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群馬県神流町/山間の町にともる自治の灯~お互いの顔が見える町だからできること~

印刷用ページを表示する 掲載日:2015年6月29日
神流マウンテンラン&ウォークの前夜祭の写真

神流マウンテンラン&ウォークの前夜祭


群馬県神流町

2924号(2015年6月29日)  全国町村会 中田麻依子


はじめに

水面越しに川魚の鱗まで見透かせる清流、神流川がとうとうと流れ、有史以前を思わせる荒々しい岩肌が山の木々の間に見え隠れする。群馬県南部に位置する神流町は、平地の少ない山村です。 住宅用地と農地には限りがあり、大規模な工場の誘致は困難です。 

農村と山村はまとめて農山村と呼ばれ、同一のものであるかのように見なされがちですが、実際には、取り巻く条件は異なっています。

町の概要と課題

神流町は面積114.60k㎡、人口2,128人(平成27年6月1日現在)の東西に貫流する神流川を挟む山間の町です。平成15年に万場町と中里村が合併して誕生しました。 周囲を山々に囲まれた急峻な地形にあり、町域の87%を森林が占めています。そのため限られた平地に集落が点在しており、細く曲がりくねった山道を登った峰近くにも民家があります。また、東は藤岡市、 西は上野村と接し、この一円で多野藤岡広域圏が形成され、経済、生活とも密接な関わりを持っています。 

現在、町の南西部にある叶山ではコンクリート用の石灰が採掘されています。一時はリーマンショックの影響を受けたものの、今でも町の雇用を支える重要な産業であり、 鉱産税が町の財源の一部となっています。 

かつてはこんにゃく芋の生産や、庭石に向く岩の産出が盛んな神流町でしたが、こんにゃく芋は平地でも容易に生産できるようになり価格が下落、庭石はバブル以降、次第に需要が低迷し、 共に縮小していきました。豊富な山林資源に支えられていた林業も、輸入の自由化により木材価格が下落して以降衰退しています。近年は各産業とも担い手が高齢化していることから、 今後の産業維持をどうするかが問われるところです。  

町では、若年層が進学や就職に合わせて転出するというケースが多く、子どもとともに家族ごと都市部へ引っ越してしまうことも少なくありません。 

多くの自治体同様、神流町でも人口減少対策と地域活性化が喫緊の課題となっています。 

神流の涼の写真

神流川で川遊び「神流の涼」

お互いの顔が見える町

神流町の確定申告事務は町内にある21の地区ごとに受付会場を設け、1地区ずつ回る、というスタイル。役場から離れている地域があり、 家族が町外へ勤めているので日中は一人という高齢者が少なくないからです。その甲斐あって、昨年度の住民税の申告率はほぼ100%だったといいます。 

申告書類を確認する中で、親族の扶養漏れに気がつくことがあります。なぜなら、職員がある程度住民の家族構成を把握しているからです。だからこそ、扶養漏れ等による過払いを防ぎ、 適切な追徴を行うことが可能となります。税制度を公平公正に運用するためには、課税の豊富な知識とノウハウだけでなく、職員の目が地域のすみずみまで行き届いている必要があるといえるでしょう。 

また、町には区担当制が設けられており、住民から区を担当する職員へ、行政への相談を持ちかけることもできます。

「身分証明書類を出してもらうけど、知り合い」。928町村の内、人口5千人以下の町村は241町村(平成26年1月1日時点)と、全体の4分の1ほどですが、人口2,200人の神流町は、 やはり行政と住民の距離が近く感じられます。職員の多くが町出身者ということもあり、窓口に訪れる住民が知人であることもしばしばです。行政と住民、互いの顔が見えるからこそ、 適正に運営できる行政サービスがあるのです。 

いかにして住民のニーズをくみ取り、どのような行政サービスを提供するかは、自治体によって様々です。規模の大きい自治体ならではのスケールメリットを生かした施策があるのと同様に、 小規模自治体だからこそ実現可能な自治のあり方があるのではないでしょうか。神流町には、行政と住民、住民同士、お互いに顔が見えるという強みが生きています。

イベントで魅力発信

「コンビニがあったら便利だろうけど」という言葉をしばしば耳にしました。どこにでもあると思われているコンビニエンスストアもファストフード店もこの町にはありません。 これは住民にとっては決して小さからぬ問題でしょう。しかし、見方を変えれば画一化されていないということであり、この町にしかないものがある、ということです。 四季ごとに開催される多彩なイベントも神流町独自のものであり、町の魅力が存分に活かされています。 

5月は神流川の上に800尾もの鯉のぼりが翻る「鯉のぼり祭り」、夏季は子どもから大人まで神流川で川遊びを楽しむことができる「神流の涼」、 11月の「神流マウンテンラン&ウォーク」には700人あまりの選手が参加し、冬は煌びやかなイルミネーションが神流川を彩ります。 

鯉のぼり祭りの写真

800尾もの鯉のぼりが壮大な「鯉のぼり祭り」

観光拠点の一つ、恐竜センターも、日本で初めて恐竜の足跡化石が発見された神流町ならではの施設です。自然史の学習だけでなく、地表に露出している古い地層で化石発掘体験ができ、 年間7,000人を超える来訪者があることからも、その人気がうかがえます。現在は新たな取り組みとして、センター内で恐竜フィギュアの製作を行っており、センターのミュージアムショップで購入することができます。  

恐竜センターの写真

大迫力の恐竜センター

町が企画するイベントのほか、3月下旬には、福寿草保存会・船一福寿草を守る会主催の「かんなの福寿草まつり」が開催されます。今年も、日当たりの良い山の斜面に綻ぶ、 鮮やかな黄色の福寿草を見ようと、近隣住民が連れだって訪れました。遠方から訪れた同好の士との語らいにも熱が入り、甘酒やストーブで焼いたあか芋が振舞われて、一段とにぎわいが増していきます。 

福寿草保存会・船一福寿草を守る会の皆さんの写真

福寿草保存会・船一福寿草を守る会の皆さんと

自然を観光資源として消費するばかりではなく、有志のボランティアによる環境保護活動も行われています。渓流魚を保護し、生態系を維持するため、ヤマメの卵を買い入れて孵化させ、 5㎝ほどに育ったところで、神流川と船子川などの支流や沢地へ放流します。その活動をしているヤマメを放す会のメンバーそれぞれが釣り好きですが、釣りの解禁を心待ちにしてきた釣り人が町外からも訪れます。 

ヤマメの稚魚を放流している写真

ヤマメの稚魚を放流

多くの町村が交流人口増加に向けて力を入れている昨今、神流町が持っている資源にくまなく光を当て、価値を再確認し、 活用していくことが活性化のカギだといえます。「通年で人が集まるような取り組みが必要」という宮前鍬十郎町長(取材時・27年3月)の言葉通り、年間を通して様々なイベントが行われています。 それらのイベントは、町をとりまく自然環境を生かしたもので、神流町でなくては見られない光景、できない体験があります。たとえ住民の目線ではありふれたもの、見慣れた景色であっても、 それが旅行者にとって町を訪れる動機となりうるのです。 

イベントがきっかけとなって交流が始まる一例として、「神流マウンテンラン&ウォーク」があります。多くの選手を迎える神流マウンテンラン&ウォークの際には、 住民の協力を仰いで民泊を行っています。当初は宿泊施設の不足を補うために編み出された対応策でしたが、住民宅に宿泊した参加者の評判は上々で、その後も交流が続いています。 神流の涼のシーズン中に何度も訪れる家族がいて、次第に役場職員とも顔見知りになっていくといいます。 

毎週末川遊びに来る家族、清々しい空気の中での釣りを楽しみに来る人、道の駅の手打ちそばに舌つづみを打つ夫婦と、神流町のファンは着実に増えています。

神流町のこれから

現在は、高齢者が地域を担う中心世代です。高齢者福祉サービスに携わる社会福祉協議会の職員からは、町のお年寄りは無理をしすぎるくらいだという声がありました。 

訪問介護サービス利用者の中には、今も日本舞踊を教えている方がいます。恐竜センターに併設されているはこだたみキャンプ場を管理するのは、70代の管理人4人です。 周辺の山間部を熟知している人も健在で、山火事が発生した際など、どのように火が回るおそれがあるか、どの避難ルートが安全か助言をもらうこともあるといいます。様々な場面で、 長年培われてきた知識や生活の智恵、熟練の手業が生かされているのです。 

他方、役場職員には若い世代が多く、町では緑のふるさと協力隊、地域おこし協力隊を継続的に受け入れていることから、若い隊員も複数います。小中学校の児童・生徒数は合わせて60人程と、 決して多くはありませんが、ゼロではない以上、地域の担い手になってほしいと期待を掛ければ、何倍もの力を発揮してくれるはずです。  

高齢化率の高い地域では60歳はまだ若いと言われますが、高齢者の力を借りながら、次の世代の声を汲み上げて新たなまちづくりへの挑戦を応援し、地域の子どもたちが将来的に町外へ出ても、 いずれUターンしたくなるような町を残していくことが重要なのではないでしょうか。

最後に

「人口1000人になっても維持できる町に」。人口減少に対抗するため、町ではこれまで様々な施策を講じてきました。保育所保育料無料、学童保育無料、小中学校の給食費無料、医療費補助、 卒業・入学時の祝い金など、子育て支援策を手厚くし、平成27年度からは町外へ通勤・通学する住民に神流町商品券を交付する補助事業も開始しています。町には、子育てしやすい制度を作るとともに、 都市部への人口流出による社会減を緩和するという、両輪の対応が求められています。 

しかしながら、地方では高齢化のピークが過ぎ、都市部人口の高齢化が進行している段階にあります。現状維持に留まってしまえば、人口減少は都市部人口の自然減で、さらに進むでしょう。 全国的な人口減少に総ての自治体が挑戦していかなければなりませんが、ひとつひとつの原因を解きほぐしていくべき問題であり、一朝一夕に解決できるわけではありません。それでも、 たとえ人口が1000人になろうと、神流町は住民の暮らしを守るために自治の灯をともし続けるでしょう。