され、長野県ICTシンポジウムという県域の公開研究会を行い、県内外から300名余りの教育関係者にお越しいただきました。すべてのクラスで生徒がタブレットPCを活用した多様な授業を公開し、その学びの成果を全国にむけて発信することができました(図5)。

図5 中学校 生徒のICT活用

図5 中学校 生徒のICT活用

このようなICTの環境整備に伴う授業改善は学力の向上にも寄与しています。全国学力学習状況調査の全国平均との差を比べた結果の推移をみると、ICTの導入が決まった27年度から現在に至るまで、全体的に上昇傾向にあります。これは、ICTを導入したことで生徒の学力があがったという単純な因果関係ではありません。機器の導入に伴い、先生主導の講義式の授業から生徒主体の協働的な学習へ先生方の授業改善の取組が始まり、それが年々結果として表れているのです(図6)。

図6 中学校における成果

図6 中学校における成果

現状と今後の課題

実証事業として取り組んだ遠隔合同授業では、小規模校の児童において、学びの広まりや深まりが実感されたことが実証されました。平成29年に行った児童対象のアンケートでは、遠隔合同授業を経験した児童が、多様な考えに触れられたこと、それにより自分の考えが深められたことを実感しているという結果が出ました。普段は、数名の友だちの意見や考えを聞く機会しかない第二小の児童も、遠隔合同授業をすることで30人規模のクラスの中で授業をするのと同様の情報量を得ることができます。多様な情報を整理・比較・分析していく授業が小規模校においても経験することが可能になりました。

また、第一小の児童アンケートからは、「いつもと違う友達の意見が聞けて面白い」「第二小は人数が少ないのにたくさん意見がでてきてすごい」など、遠隔合同授業の良さにつながる意見が多数ありました(図7)。

図7 遠隔合同授業の成果

図7 遠隔合同授業の成果

本村においては、遠隔合同授業やICT活用のスタートは人口減少による課題解決でしたが、それだけにとどまらない可能性があると感じています。それは、学校や学年、地域や国境を越えて多様な他者と出逢い、協働する機会を創出できること、将来の多様な働き方を想定した、ICTを活用したコミュニケーションの力を育成できること、そして学習者主体の授業への変換を促すことによる教員の授業力向上などです。

今後は、すでに導入され5年を迎えようとしている機器の更新を考えていかなければいけない等の課題もあります。しかし、教育への投資は、未来を創る子どもたちへの支援であるとともに、地方創生の施策として重要な役割を果たすと考えています。よりよい教育環境の実現のためにも、今後も首長部局と教育委員会事務局が一丸となって邁進して参ります。