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静岡県西伊豆町/夕陽を宝に活力あるまちづくり~協働で取組むふるさと西伊豆の再発見~

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年6月29日
夕日の写真

静岡県西伊豆町

2684号(2009年6月29日)  企画調整課 主任主事 山口 貴嗣


西伊豆町の風景

案内板の写真
町内各所に設置された夕陽の案内板。町内外に夕陽の町であることをPR。

西伊豆町(にしいずちょう)は都心から約3時間、静岡県の東部、伊豆半島西海岸のほぼ中央に位置し、西側は駿河湾に面し、東側は急峻な天城山系が連なる自然に囲まれた美しいまちである。

平成17年4月に、ガラスの原料であるケイ石の一大産地であった賀茂村(かもむら)と、かつて鰹漁で栄え、堂ヶ島などの一大観光地を擁する西伊豆町が合併し、人口約11,000人、面積105.52平方キロメートルの新「西伊豆町」としてスタートした。

全国的にも有名な景勝地である堂ヶ島や黄金崎などと豊富な湯量を誇る温泉を活用した観光産業をはじめ、駿河湾を舞台とした漁業、天城山系の清らかな湧水によるわさび栽培に代表される農業など、豊かな自然を背景に人間らしい生活が営まれている。

そんな当町において現在町のキャッチフレーズでもある「“ふるさと”と言いたくなる夕陽のまち」を目指し、「夕陽」を地域資源として捉えた協働での「夕陽のまちづくり」が進められているのである。

夕陽日本一宣言!!

夕陽のまちづくりマスタープランの資料の写真
ワークショップの意見の積み重ねで、「夕陽のまちづくりマスタープラン」が完成。

町域の殆どが国立公園・名勝に指定された当町の海岸や島々、奇岩を前景に駿河湾へ沈む夕陽は非常に美しく、町民の原風景の1つとなっている。中でも日本夕陽百選にも選定された大田子海岸からの夕陽は格別のものである。

この大田子海岸からの夕陽で特筆すべきはその美しさに加え、1年のうちで春分と秋分の日前後だけ「男島・女島」からなる田子島の真ん中に夕陽が沈み、地元で「メガネッチョ」と呼ばれる、丸い穴のあいた奇岩から夕陽の光がキラリと差し込むという点にあり、この夕陽の感動を皆で楽しもうと、平成7年より田子地区の住民が主体となり、お彼岸の夕陽を町民で楽しむ手作りのイベント「夕陽をみる会」が開催されてきた。

元来太陽は日本人にとって特別な存在であり、古くから朝日や夕陽をモチーフとした歌や文学が数多く作られ、日々の生活の中でも太陽の動きを歳時記としてとらえた様々な風習が日本全国にあることは改めて言うまでもないことである。中でも彼岸は「日願(太陽に願いをかける)」とも言われ、最も太陽と日本人の縁が深い。その彼岸に、島の真ん中という特別な場所に夕陽が沈む大田子海岸は、正に太陽と地球という大自然が作り上げた地形と日本人の古くからの風習が一致した奇跡的な場所であり、そこからの夕陽は正に日本一といえるのである。以上のような事実と、町内各地区でみることのできる「夕陽」を町民全員の資源ととらえ、合併後の町内一体化や、活性化などの地域づくりに生かそうと、当町は平成17年9月23日に大田子海岸において「夕陽日本一宣言」を行ったのである。

日本夕陽百選に選定された地区は数多く、各人が思い描く「日本一の夕陽」は無数に存在することと思う。しかし、大田子海岸の他にも、日本人が愛してやまない日本一の富士山と夕陽を同時に楽しむことができるのは、伊豆半島西海岸に位置する当町しかなく、そういった意味で多くの日本人にとって、当町の夕陽は「日本一」になりうると考えている。

「夕陽」を巡る町内の動き

ワークショップの様子の写真
ワークショップでは、「夕陽のまちづくり」について議論が交わされた。

大田子海岸で「日本一宣言」を正式に行う以前にも、前述の住民主催の「夕陽をみる会」に代表される、地元の「夕陽大好き町民」を中心とした活動は散発的に見られていた。例えば、夕陽を目当てに当町を訪れる観光客に対して、町内の写真愛好家が四季折々の夕陽のベストポイントを案内し、写真撮影のアドバイスを行う「夕陽ボランティア」活動は従来から好評を博していた。

しかし、多くの町民にとって夕陽は当たり前にあるものであり、漠然と「美しいな」と思う対象ではあったものの、「ここにしかない」当町固有の資源であるという認識は薄かった。

ところが、宣言をすることでより多くの町民が当地の夕陽を「誇り」に感じ、夕陽への認識を改めるきっかけとなったのである。この流れを受け、夕陽をシンボルとした地域づくりを実現させるため、役場も具体的な「夕陽のまちづくり」に着手した。

先ずは、役場職員と商工観光業者からなる庁内ワーキンググループを組織化し、今後の夕陽のブランド化への道筋について話合いを行った。この中では、PR活動などを活用した一層の「夕陽のまち」としての意識醸成の必要性が話合われ、町内を走る国道沿いに、夕陽のビュースポットの案内板の設置と、町民を巻き込んだ夕陽のブランド化の方策が検討された。(本ワーキングを受け、夕陽のビュースポットを案内する案内板を町内各地に設置。)

ガラスの名産品の写真
ガラス文化を象徴する名産品は、ガラスの美術館「黄金崎クリスタルパーク」にて購入可能。

また、ワーキンググループによる検討が行われた次年度には、夕陽のまちづくりの次段階として更なる町民参加を促すため、「夕陽のまちづくりマスタープラン」の策定を行った。本マスタープランは、町内を旧小学校区単位である5地区に分けて行ったワークショップの意見の積み重ねという形で策定され、「町民参加による西伊豆の夕陽の更なるブランド化」と「夕陽をシンボルと捉えた総合的な協働のまちづくり」の方針が確認されたものとなった。例えば、ワークショップ内で、地元民ならではの隠れた夕陽スポットを提案してもらったところ、なんと100件を越える夕陽スポットの提案があり、その後の町民アンケートなどを経て「西伊豆町夕陽33景」を選定した。この「33景」は今後の夕陽のブランド化を進めていく上でのベースの1つとなる予定である。また、「夕陽とともに楽しめる地区の楽しみは?」といった課題設定により、夕陽以外の「地区の宝」の掘り起こしを実現した。この中では、地区に伝わる大漁節や旧賀茂村時代以来のガラス文化(「ガラス文化の里作り事業」としてガラス作家の定住を促し、手作りの名産品「かも風鈴」などを生み出した)、人形三番叟などの伝統文化があり、それら地区の宝と一体となっている地区のコミュニティの活性化の必要性も浮き彫りとなった。

「夕陽を見る会」の様子の写真
春分の日開催の「夕陽を見る会」は町民の自主運営。

今後は、このマスタープランを1つの指針として、町内全域を「町内何処からでも夕陽を楽しむことができる夕陽の美術館」として見立てる「エコミュージアム」という概念を活用しつつ、西伊豆町の夕陽の一層のブランド化と、協働でのまちづくりを進めて行く予定である。

一方、町内の各事業者も「夕陽のまちづくり」に合わせて、夕陽を資源と して活用した商品開発を進めている。夕陽をモチーフにした「夕陽せんべい」や「夕陽のど飴」に始まり、中には創業120年以上を誇る老舗鰹節店が伝統的な製法を活かした自社開発の「鰹の身」「鰹のハラモ(鰹のトロにあたる部分)」「鰹の子(卵巣)」の燻製3点を、夕陽にかけて「サンセット」として販売を開始するなどしている。また、農業者の中には、真赤な果肉が夕陽をイメージさせる「夕陽メロン」の試験栽培にも着手し、今後のブランド化が試みられている所である。また、前述の「ガラス文化の里作り事業」において町内に移住したガラス作家が一つ一つ手作りで作った「夕陽のかも風鈴」や「夕陽グラス」、「夕陽ジョッキ」も、当町の夕陽と海のコントラストを絶妙な色加減で表現しており、好評を博している。

以上のように、町を挙げての夕陽ブランド化の機運が盛り上がっているところであるが、何より、多くの町民が自らのブログやホームページ内に「今日の夕陽コーナー」を設け、毎日の夕陽の写真を掲載するなど、純粋に「この夕陽を他の人にも観て欲しい」という思いの醸成ができつつあり、夕陽を通したふるさと西伊豆の再発見が実現してきている。

ここにおいて西伊豆の夕陽は、観光などの産業面における資源という意味のみならず、協働と町内一体化のシンボルとなり、西伊豆の文化・伝統を浮かび上がらせる存在となっているのである。

「更なる夕陽ブランド化」と「夕陽のまちづくり」のために

お土産の写真
町内業者が夕陽を「資源」と捉え、造り上げた商品はお土産としても好評。

協働でつくる「夕陽のまちづくり」に向けて本格的に動き出した当町であるが、今後解決すべき課題は多い。最も大きなものの1つが少子高齢化と過疎化の進展により地域に漂っている閉塞感と、総合的な意味での地区の活力の低下である。これは当町に限った問題ではないと考えるが、現状町内各事業者において後継者不足が叫ばれており、また地元自治会や町内会など、身の回りの生活を維持するために不可欠なコミュニティの維持にも一部で支障が出始めている状況である。今後、当町が「夕陽のまちづくり」と町民福祉の実現を持続可能な形で実現していくためには文字通り町内一丸となって協働でまちづくりを行っていく必要があるが、幸い現在夕陽のまちづくりを進行する過程で、地区のために「何かをしたい」という声が上がり始めている。今後は町民主体のまちづくり組織である「まちづくり協議会」の組織化とその本格稼動の実現を図り、協議会の場において、「夕陽のブランド化」も含めた地区活力創出と総合的なまちづくりの実現を図っていきたいと考え、今後のまちづくりの過程で地区のリーダーとなる人材の掘り起こしと、更なるまちづくりの輪の広がりを期待しているところである。

明日への希望を夕陽に託し、夕陽とともに輝く「"ふるさと"」と言いたくなる夕陽のまち西伊豆」実現のための取組はこれからが本番である。