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奈良県川上村/住み心地を整え、新しい出会い・つながりを求める“村づくり”

印刷用ページを表示する 掲載日:2019年4月22日

移動スーパーに同行する村の保健師

移動スーパーに同行する村の保健師


奈良県川上村

3078号(2019年4月22日) 川上村 定住促進課・一般社団法人 かわかみらいふ


川上村の概要


川上村は、奈良県南東部の吉野川(紀の川)源流域に位置し、500年以上続く「吉野杉」の産地として知られています。

「川上村に暮らす住民はもちろん、下流域の人々とも手を携えて、かけがえのない水と森を育てていきたい。」

そんな願いと決意を込めて1996年、全国に向けて「川上宣言」を発信しました。その後、自然による緑のダムとコンクリートによる文明のダムとの共存「樹と水と人との共生」の取組が始まり、都市にはない豊かな暮らしの実現に向けて、住民と協働の村づくりに邁進しています。

地域おこし協力隊や地域おこし企業人、役場職員による集落支援員「おてったいさん制度」や民間企業と協業した「未来への風景づくり事業」、(一社)吉野かわかみ社中による吉野林業再生事業など、これらの取組は村内外から高い評価を受けています。

一方で、2015年の国勢調査人口は1,313人、高齢化率は57.4%。2018年に国立社会保障・人口問題研究所が、2045年の将来人口の減少率で川上村が全国ワースト1位の79.4%減少という推計を発表しました。衝撃的な予測ではありますが、推計は真摯に受け止め、このような結果にならない対策を進めています。

村では、住民と行政だけでなく大学や民間などが理念を共有し、総力を挙げて知恵を出し合い、地域社会(地方自治)を維持していく難題に向き合っています。今年、村制施行130年を迎える川上村の推計予測と今後の成果(数値)・住民の住み心地(居心地)に注目していただければと思います。

おおたき龍神湖(大滝ダム)

おおたき龍神湖(大滝ダム)

日々の暮らしの安心

♪チャカ、チャンチャンチャン♪

お肉や野菜、総菜などを積んだトラックから流れる地元民謡「川上小唄」を合図に、住民が集まってきました。ある地区では、移動スーパーの販売時間に合わせて公民館で自主的に体操教室やサロンを開催して、ついでのお買い物を楽しみにしている住民の姿も見られます。

すべての住民が村で住み続けられる仕組みづくりを目指し、買い物支援や福祉サービスなどを村内の団体や村外の民間企業と連携して販売しているのが、(一社)かわかみらいふです。「寒くなってきたけどカゼひいてないけ?」「子どもさんは保育園楽しんでる?」販売スタッフとの会話が弾み、買い物そっちのけの井戸端会議が始まります。かわかみらいふは、他にも日用品の宅配やガソリンスタンドの経営をしており、家庭や集落に出向く機会に合わせて住民に声かけを行うとともに、日々の暮らしの変化の情報収集をすることも大切な仕事の一つです。

さらに村職員である看護師も移動スーパーに同行し、健康状態のチェックや体調管理のアドバイスをしています。病院や役場などの特定の施設ではなく、村の日常や住民の暮らしの中が活動の場である看護師は大変珍しいと思います。こうして出向くことで得た情報は日報に記載し、村役場はもちろん、社会福祉協議会や診療所、民生委員などと共有することで、暮らしの中から医療・介護・予防・支援へとつなげています。地域のチカラを総動員した川上村版地域包括ケアとも言える取組です。

移動スーパーの様子

移動スーパーの様子

山間に点在する集落

山間に点在する集落

「お互いさま」と「協働」の意識の醸成

これらの取組が行われるようになったきっかけは、平成25年からはじまった役場若手職員による、後に「川上ing作戦」と命名された勉強会でした。川上村では早くから都市部からの若者移住施策に取り組んできましたが、「いま住んでいる住民の生活や仕事などの日々の暮らしはどうなのか。改めて自分たちの足元から勉強して見つめ直そう。」ということで、独自の人口分析や事業所訪問による意見交換、地域活動を支える人財の把握や地区カルテの作成を行いました。その結果、都市部に住む子どもからの呼び寄せによる高齢の親の転出が増加傾向にある驚愕の現状を知ることになりました。

車の運転ができない高齢者は日々の買い物に大きな不便さと負担を感じ、家族は火の始末や田舎ならではのご近所の手助けに引け目を感じる場面があることも要因なのかもしれません。そんな状況の中、買い物の支援から取り組もうと、平成28年から(一社)かわかみらいふによる移動スーパーと宅配が運行を始めました。地元のスーパー吉野ストアと連携した2台の販売トラックは、1週間かけて26地区60ヶ所を回り、宅配は市民生活協同組合ならコープに注文いただいた家庭へ日用品などを配達します。

スタッフは全員村民で、お茶を入れて待ってくれている住民とのおしゃべりや、居間の電球交換、重たい家具の移動などの生活支援を行うことも大切な仕事です。お困りごとのお手伝いは家族構成や健康状態を知っている現場スタッフの判断に委ねています。いたれりつくせりではなく、必要な方へのお手伝いをスタッフは心がけています。

こうした買い物というツールを利用した「お互いさま」と「協働」の意識の醸成が図られ、元気なお母さんは「いまは運転できるけど、10年後の私たちの世代のために移動スーパーがあって欲しいから喜んでお買い物するよ。」という、住民が住民の暮らしを支える川上村らしい仕組みがいま、構築できつつあります。

ネット通販や大型スーパーに品ぞろえも価格も勝負はできませんが、買い物を通じて住民と村との接点を持ち、さらに日々の暮らしの安心という付加価値をプラスすることで、新たな雇用や地域内経済循環にも寄与しています。保育園の園児、小中学校の児童生徒の半数が移住された方の子どもであるという、都市部からの移住にも結びつく結果を示す近況報告も現場から届いています。

自宅への配達

自宅への配達

冬の移動スーパー

冬の移動スーパー

持続可能なビジネススキーム

かわかみらいふの事業展開にあたっては、住民、行政、参画している民間企業の3者がwin-win-winの関係になることを目指しました。


[移動スーパーの特徴]

・商品供給元である地元スーパー吉野ストアで商品を積み込み、店舗と同じ価格で販売し、売れずに持ち帰った商品は店舗で特売品として夕方に販売。かわかみらいふは仕入れを行わず、販売業務を受託。

・吉野ストアは販売経費をかけずに商品売上げが増加。かわかみらいふはリスクを負うことなく販売手数料と雇用の創出を得る。

・住民はおしゃべりを楽しみながら、商品を見て選んでお買い物。


[宅配の特徴]

・ならコープ物流センターから出荷された荷物を村内でかわかみらいふの宅配車に積み替え、各家庭へ宅配。

・利用者数や地理的要因から物流採算に見合わない地域をならコープから受託し、さらにかわかみらいふが宅配とともに声かけや生活支援のサポートを実施。

ならコープの宅配

ならコープの宅配


[ガソリンスタンドの特徴]

・経営者の高齢化と後継者不在による廃業意向の村唯一のガソリンスタンドを継業し、県内初の公設民営方式で再オープン。

・灯油配達などの営業面はもちろん、防災拠点や情報収集の場としての地域福祉の機能と拠点づくりの必要性に共感した油類供給元の「伊藤忠エネクス(株)」・販売元である大阪の「(株)丸井商會」との相互の価値向上の意思形成が図られた。


地域での事業活動継続の目的から協業する。または、ライフラインを守るという社会的責任を果たすとともに地域と社会貢献の一つとして協業する。このように目的は多種多様でありながら、それぞれがマイナス点や弱いところを補いつつ、地域住民の認知と利用度を高め、地域内経済循環を確立することは、川上村における持続可能なビジネススタイルの構築事例として、多方面から注目されています。

いずれにしても課題や問題の解決を、行政も住民も企業も人任せにすることなく、手を取り合って一人ひとりの生きがいと役割づくりを目指す理念に共感しあえたことに、新しい価値があると認識しています。

県内初の公設民営SS

県内初の公設民営SS

教育の充実と子育て支援の拡充

平成22年国勢調査から3年間の転入・転出・出生・死亡の数値と、平成27年国勢調査から3年間の同様の数字を比較してみました。

転入はほぼ同数にもかかわらず、転出は約3割減、出生はなんと約3倍増となっています。まずは住んでいる住民の暮らしの支援を実践しよう、という川上ing作戦でしたが、住み心地が良いよ、という口コミからか、都市部からの若者移住が増加するという副産物がうまれ、同時に村内ではベビーブームが到来しています。地域では子ども会活動が復活するなど地域の伝統行事や文化の継承にもつながる、嬉しい成果が出始めています。

そんな川上村での子育てを支援しようと始まった「習い事補助金」がお母さんに好評です。文化、芸術、スポーツや学習塾などの年間の受講料の3分の1を補助するもので、小学3年生の女児は片道2時間かけて以前住んでいた三重県伊賀市でピアノを習っています。前の学校の友達に会えるのも楽しみで続けているようです。6年生の女児は片道1時間かけて村内ではできない本格的なバレエ教室へ通っています。子どもの将来の夢の実現や趣味での習い事ですが、移動時間に加えてガソリン代の負担は大きいものです。受講料の一部だけでも補助することで「医療や福祉だけでなく、習い事まで支援してくれることに、子どもへの村の思いを感じ、ありがたい。」と児童生徒の7割以上が活用しています。都市部での暮らしの格差是正と新しい出会いに寄与できているように受け止めています。

“15の春は正夢に”

最大の子育て支援策は「教育の充実」と考えています。へき地小規模校において、時代に通用する学力や豊かな人間性、ふるさとを愛する心を育む教育を推進するために、小学校6年(前期課程)と中学校3年(後期課程)を9年間にまとめ、連続した教育課程により運営する『義務教育学校』を設立し、小中一貫教育に取り組んでいきたいと考えています。

拠点施設で世代間の交流

拠点施設で世代間の交流

都市にはない豊かな暮らしの実現に向けて

もし、「かわかみらいふ」がなかったら…。人口1,300人余りの村で年間1億5千万円の売上げが都市部で使われ、生活の不便さが転出につながり、新しい出会いの機会も失っていたかもしれません。

人とお金の流れを逆流させるとともに、村内消費を拡大させて村外の民間の活力とノウハウを活かした内需拡大と外貨獲得の両輪で経済を循環させることで、住民が暮らし続けることができる環境をつくることが、今後の目標です。

一方で「かわかみらいふ」によるきめ細かな生活支援サービスの取組により、都市部に住む家族や地域との関わりが疎遠にならないように注意しなければなりません。地域内での支え合いとお互いさまも大事であるとともに、家族が関わる役割をしっかりと求めていきたいと思います。

いま「かわかみらいふ」が評価されるのではなく、5年後、10年後に、1日でも健康で住み慣れた家で暮らす日が長くなった、子どもたちの学力が向上した、一人当たりの医療費が減少した、という住民に見えるかたちで取組の成果の可視化(数値化)も求められています。

こうした村づくりが的外れであるとは思っていません。さらに工夫と努力を重ね、都市部への流れに逆らいながら、この地で「役割」と「使命」を果たしていくことが住民の日々の暮らしの安心につながり、これからもそれが私たちの仕事であると自負しています。

配達時のおしゃべり

配達時のおしゃべり