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山梨県市川三郷町/町営温泉「つむぎの湯」を活用した節電・外出支援事業 ~家庭の節電と高齢者の積極的な外出促進をサポート~

印刷用ページを表示する 掲載日:2012年8月27日
神明の花火大会の写真

毎年20万人もの観光客が訪れる「神明の花火大会」


山梨県市川三郷町

2811号(2012年8月27日)  市川三郷町いきいき健康課 つむぎの湯支配人(主幹係長) 保坂 秀樹


やすらぎづくり~日本一の暮らしやすさを目指して~

市川三郷町は、山梨県の甲府盆地南西部の「旧三珠町」、「旧市川大門町」、「旧六郷町」の3町が合併し、面積75.07平方キロメートルの町として平成17年10月に誕生しました。

南アルプスを源流とする釜無川と、秩父山系を源流とする笛吹川が合流し富士川となる左岸に位置しています。

四季折々の自然が楽しめる四尾連湖や芦川渓谷、歌舞伎文化公園、ぼたん回廊や桜の名所、花火、和紙、印鑑などの地場産業、大塚人参やとうもろこし 「甘々娘」に代表される農産物、市川の百祭りなど、町には誇れる産業と観光資源が数々あります。特に町を挙げて行われる「神明の花火大会」には、毎年20万人もの観光客が訪れ、大いに賑わいます。

人口17,111人、世帯数6,074戸、65歳以上の高齢者数5,519人(平成22年度国政調査結果)であり、高齢化率32.3%と全国的にも高い数値となっていますが、 町の掲げる標語どおり「やすらぎづくり・日本一の暮らしやすさを目指して」ということで、高齢者福祉や健康づくり事業には特に力を入れています。

今回の舞台となったのは、町の最南端にある町営の温泉施設「つむぎの湯」です。「つむぎの湯」は「いきいきセンター」と併設する温泉施設であり、温泉入浴を活用した 町民の「健康増進」や「高齢者福祉」の場であるのと同時に、六郷地区の地場産業である「印鑑」、農産加工品「あんびん」等の農産物のPRなど地域活性化の拠点となっています。

昨年の東日本大震災以降は、本来の施設運営に加え、国民的な課題である「節電」問題と地方が抱える「高齢化社会」の諸問題へのアプローチを試みた事例として、 町民の方々はもとより、数多くのマスコミ関係からも注目していただきました。

特に「つむぎの湯」という施設が、節電事業を通して「高齢者の憩いの場」としての機能を果たしたことは、町の目指すところの「やすらぎづくり」への第一歩であったのではないか と考えております。

大塚にんじんの写真

太くて長く、濃い鮮紅色で独特の風味と甘さがある大塚にんじん

六郷地区の印鑑彫刻の写真

六郷地区の印鑑彫刻の技術は、全国から高い評価を得ている

一般的な節電対策についての疑問

昨年は、行政・企業・個人が「節電」という課題に向かって試行錯誤した年であったと思います。 

市川三郷町でも地方自治体としての「節電」という責務を遂行するために、職員が一丸となって取り組みました。5月からは、職員によるピークカットプロジェクト 推進委員会を立ち上げ、本庁舎や支所、出先機関等の各種施設の節電を成功させるため、様々なアイデアを出し合い、目標数値に向かって取り組むことにより、目覚しい成果を上げました。 

そんな中、町営施設の中でも集客・コミュニティー施設の類となる「つむぎの湯」では、既成の節電対策を実施することは、職員間やつむぎの湯に勤務するスタッフの間でさえ 賛否両論となりました。 

ただ、実際に施設に勤務している私達としては、高齢者の方々の利用率が多い施設であることから、「過度の節電だけは絶対に避けたい」というのが本音でした。 ましてや入浴施設ということもあり、風呂上りの休憩する利用者に快適な環境を提供することこそ、年間を通して絶対不可欠な行政サービスではないかとさえ考えておりました。 

「熱中症予防」という健康面からもエアコンの設定温度を下げることは必要最低限としなければなりません。また、高齢利用者に対する安全面からも、照明を暗くすることも不適当だと 考えたからです。 

さらに、各種イベントやキャンペーンを自粛し、人々が外出する機会を失うことは、経済活動を抑制する結果となってしまう…という景気悪化に陥ることも懸念しました。 ただ、この時期、特に震災直後ということもあり、被災地や被災者の方々のことを考えると複雑な心境でもありました。 

節電事業ならぬ節電支援事業のスタート

そこで考えたのは、施設の「節電対策」ではなく、来館者への「節電支援対策」でした。

施設自体の節電は、ほどほどに…。むしろ家庭の節電を強力に支援する側となることです。快適な環境を整えた「つむぎの湯」へ数多くの人々を集め、家庭での 電力使用量を抑えよう!という試みです。

つまり、一箇所に数多くの人が集まることにより、トータル的かつ効率的な意味で地域の大きな節電ができるのでは…。人々が各家庭で個々に電力を消費するより、 「つむぎの湯」という施設に集まることが、全体的には、より効率的な節電ができるのではないか?と考えました。

しかしながら、この「電力を共有化しよう!」という考えは、昨年は、なかなか一般化しませんでした。

もちろん全国には、同様な考えにもとづき「夏は涼しい公共施設を活用しよう」という取り組みをされた自治体や民間店舗もありました。ただ、節電というと、 家庭では節電グッズ・エコ家電の活用、職場では、エアコンの設定温度抑制や照明の間引き、勤務時間のシフトなどが一般的な対策となり「外出して家庭の電力消費を抑えましょう」 とは考えにくかったため、なかなか浸透しませんでした。

さらに、これの先進事業例となる自治体を探すことすら苦慮した記憶もあります。インターネットなど各種情報媒体をフル活用し、やっと数箇所を探し出しましたが、 とにかく夏期の実施前の照会であったこともあり、電話でのやりとりの中では、担当者の事業実施への不安や自信のなさが感じとれました。

ある程度の資料が整った時点で「市川三郷町つむぎの湯における節電事業計画書」を作成しました。もちろん先進事業例がない時点での作成であったことから、 不完全な計画書でしたが、これをベースとして町長や上司と相談・検討したうえで、7~9月の期間限定の「節電支援キャンペーン(後に節電・外出支援キャンペーンに改名)」という形で事業はスタートしました。

数多くの方々に「つむぎの湯」に来館していただき、可能な限り長時間滞在を促し、家庭電力の節減に努めてもらうという趣旨にて、「利用料金の割引」 (3時間利用料金にて1日利用できること)や「節電ポイントカード」(10回の入浴来館で1回の無料サービス特典)の発行による方策を軸としての実施となりました。いずれも、 町長専決による規則に定められた利用料金の減免措置となります。

つむぎの湯施設全景の写真

つむぎの湯施設全景

内風呂(大・小)の写真

内風呂(大・小)

夏期強化期間ポスターの画像

夏期強化期間ポスター

節電事業をきっかけとした予期せぬ効果

「節電支援キャンペーン」の成果は大きく、7~8月の利用者数は対前年比1割を大きく超えました。施設の有効活用の点や施設を利用された家庭の節電成果を考えると、 夏期の節電事業は成功したと思えました。 

ところが、キャンペーンも終盤に近づいた9月、つむぎり湯のスタッフから「このキャンペーン、もう少し継続できないでしょうか?」という提案があったのです。 最初は「電力ピークであった夏期が終わるのに…なぜ?節電支援キャンペーンの役割は終わったのでは…」そう思っていました。 

ところが、館内の休憩室を見回したところ、キャンペーン前には見かけなかった来館者がチラホラ。しかも楽しそうにお茶を飲みながらグループで団欒している様子を 見ることができました。ごく当たり前の光景とも思えましたが、よくよく見ると、キャンペーン前には数少なかった数多くの小グループにより「つむぎの湯」が憩いの場であり コミュニケーションの場として活用されはじめたことに気づいたのです。まさに小さなコミュニティーの自然発生です。 

さらに、各グループの方々に聞いてみると、「節電支援キャンペーン」は、近所の一人暮らしのお年寄りまでも誘い出すきっかけとなったようです。これこそ 施設の運営コンセプトを遂行したこととなり、高齢者福祉で言うところの「外出支援」(介護予防事業でいう高齢者を引きこもりにさせたり、寝たきりにさせない対策)が今回の 節電事業の副産物として、また、予期せぬ効果として形となったのです。 

これにより「節電支援キャンペーン」は、9月以降も年度末の3月末日まで「節電・外出支援キャンペーン」と改名して継続延長することとなりました。 

くつろぐ来館者の写真

休憩・交流スペース(多目的室)にてくつろぐ来館者

まさかの年度繰越しキャンペーンへ…

7月から翌年3月までの間、延長を重ね継続したキャンペーンは、好評のもと9ケ月で終了する時期となりました。その間には、運営者側の私たちは、利用者の方々から 逆に施設運営の方向性と公共施設としての存在意義を学びました。 

これで、ある程度の事業を達成できたと考えていた3月…。年度の最終となる定例町議会(厚生常任委員会)の席で、数多くの町議会議員から「つむぎの湯の節電・ 外出支援キャンペーンは次年度も継続すべきだ…」という意見をいただきました。 

町当局としても、町民の代弁者である町議会議員からの意見は、まさに町民の声であり、数多くの町民や利用者がこのキャンペーンの価値を高く評価してくれていると捉え、 財政状況も勘案する中、慎重に検討。その結果、平成24年度末まで1年間の繰越し継続延長していくこととなりました。 

節電・外出支援キャンペーンの画像

休憩・交流スペース(多目的室)にてくつろぐ来館者

他施設との連携強化~クールシェア事業の推進~

今年度は、新たな節電対策として環境省が推奨する「クールシェア」(涼しさを分かち合う・涼しさの共有化)という節電事業が、同様な取り組みにて 一般化されつつあります。 

この事業は、環境省のチャレンジ25キャンペーン(クールビズ・ウォームビズ・うちエコ!)の中の取り組みとして、今年度から本格的に全国展開しているものであり、 もちろん「つむぎの湯」も協力施設として、またクールシェアマップのスポットの一つとして登録をさせていただきました。 

クールシェアに代表される節電支援事業は、「つむぎの湯」単独での実施には限界があることから、現在、該当する町営施設や近隣施設をピックアップする中、 連携強化を図っている状況です。 

もちろん、施設によっては電力依存度が極めて高い施設、集客施設ではない場合などは、この種の事業には適していませんが、国内の電力需給が安定するまでの当面の間は、 施設にマッチした節電対策を実施していくことが必要だと考えています。 

昨年から節電支援事業を実施している「つむぎの湯」としては、町営施設を中心として、近隣の民間施設でも協力体制のとれる施設への呼びかけをはじめました。 

7月末日現在で、同六郷地区にある町営のフイットネスジム「ニードスポーツセンター」、町の誇る自然と観光の避暑地「四尾連湖」の2つの湖畔荘など、 町内外合わせて5施設が地域の「クールシェアスポット」としての協力連携体制を整えることができました。

今後、地域に節電支援スポットを増やすことこそ、昨年から事業を実施している「つむぎの湯」としての目標であり課題とも考えております。これが、やがては、 地域住民ひとりひとりの節電意識の向上に繋がるものとなれば幸いです。

峡南地域クールシェアマップの画像

峡南地域クールシェアマップ

クールシェアステッカーの写真

クールシェアステッカー

ニードスポーツセンターの写真

ニードスポーツセンター