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福井県高浜町/美しい自然を舞台に一人ひとりが主役になる 暮らしたい、働きたい、訪れたいまちを目指して

印刷用ページを表示する 掲載日:2018年7月9日

青葉山

若狭和田ビーチから青葉山をのぞむ


福井県高浜町

3046号(2018年7月9日)高浜町長 野瀬 豊


はじめに

高浜町は、福井県の最西端に位置し、人口1万人強が暮らす穏やかな田舎町です。南東はおおい町、西は京都府舞鶴市と隣接しており、南西の飯盛山脈を背にして北は日本海若狭湾国定公園に面しています。リアス式海岸の特徴を示す内浦地区には原子力発電所があります。和田地区から高浜地区を経て青郷地区に至る8㎞の海岸線は白い砂浜と松林による変化に富んだ風景が連なり、8つの海水浴場を擁しています。町の西部にある青葉山は標高693mあり、その雄姿から「若狭富士」とも呼ばれ町民のシンボルとして古くから親しまれています。

産業としては、農業、漁業といった1次産業を中心に発展し、その後関西・中京方面からの海水浴客の増加に伴い観光業が栄えました。民宿群で構成される町並みの景観は、どこか懐かしい日本の原風景を醸し出しています。

「選ばれるまち高浜」へ

高浜町は、関西圏からのアクセスが良好であり、観光や産品販売に有利な立地条件を有しています。平成26年には舞鶴若狭自動車道の全線開通により都市圏からのアクセスが格段に向上しました。さらに、2023年には、北陸新幹線の敦賀駅開業を控え、将来的には小浜市を経て京都、大阪に延伸するルートの決定など、今後も当町が属する若狭湾エリアを取り巻く観光・交流圏は目まぐるしく拡大・発展していくものと期待しています。

一方で、他の地方都市と同様に当町も人口減少、少子高齢化の波が押し寄せており、これに伴う財政の硬直化や地域産業の活力低下は深刻さを増し、これら複合課題に対応できる革新的かつ実効性のある行政運営が求められています。

高浜町では、こういった未曾有の危機を踏まえつつ、町内に現存する人やモノ、自然といったあらゆる価値を再度見つめ直し、さらに磨き上げた上で「選ばれるまち」として持続・発展すべく、平成23年3月に高浜町総合計画を策定しました。現在は後期計画実施期間にあたり、「暮らしたい、働きたい、訪れたい」まちの実現に向け、町民の方々と協働しながら着実な施策運営に努めています。

また、高浜町まち・ひと・しごと創生における人口ビジョンでは、平成2年の総人口12、310人をピークに、平成27年は10、528人にまで減少し、将来的には消滅可能性自治体に位置づけられるなど、人口減少も深刻化しています。

これを回避するため、総合戦略においては、特に、20~30代の女性にターゲットを絞って、子育てや健康づくりの面で高浜町にしかできない魅力ある施策を展開しています。

今回は、こういったターゲット層に直接響き、さらに波及効果が期待できる2つのプロジェクトを紹介します。

アジア初の国際環境認証「BLUE FLAG」

1つ目の取組は、高浜町が誇る海に関するものです。

当町の若狭和田ビーチは2016年4月14日に「BLUE FLAG」を取得しました。これは日本、ひいてはアジア初の快挙となるものです。

まだまだ認知こそされていませんが、「BLUE FLAG」とはビーチ・マリーナに対する世界で最も古い国際環境認証です。この認証を取得するためには、①水質、②環境マネジメント、③環境教育と情報、④安全性・サービスといった4項目33基準の厳しい基準があり、これらをクリアしたビーチ・マリーナにのみ与えられ、現在は世界45ヶ国、約4、423ヶ所が取得しています。

ポイントとなるのが、ただ海が美しいというだけでは足りず、安全や教育、サービスといった健全な海辺環境を支える「ひと」の原動力が存在するかどうかという点です。

高浜の海は昔から地元の人によって愛され守られてきました。そして、国際認証というひとつの形(=目標)ができたことで、これまで地域住民や観光関連団体、各種機関が抱いていた「この海を100年後もきれいなままで次の子供たちに引き継ぎたい」とするそれぞれの思いが集結し、大きな力となって、この快挙を達成することができたのです。

今後は、「BLUE FLAG」という地域で勝ち取った揺るぎない存在を軸に据えて、関係者、関係機関がさらに団結し、その魅力を対外的に発信し、観光客の誘致、ひいては環境意識の高い企業誘致にまで発展させることができればと考えています。

現在は、大学生が参入する新しい浜茶屋(海の家)の運営や、海水浴+αのアクティビティメニューの開発など、認証の取得を契機として、様々な取組を始めています。今後とも地域の人たちが紡ぐ高浜の海の新たな世界観に是非注目していただきたいと思います。

防災訓練

地域が一丸となった安全訓練

アクティビティ

新たなアクティビティの開発「SUPヨガ」

地域医療再生~地域主体の健康まちづくりへ 

2つ目は、地域医療の再生から地域主体の健康まちづくりを目指した取組です。

今から約9年前、社会保険病院改革や医師の激減などにより、町内における病院機能が瀬戸際に立たされるなど、当町の地域医療は危機的な状況をむかえていました。

このような状況を受け、平成20年に有識者、町内医療従事者、行政のメンバーでワーキンググループを立ち上げ、当町の地域医療の現状把握と課題を抽出し、地域医療再生プランを検討しました。その結果、医療再生の具体策の一つとして取り組んでいるのが、福井大学医学部への寄附講座(※1)「地域プライマリケア講座」です。

地域プライマリケア講座は、平成21年度より開始され、3年を1期とし、現在も医療政策の基軸として継続しています。同講座では、「医学教育」と「住民啓発」を重点項目に掲げ、学生、研修医等の実習受け入れに加え、町内の福祉事業所や若狭和田ビーチの救護所と連携した地域医療実習ツアー、里親登録していただいた地域住民宅への実習生のホームステイなど、「医学教育」+「地域・住民を肌で感じられる研修」という仕組みを構築しました。また、地域住民も「たかはま地域医療サポーターの会」を立ち上げ、地域医療を自分自身の課題として捉え、医療フォーラムの企画・運営等、様々な啓発活動を継続して展開されています。

現在では、町内で勤務されている医療従事者の皆さま方のご尽力や寄附講座での各種取組により、年間を通して約130名もの研修医や医学生、看護学生等が高浜に訪れるようになり、町内で勤務を希望される医療従事者も徐々に増え、「地域医療再生モデル」として様々なメディアにも取り上げられています。

また、近年では地域の皆さんと協働して取り組む「地域主体の健康まちづくり」を目指すべく、福井大学医学部/町立和田診療所の井階 友貴医師を「高浜町健康のまちづくりプロデューサー」に委嘱し、健康まちづくりの実践教育を展開しています。健高カフェ(※2)や各種セミナー、地域でのフィールドワークを提供する中で、29年度は、コミュニティケアに関心を寄せる医療従事者が移住するなど、医療再生に加えて全国からも注目されるようになりました。

今後も、地域医療再生の取組を継続しつつ、「地域主体の健康まちづくり」を構築できるよう各種活動を展開していきます。

※1 寄附講座とは、大学に資金を提供(寄附)して教員を雇用し、その教員が出資元(高浜町)に貢献する仕事を行うという取組。なお、提供した資金は、主に教員などの人件費や活動費・研究費として使用される。

※2  健康やまちづくりに関心・興味のある地域住民や専門職が集まり、毎回テーマを決めて話し合い、そこで出された案を、関連する団体や部署での実現・コラボレーションを目指す会合。月1回開催。

委嘱

井階医師を「高浜町健康のまちづくりプロデューサー」として委嘱

健高カフェ

健高カフェ

チラシ

地域医療体験ツアーのチラシ

成長し続ける高浜へ

これ以外にも、従来の発想を取り払い、将来に向けた仕掛けづくりにも取り組んでいます。

その一つが、薬草開発です。冒頭に述べた青葉山の麓は学術的にも貴重な動植物の宝庫であり、薬草を含む有用植物が多数自生しています。

特に、漢方薬の原料となるゴシュユについては国内で唯一の産地となり、平成28年より北里大学薬学部との共同研究を行い平成29年には日本生薬学会での発表に至りました。

また、薬となるための成分検査を行った結果、漢方薬に処方できることが証明されました。平成28年11月に、ゴシュユの果実を初収穫し、平成29年12月には生薬メーカーへ販売するに至りました。製品は今後全国の医療機関や薬局に流通する予定です。これは、漢方薬市場が拡大する日本において、高価格かつ供給不安定な中国産輸入品に頼っている現状、国産の安定供給体制をつくるための大きな第一歩となりうるものです。今後町内の協力農家を巻き込みながら供給量をさらに拡大し産業の柱として育てていきたいと考えています。

また、漁業については、海産物へのニーズの多様化と漁業者の世代交代が進んでいないことから、低迷しているのが現状です。しかし、当町の地域経済の引き上げには漁業の再興が不可欠なことから、市場ニーズに応える品質の確保とそれらを支える人材の育成が喫緊課題となっています。こういった状況を踏まえ、平成24年より高浜漁港再整備(移転)計画を含む漁業の6次産業化の推進を図り、平成32年の6次産業施設オープンに向けて精力的に検討を進めています。これらの事業が具現化した暁には、“地域の稼ぎ頭”として、多様化する漁業経営を実践し、漁業所得のアップ、若手漁師への代変わりを促進し、漁業を再び経営力のある地域基盤産業として再生していくことが期待されています。

九十九湾

日本百景の一つに数えられている九十九湾

地方創生の要諦と成果

地方創生の本来の目的は、都市圏から地方に人の移動が進むようにすることです。そのためには、地方が都市より優位な分野に焦点を絞り、地元だけでなく他所の知恵も持ったプレーヤー(企画者ではなく実践者)も許容しながら、これまでに述べたような戦略を有効的に推し進めていくことが重要だと感じています。

そのためには地方のパラダイムも変えていく必要があります。地方創生の見えない壁に、外部から入った方と地域コミュニティの間で起こる軋轢があります。移住者が想像する田舎暮らしと現実の地方での生活には、まだまだ乖離があります。移住者と地元の住民のどちらかが大きく譲るのではなく、双方が歩み寄る関係性を築ける仕組み・環境をいかに整えるか、それが「地方創生における要諦」であり奥義といえるのではないでしょうか。こういった視点を持ちながら、町に来ていただいた方、昔からそこで暮らす方、それぞれが地域の原動力になっていただけるよう、双方にスポットを当てて、守り、育て、応援することが行政の役割と捉えています。

当町では、こういった地方創生の取組の成果として、平成28年には20代女性の転入人口の増加が全体を牽引し、26年ぶりに当町への転入数が転出数を上回る結果となりました。具体的な移住事例としても、平成29年の年末にNHKにおいて、当町に移住し農家民宿を経営されている親子3代・9人の大家族に関するドキュメント番組が放映され、全国からお問合せ、応援の声を多数いただくなど注目を集めているところです。

このように地域の原動力が息を吹き返しつつある高浜町が、今後も人口減少時代を活力的に乗り越えていくためには、そこに暮らす人々を常に主人公に置きつつ、行政として時代の潮流を絶えず柔軟に取り入れ、根気強く前に歩み進む姿勢を取り続けていくことこそが肝要であると考えています。

移住大家族

ドキュメント番組の主人公となった山本家族