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山梨県富士河口湖町/住みよい町は訪れたい町 地域の住民が主人公のまちを目指して

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年7月6日
山梨県富士河口湖町の写真

山梨県富士河口湖町

2685号(2009年7月6日)  全国町村会広報部 片岡 志穂


富士北麓に位置する山梨県富士河口湖町(人口25,909人)。平成15年11月と18年3月の2度の町村合併を経て、富士五湖(本栖湖、精進湖、西湖、河口湖、山中湖)のうち、山中湖を除く4つの湖を有する。富士五湖のほか、富士山や青木ヶ原樹海など豊かな自然を目当てに、いまや日本人観光客にとどまらず国外、とくに経済成長めざましい東アジア諸国から多くの観光客が訪れる。
こうした海外からの観光客を日本国内へ呼び込むインバウンド・ツーリズムは、地方の過疎・空洞化といった課題への打開策の1つとして注目されている。この分野の先駆けとして知られる同町を訪れ、先進地と呼ばれる所以と将来に向けた動きを取材した。

年間5万人が訪れる観光案内所

6月のある日、取材に訪れた町はあいにくの空模様。しかし、すでに富士急行線河口湖駅には数人の欧米系観光客の姿があった。皆大きなリュックサックを背負い、個人で旅行しているようだ。駅のすぐそばにある富士河口湖総合案内所に勤務する町観光連盟職員の斉藤真帆さんによれば、その日は12カ国の旅行客が案内所を訪れたとのこと。これでも少ない方だという。昨年1年間に案内所を訪れた外国人は約2万人。

富士河口湖町観光総合案内所の外観写真
日本政府観光局より「ビジット・ジャパン案内所」として認定された富士河口湖総合案内所。登録には外国語対応が可能など一定の基準をクリアする必要がある。

案内所を訪れる日本人観光客とともに海外からの観光客数も増加傾向にある。案内所は英語対応のできる職員が常駐、住民ボランティアも時間をやりくりしてサポートする。

こうした海外観光客を呼び込むために、町ではどのような情報発信を行ってきたのだろうか。

外国人宿泊客年間18万人を誇るベースづくり

ハーブ館の外観写真
平成2年にオープンした河口湖ハーブ館。「ハーブの町」富士河口湖を代表する施設となった。ラベンダーやミントなど100種類を超えるハーブガーデンは10月まで楽しめる。

富士河口湖町が、インバウンド・ツーリズムを意識しはじめたのは、平成11年。韓国ソウル市にある大学から前町長へ講演の依頼があり、一緒にソウル市内の旅行業者に営業活動を始めたのがきっかけだ。富士山と周辺施設観光にポイントをおいた観光誘致に手応えを感じた町は、以後全国に先駆け「海外キャラバン」と称し、活動範囲を台北、北京、バンコクなどへと広げていった。

西湖いやしの里根場の写真
年間24万人が訪れるという「西湖いやしの里根場」は町の新たな人気スポットだ。

「営業は町の観光関係者の力を最大限生かした」と語る町観光課古屋広明係長。町内に本部を持つ釣り団体関係者の幹部や河口湖猿回し劇場の営業担当者等の人脈を頼りに、町の観光業関係者5、6名と最低1名の町役場職員という編成を組み、時にはトップセールスも行って、海外の旅行業者や政府関係者と面会した。その際、現地での人間関係の構築を確固たるものにするため、各エリアの担当者を固定した。このような活動を地道に行った結果、昨年の外国人宿泊者数は、6年前と比べ2倍の約18万人にまで増加した。

平成16年には町内にある7つの観光協会の会長とインバウンドを積極的に行っているホテル等が集まり「富士河口湖町観光連盟国際推進部会」を立ち上げた。事務局の役割は行政が担う。部会は年1回総会を開催し、その年の海外キャラバンの方針を決定している。これにより、相手国の経済状況等に合わせた、きめ細かな営業活動が可能となっている。

また、役場職員の人事異動により、相手国関係者との人的コネクションが断たれることが懸念されるため、そこを補完するNPO組織の立ち上げも検討している。

インバウンドだけでいいのか?~観光客ニーズの把握~

昨年町に宿泊した外国人客数は、17万7492人(町観光連盟調べ)。はっきりとしたデータはないが、中国や台湾、タイなどアジアからの団体旅行客が多くを占める傾向にある。一方、個人旅行者の多くが欧米系である。

「欧米系とアジア系の観光客では観光に来る目的が異なる。」と、2年前からまちづくりに関わる観光地域プロデューサー花岡利幸氏は指摘する。

欧米系の観光客は日本の生活文化に興味をもち、地域の生活に接する機会を得るため時間をかけて一カ所を観光する。一方、アジア系が多数を占める団体旅行では「先進国日本」を訪れ、有名な観光地を効率よく数多く回ることを目的としている。そうした傾向を捉えた上で花岡さんは「欧米系観光客と今の日本人観光客が観光に求めるニーズは似ている。それらをきちんと認識することが、大切ではないか。」とも話してくれた。

お話を伺いながら、訪日外国人客は新しい顧客ではあるが、彼らのほうだけを向いて、人を呼び込めばいいというものではないと感じた。『JNTO国際観光白書2007年度版』では、アジア各国からの観光客のリピーター化が指摘されている。施設巡りをする団体観光客だけに焦点をあてた観光整備では、繰り返し訪れてもらうのは難しい。

町ではこうした観光客のニーズにも応えた観光地となるべく、次の一歩を踏み出していた。

脱行政主導~地域の各セクターが主人公~

多言語による案内表示をしている様子の写真
多言語による案内表示をしている様子の写真2

レジャー施設やイベント等について情報を発信し、国内外の大勢の観光客を呼び込むことはほぼ達成できたと富士河口湖町は考えている。今後は旅行の多様化、個人化、そして国際化に対応した観光地を目指して力をいれていくとしている。その第1歩として「富士河口湖町観光立町条例」を制定した。同条例では、観光立町において町、観光事業者、町民等の果たす役割を明記し、また町全体を俯瞰した、観光振興の基本方針を謳っている。町ではこれに基づき、平成21年4月に「富士河口湖町観光立町推進基本計画」を決定し、平成30年には外国人訪問者数を25万人とすることを打ち出した。そのために、これまで海外キャラバンで行ってきたような営業活動に加え、対象国のメディアに対して、よりきめ細かな情報提供をすることや、案内所・標識等の多言語標記の整備、人材育成にも力を入れていきたいとしている。

「これまで行政主導でやってきた観光も今1つの過渡期を迎えている」と古屋係長は語る。基本計画でも示したように、今後は行政だけでなく、地域住民が観光まちづくりに参加し、それぞれの役割を果たすことが期待される。

すでに、観光地域プロデューサー花岡さんを中心に、観光の振興に寄与する人材の育成のため、地域住民に向けた「観光まちづくりカレッジ」が開講された。インバウンドだけでなく、魅力あるまちづくりを町民主体で行うことを目的に、「観光とは何か」といった講義や先進地視察やグループワークなど実践的なカリキュラムを織り交ぜ、住民参加のきっかけの場としている。町ではやがて到来する訪日外国人客一千万人時代に向け、着々と受け入れ体制の整備を進めていた。