2678号(2009年5月11日) 町長 下村 正直
いごっそうアクアスロンEKIDEN大会では選手と地域住民との交流も広がっている。
黒潮町(くろしおちょう)は、高知県の西南部に位置し、県都高知市からは約100km西にある町で、太平洋に向かい長く広がる地形を成しています。平成18年3月に、旧大方町(おおがたちょう)と旧佐賀町(さがちょう)が合併し、総面積188.46平方kmの町が誕生しました。
町名の由来は、地域が太古の時代から受けてきた「黒潮の恵み」そのものです。
平成17年国勢調査による人口は、13,437人であり、高齢化率は32.2%で、都道府県別全国第3位の高知県平均をさらに6.3ポイント上回る高齢化先進地域です。
産業別就業者の状況は、第一次産業従事者が28.9%、第二次産業が18.7%、第三次産業が52.4%となっており、高知県平均に比べても第一次産業の構成比が高く、第二次産業及び第三次産業の構成比が低くなっています。
気候は南国特有の温暖多雨で年間平均気温16~17度と農業環境には比較的恵まれており、旧大方町では、早くから施設園芸や花卉、黒砂糖やラッキョウなどの特産品の栽培が盛んに行われるとともに、観光面ではホエールウォッチングの町としても知られてきました。
もうひとつ、黒潮の恵みで忘れてはならないのが波による恩恵です。ひと 時も休むことなく砂浜に打ち寄せる黒潮は、サーフィンの絶好のポイントとして広く知られ、関西や中四国からシーズンを問わず訪れるサーファーは、年々その数を増しています。
カツオのぼりで子どもの成長を願う
「私達の町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です。」建物がなくても、長さ4キロメートルの砂浜、目の前に広がる太平洋、背後に続く松原など、地域住民が大切にしてきた自然そのままを、頭の中で美術館にすることで新しい価値観を創造するという考え方は、黒潮町で生まれた「千年に耐えられるコンセプト」とも評されています。この考え方は、人と自然のつきあい方を求めてきた20年間の取り組みの中で、本町における「まちづくりの理念」として定着してきています。
取り組みのひとつは、砂浜をステージにした「Tシャツ・アート展」で、全国から募集したオリジナルデザインをプリントした、コットン生地のTシャツをさながら洗濯物のようにはためかすもので、ゴールデンウィークの風物詩となっています。
開催の前後含めて10日間の10名ほどのボランティアの皆さんは、自費参加にもかかわらず、全国から多数の応募があり、その選抜に苦慮するというありさまです。廃校を利用した宿泊施設での滞在期間中、もてなす地域の人びととのふれあいが増幅し全国に広がっています。その他、渚を素足で走る文字どおりの「大方シーサイドはだしマラソン全国大会」や松林の中にキルトを展示する「潮風のキルト展」、「らっきょうの花見」なども毎年開催しています。
また、名勝入野松原として国の指定を受けたこの一帯は、「土佐西南大規模公園」として、昭和47年に都市計画決定がなされた都市公園でもあり、高知県の管理の下、体育館やテニスコート、陸上競技場、サッカーグランド、パークゴルフコースなどさまざまなスポーツ施設が整備され、多くの大会が開かれることで、交流人口の拡大に寄与するとともに、地域の学生や多くの愛好家に親しまれています。
鹿島神社大祭では少年達が鼓踊りを披露。
一方、旧佐賀町では、カツオの一本釣りとシメジやエリンギなどの菌茸栽培、天日塩造りが盛んです。
特に、日本一の漁獲高を誇る「カツオ一本釣り船団」を有し、高知県内漁獲高の53.8%のカツオが水揚げされる 旧佐賀町では、地域産業の歴史から創設された「黒潮一番地」を拠点としたカツオ文化を伝承する活動により、地域個性を飛躍的に高め、黒潮町をカツオの町として定着させ、地域産業の振興に大きな成果をもたらしてきました。 カツオの「藁焼きタタキ」が特産品として全国的にも有名になり、カツオのタタキ造り体験は、関東・関西の修学旅行生の入り込み客を中心に、年間3,000人を突破し、今後もさらに増えることが予想されています。
藁焼きタタキは全国的に有名な特産品
しかしながら、空港から車で2時間30分ほどかかり、交通の便が悪く、時間的・距離的にたいへん大きなハンディを持つ地域であるために企業誘致などは大変困難な状況です。
地域経済全体をみると、少子・高齢化による人口減少や、経済の地域間格差に加え、基幹産業である農業・漁業は、昨今の農水産物輸入の自由化や、原油高騰などの影響をまともに受けて疲弊し、地域内の事業所数並びに従業者数は減少し続けています。本町の農業における施設園芸と近海沿岸の漁業形態は、生産、操業コストにおける燃油の割合が、全国平均よりはるかに高く、原油価格の動向には敏感にならざるを得ません。
そのため、昨年の原油価格高騰に際しては、本町一次産業存亡の危機を感じ、「原油価格高騰対策本部」を立ち上げ、燃油の価格補填をするなど、農業漁業に対する支援措置を講じました。
平成19年6月に実施した住民意向調査の中では、「今後、町が最も力を入れるべき施策は何か」という設問に対して、10代から50代のいずれの年齢階層でも最も多かった回答は「雇用の場の創出」でした。このことからも、地域の深刻な雇用状況が浮き彫りになっています。
豪快な一本釣りで高知県内漁獲高の53.8%を水揚げ。
そのような中、平成20年6月に策定された、第一次黒潮町総合振興計画では、『今、黒潮町のまちづくりにとって大切なことは、これまで2つの町で育まれてきた、まちづくりに関する理念や地域個性のエキスを再構築するとともに、「人が元気、自然が元気、地域が元気」な黒潮町の将来像を描きながら、住民と行政が協働して、暮らしやすくて、豊かさと賑わいのある「ふるさと黒潮町」を築き上げることである。』と宣言し、そのシンボルプロジェクトに「黒潮印」の商品開発として「黒潮町のさ・し・す・せ・そ計画」を掲げています。
天日塩はミネラルが豊富。
この計画は、社会とコミュニケーションしやすいタイトルと黒潮町が自然の中に持っている最もベーシックな素材を切り口にして、町内に68事業所512人が働いている製造業を中心に、地域資源の高付加価値化を目指す計画であり、そこから観光振興も含めた広がりを目指すものです。
新しく誕生した黒潮町の知名度はまだまだ低いのですが、海流「黒潮」は誰でも知っています。その「黒潮」のネームバリューと、南国の海・里・山でとれる、良質で豊富な第一次産業の生産物を活かして、これから10年の間に黒潮町特産品ブランド「黒潮印」の商品を確立するつもりです。
黒砂糖は明治以来の伝統技術で炊きあげる
「さ・し・す・せ・そ」は和食の基本で、「さとう・しお・す・しょうゆ・みそ」のことであり、黒潮町は自然環境の中にこの全てを持っています。
地元では、20年以上前から全工程を太陽熱と風力 のみで自然結晶させた、天日塩造りが行われています。ウマミがあり、まろやかな天日塩は、ミネラルが豊富で、本物志向を求める人々のニーズに応えてきました。
また、この地域では江戸時代から黒砂糖が造られていた歴史があり、現在も加工の伝統技術を継承しながら明治時代の製法にこだわり、薪を使って炊き上げています。この黒砂糖は、最近は和菓子を中心に製菓業者からも注目されており、現在は、地域に適した品種の試験栽培にも取り組んでいます。加えて、大方精糖生産組合と県内企業の連携により黒糖酒が開発され、平成20年には「高知県産サトウキビを活用したサトウキビ酢の商品開発及び販路開拓」が、経済産業省の農商工等連携事業に認定されたことから、さらなる発展が期待されています。
本計画は、安全で質の高い基本調味料と組み合わせた地域資源の高付加価値化を図り、地域の製造業・卸売業・直販店・宿泊業などの連携事業を展開し、それぞれの分野での活性化を図っていくのが狙いです。
現在は、地域製造者自らの商品基準である「さ・し・す・せ・そ商品認証基準」も検討されていますが、その中味は、(a)化学調味料を使っていない(b)遺伝子組み換え原材料を使用していない(c)卵は産地を明記する(d)天日塩100%使用(e)黒砂糖100%使用(f)原材料は可能な限り高知西南地域産等が基準の柱になる予定です。
黒砂糖を使った土産物も豊富
さとう・しお・す・しょうゆ・みそだけでなく、「安全・クオリティ・オーガニック・ベーシック」などのキーワードをもとに、「黒潮印」の製品を生産するプロジェクトを推進することも大切であろうと考えています。
一本一本のカツオを、竿で釣り上げる一本釣り漁は、カツオの高品質を保つばかりでなく、資源を枯渇させない自然にやさしい漁法であり、その特性を最大限に顕彰するとともに、カツオに含まれる食品機能(抗疲労効果のあるアンセリンなどが多く含まれている)を科学的に分析し、いわゆるエビデンスを裏付けるとともに、有効な各種認証も検討する中で、巻き網漁で獲れたカツオと差別化した、一本釣りカツオのブランド化を目指したいと思っています。
また、「日もどりカツオ」などの、あまり知られていない漁師町の味を、黒潮町の「さ・し・す・せ・そ」と合わせて提供するサービスを官民協働の取り組みにより整備し、「カツオ食うなら黒潮町!」というカツオ漁師町そのものをブランド化するプロジェクトを推進していきたいと思っています。