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神奈川県大磯町/大磯町を楽しもう!~観光を通した持続可能な「まちづくり」~

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年10月26日
大磯の写真

海と山と文化のまち「大磯」


神奈川県大磯町

2938号(2015年10月26日)  大磯町産業環境部産業観光課


保養地として栄えた大磯町

大磯町は、相模湾や高麗山、鷹取山などの豊かな自然が暮らしの場に近接しており、また、長い時間をかけて郷土が培ってきた伝統や文化が大切に受け継がれることによって、自然的、 歴史的、文化的に魅力のある町として発展してきました。明治18(1885)年には、初代・陸軍軍医総監、松本順が医学的見地から「海水浴」を推奨し、照ヶ崎海岸に海水浴場が開設されました。明治20(1887)年には、 大磯駅開業によって多くの海水浴客で賑わいました。

祷龍館(明治中期)の写真

祷龍館(明治中期)

また初代総理大臣伊藤博文など時の政財界の重鎮たちの別荘が数多く建築され、保養地としての大磯の名が全国に広まりました。 

旧別荘群の小路の写真

旧別荘群の小路

過去の町になってしまう!

かつて保養地として栄えた大磯も今は昔。別荘は次々に売却され、海水浴客もピーク時の7分の1にまで減少しています。高齢化も確実に進んでおり、商店は減り続けています。 大磯で新たにチャレンジする若者も多くありません。大磯は市場として魅力の低い地域になってしまいました。 

圏央道、さがみ縦貫道が開通し、国道134号線が4車線化したことで、首都圏等からのアクセスが非常に便利になりました。しかし、手をこまねいているだけでは、 箱根・伊豆方面に行くのが非常に便利になるだけで、大磯町は単に通過をされるだけの町になってしまいます。このまま大磯を過去の町にしてしまってはいけない、もう一度魅力を創造しよう!という決意のもと、 県内に横浜・鎌倉・箱根に続く観光エリアを作ろう!という神奈川県の「新たな観光の核づくり」事業に手上げをし、認定を受けました。そこで、大磯町・観光協会・商工会を事務局として、 関係19団体(現在では22団体)による「大磯町新たな観光の核づくり推進協議会」を立ち上げ、大磯町に人を呼び込む観光施策に取り組み始めました。

大磯町の観光とは?

しかし、いざ取り組みを始めると、大磯町はもともと観光地ではないので、観光客が大挙して訪れる観光スポットがある訳でもなく、 そもそも自然が多い環境で「静かな暮らし」を気に入っている住民が多く、「大磯町は観光に力を入れると言っているが、 京都や鎌倉のような街を本当に目指していくのか」といった声が多く聞かれるようになり、「大磯町が目指すべき観光とは何なのか」を大磯町新たな観光の核づくり推進協議会に関わる全団体が真剣に考え始め、 大磯町が持っている地域資源を見つめ直すところから始めました。 

大磯迎賓舘の写真

大磯迎賓舘

大磯町が持っている地域素材

観光を通したまちづくりを進めるにあたって、大磯が持っている地域素材を改めて見直すと、次の4つに集約されました。 

まず1点目は、海・山、そして新鮮な食材など、地に足着いた暮らしぶり“ローカルライフ”を得られる「豊かな自然環境」があること。2点目は、「歴史・文化の醸成」があり、 特に明治以降の別荘文化が、独特の瀟洒(しょうしゃ)感を醸し出していること。3点目は、県内の近隣地域と比べ、それほど都市化されていないので、それが逆に人との繋がりを保ち、 多くの「コミュニティ」を作りあげていること。そして最後に、大型資本や娯楽施設が無いので、「静かな住環境」が守られていること。 

これらの地域素材を踏まえれば、大磯町は不特定多数の観光客をむやみに受け入れて、単にお金を落としてもらえれば良いという従来の観光の形は、合わないことが分かってきました。

大磯町が目指す観光

従来の観光は、例えば、100万人の観光客が1年に1回訪れ、大勢の通過する消費者によって、大量のお金がその地域に落とされていくようなイメージですが、大磯町が目指そうとしている観光は、 例えば1万人が年に100回訪れるような、少数でも参画する来訪者に選んでもらえるような地域を目指すことだと考えます。そのような観光とは、 来訪者がただ単にその地域のモノやサービスにお金を落としていくだけの一過性のものではなく、来訪者が何度も訪れ、地域と関わっていく中で、 その地域の経済・社会・文化・自然といった総合的な地域活性化に繋がっていくものだと考えます。 大磯町の「日常の暮らし」に触れ、新たな出会いを生み出し、「町民のより豊かな暮らし」を実現していくような観光が、 大磯町が目指すものです。邸園文化や恵まれた自然等「大磯独特の地域資源」を「地域住民自ら」が見直し、ここに住む“豊かさ”を再認識しながら、大磯町を楽しむことから始め、 その暮らしの“豊かさ”を町外の人々と分かち合いながら、観光・交流促進を進め、大磯町のファンを増やしていくことが、大磯の観光に携わる人々の出した結論でした。

大磯町の暮らしの豊かさとは?

「暮らしぶり」にふれる観光を目指すことに決めましたが、大磯の「暮らしぶり」が「豊かで魅力的」でないと、大磯に人を呼び込むことは出来ません。 そこで、“豊かな暮らしぶり”を示すものとして大磯の魅力を9つに絞り、暮らしぶりに求める方向性を打ち出しました。 

その9つの魅力とは、

  1. ローカルファースト(地元優先。自分やその土地の良さ、持ち物を生かすこと)
  2. インディペンデント(個人で、でも世界に向けた発信もしていること)
  3. 手作り・持続可能(ずっと続く確かなこと、品質の良いものを尊重すること)
  4. 農・自然の共生(自然環境を守り、楽しむこと)
  5. アートの活用(都会的なスタイリッシュさとローカルの融合ということ)
  6. コミュニティ・住民参加(人とのつながりを大切にすること)
  7. ウォーカブル(車よりも歩き、自転車が快適であること)
  8. 地産地消(商)(自立したローカル経済圏を構築すること)
  9. 文化の継承(衣食住文化、伝統行事を継承し、楽しみ、次世代へ繋ぐこと)

これら9つの魅力に基づいた「大磯の豊かな暮らし」にふれられる事業を創出し、その「豊かさにふれた暮らし」を享受できることをPRしていき、 大磯町のファンを増やしていくことに注力していくことが、「大磯の観光まちづくり」です。

大磯町の9つの魅力を体言している大磯市(おおいそいち)

「ローカルファースト」、「インディペン デント」、「手作り」をコンセプトに
まち全体を市(いち)に!

毎月第3日曜日に大磯港で開催している大磯市は、従前から行われている漁協主催の魚の「朝市」と合わせ、飲食や雑貨等の多様なお店が軒を並べる人気のある市です。 今では170店舗ほどのお店が出店し、毎回3,000~5,000人の来場者を集めています。神奈川県下でも最大級の朝市へと成長しました。

大磯市(芝生広場)の写真

大磯市(芝生広場)

大磯市では3つの選考基準を設けています。1つ目は「ローカルファースト」、2つ目は「インディペンデント」、そして3つ目は「手作り」です。広く事業を行っている大手の出店はお断りし、 湘南・西湘地域の個人を対象とすること、また地域の人が地域のものを使っていることを条件にし、大量生産品ではなくて手づくりされたものに限定することにしています。  

毎月行われるため趣向をこらしたオリジナル商品の開発にも結びつき、「ここでしか買えない商品」が開発されるようになる事例が多く生まれてきました。また出店者同士の結びつきも強く、 コラボ商品も多数生まれています。それにより大磯市でしか買えない数多くのものが生み出され、それが大磯市の一つの大きな特徴となりました。 

僕らの酒(農・自然の共生)の写真

僕らの酒(農・自然の共生)

地域で育つ次世代の芽

大磯市に出店することで認知度が増し、商品取り扱いショップが増えたり、予約が殺到している事例も出ています。「今までアルバイトをしながらの生活だったけれども、 大磯市に出ることによって販路が増え、お客様からの直接の注文が増えた。アルバイトをやめ、作家一本で生計を立てることが出来るようになった。お客さんの9割は大磯市です!」という作家、 毎回大行列を作りオープン時にはパンが売り切れている無店舗パン屋さんも出てきました。うれしいことに大磯市で確実に次世代の芽が育ちつつあります。 

大磯市の出店の写真

大磯市の出店

自立したローカル経済圏を

これまで大磯市はイベントとして順調な発展を続け、町の賑わいの一助になってきています。しかし、今のこの現状が完成形ではありません。 

「大磯市」の目指すところは「美しい街」「住みたい街」「出掛けたい街」の創出であり、 大磯町でチャレンジしたいという若い人たちを呼び込む →大磯でお店をもってもらう →お店が増える事でまちに回遊性が生まれる →町内外からお客さんが増える →歩いて暮らせる、ウォーカブルで快適なまちになる →大磯に住みたい人が増える。 

大磯市がこんな好循環を作り出すためのエンジンになって欲しいと考えています。出店者同士、出店者とお客様、お客様同士が繋がり、コミュニケーションの場にもなっている大磯市では、 ものを売るだけではなく、人と人とが繋がり、新商品など新たな面白いモノやコトが継続的に生まれる土壌があり、それが次の農作物や食品、そしてクラフトなどの作品を生み出すことに繋がり、 ひいては人と大磯の自然や文化との繋がりを再構築することに繋がり、地域の総合的な活性化に繋がっていきます。 

地域自給が成り立つように「自立したローカル経済圏を形成」しながら、若い世代が地域で活躍できる場を創造し、大磯を楽しみながら“持続可能なまちづくり”を進めていきたいと考えています。 

大勢の来場者でにぎわう大磯市の写真

大勢の来場者でにぎわう大磯市