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北海道羅臼町/「魚の城下町らうす」をめざして町民みんなで取り組む知床の自然を生かしたまちづくり

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年2月23日
北海道羅臼町の写真

北海道羅臼町

2670号(2009年2月23日)  総務企画財政課


はじめに

羅臼町は、北海道の東部・知床半島の東側に位置し、知床最高峰である羅臼岳をはじめとする知床連山を背に、根室海峡を挟み我が国固有の領土である北方領土・国後島を最短で25キロメートルの距離に望むことができます。

東西約8キロメートル、南北約64キロメートル、面積は397.87平方キロメートルであり、町の約95パーセントが森林で占められています。海岸線まで知床連山が迫り平地が少なく、集落は海岸沿いに形成されており、人口は6,210人(平成20年12月末現在)ですが減少傾向が続いています。

町の大部分が知床国立公園に指定されているとともに、平成17年には次の世代に引き継ぐべき人類共通の財産として、当町を含む知床地域がユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の世界自然遺産に登録されるなど、世界に誇る自然環境を有しています。

羅臼岳の風景写真
羅臼湖三の沼に映る羅臼岳

気象は海洋の影響を受け寒暖の差が少なく、月別の平均気温(平成19年)を見ますと、1月が最も低くマイナス3.8℃、8月が最も高く19℃となっています。また、年間降水量(平成19年)は1,311ミリメートルであり、北海道内の他の地域と比べ雨の多い地域となっています。さらに、当町の冬・豊かな海を特徴づけるのがオホーツク海の流氷であり、毎年1月下旬頃には前面に広がる根室海峡を白く埋め尽くします。

基幹産業は漁業で、サケ、ホッケ、スケトウダラ、イカ、コンブなど豊富な魚種、水揚げ量を誇っています。

また、世界自然遺産「知床」の豊かな自然を求め、全国から多くの観光客が訪れているなど、観光は漁業とともに地域経済を支える産業として大きな期待が寄せられています。

世界自然遺産「知床」に抱かれて

平成17年、当町を含む知床地域がユネスコ世界自然遺産に登録されました。知床は昭和39年に国立公園の指定を受けていましたが、当町をはじめとした関係者による世界自然遺産登録に向けた運動の結果、知床の豊かな自然が人類共通の財産として次の世代に引き継ぐべきものであると認められたものです。

知床の主な特徴として、

  • 知床は世界で最も低緯度の流氷域であり、豊かな海が育まれていること。こうした海の生態系と豊かな森が育む陸上生態系が相互に関係しあい、栄養の循環・命の輪を形成していること。
  • 知床はシマフクロウ、オジロワシ、シレトコスミレなどの希少な動植物が分布していること、また、ヒグマ、エゾシカ、トド、アザラシなどの大型哺乳類も高密度で生息していることなど様々な生物を支えていること。
  • 「知床世界自然遺産地域科学委員会」「知床国立公園利用適正化検討会議」などが設置され、遺産地域管理計画を立案していることなど、世界自然遺産としてふさわしい保護管理を行うことができること。

アザラシの写真
流氷の上に横たわるアザラシ

これらのことが評価され、日本で3例目の世界自然遺産登録地域となったものです。

こうした知床の自然は当町に様々な恵みを与えてくれています。8年連続水揚げ量日本一を誇る秋サケをはじめとして、ホッケ、スケトウダラ、マス、イカ、ウニ、コンブなど、1年を通して様々な魚介類が水揚げされています。まさに「魚の城下町」と呼ぶにふさわしい豊富な魚種を堪能することができます。

併せて、これらの魚を追い求めて、トド、アザラシ、クジラ、イルカ、シャチなどの海獣類、またオオワシ、オジロワシなどの鳥類が集まってきます。

エゾシカの写真
羅臼川河川敷で草を食べるエゾシカ

また、陸に目を向けると、日本百名山の一つである羅臼岳をはじめとする知床連山が知床半島中央部を知床岬まで馬の背のように貫き、その原始のままの豊かな自然はヒグマ、エゾシカ、キタキツネ、シマフクロウなど数多くの野生生物を育んでおり、こうした知床の自然を求め全国各地から多くの方々が訪れ、世界自然遺産の雄大さ、貴重さを体験されています。

このような世界自然遺産という財産を利用していくことは当町にとって必要なことですが、その一方で人類にとって貴重な財産であるこの知床を、いつまでも大切に守り、次の世代に確実に引き継いでいかなければなりません。これまで多くの先人が培ってきた知床の自然を守る取組を引き続き実践するとともに、「知床の豊かな恵みと美しさを全人類のために後世に伝える」という使命のために、更に一層の努力を積み重ねていくことが求められています。

協働のまちづくりの推進

当町はこうした知床の豊かな自然に抱かれ、漁業を基幹産業として発展してきましたが、漁業資源の減少、低迷する地域経済、少子高齢化の進行、人口の流出、危機的状況にある町財政など、取り巻く環境は厳しさを増しています。

その一方で、自然環境の保全意識や健康志向の高まり、また、食の安全・安心志向の高まりなど、世界自然遺産のまち「羅臼町」の特性や資源をこれまで以上に生かすことのできる状況でもあります。

こうした中、平成20年4月に今後8年間の当町の施策の方向性を示す「羅臼町第6期総合計画」がスタートしました。本計画では、まちづくりの目標として「人・まち・自然いきいき知床新時代~魚の城下町らうす~」を掲げ、様々な施策を進めることとしております。その理念として、

子どもからお年寄りまで町民のだれもが郷土を愛し、誇り、老後を安心して生きがいを持って暮らし、町内外の人たちとふれあい、楽しく生き生きと活動している。

まち

快適・安全で魅力的な生活環境や町並みが整備され、漁業、酪農業、商工業、観光業などの活動が活発で活力に満ちている。

自然

世界自然遺産に登録された雄大な自然と美しい景観に包まれた環境と共生し、自然の恵みを満喫できる輝きに満ちている。

魚の城下町

地域特性を十分に活かし、新たな知床新時代を切り拓くため、羅臼町の基本財産であり地域の存0立基盤ともいえる「魚」とともに生きる「人」と「まち」と「自然」が融合する理想郷となる。

としております。

「魚の城下町らうす」のシンボルマークの画像
「魚の城下町らうす」のシンボルマーク

また、これまで行政は町民からの要望に応えるため、各種事業やサービスを実施してきましたが、地域を取り巻く環境が厳しさを増す中、要望のすべてに応える「あれも、これも」のサービス提供から、「あれか、これか」という選択と集中のサービス提供に変わっていく必要があります。

こうしたことから、本計画では町民一人一人が担うことのできる役割をしっかりと認識して、地域の抱える課題の解決に向け様々な方々と連携し町内一体となって取組を進める「協働のまちづくり」を基本方針として掲げています。

この基本方針に基づき、めざす姿の実現に向け、本計画では次のような新しいまちづくりに向けた施策の基本方向を示しています。

世界自然遺産「知床」の自然と共生する活力ある産業のまちづくり

漁業基盤の整備、漁業を中心とした産業の活性化、自然環境保全・適正な利用の推進、北方領土対策の推進などに取り組みます。

心豊かで生きがいに満ちたまちづくり

廃棄物対策、防災・交通安全など安全・安心な暮らし対策、健全な町財政運営などに取り組みます。

ぬくもり溢れる福祉のまちづくり

高齢者・障がい者福祉の充実、地域医療の充実などに取り組みます。

心を育み、明日へとはばたくまちづくり

生涯学習の推進、学校教育の充実、芸術・文化の振興、男女共同参画の推進などに取り組みます。この中も特に、地域医療の推進、漁業振興、海洋深層水事業、世界自然遺産事業、中学校改築事業を重点施策と位置づけ、取組を積極的に展開することとしています。

知床の豊かな恵みとともに

総合計画のスタートにあわせ、「魚の城下町」をめざして様々な動きが町内で始まっています。

知床の自然は数多くの恵みをもたら してくれていますが、特に海の恵みは特別で、「魚の城下町」の名に恥じない質・量の魚介類が水揚げされています。こうした知床の海の恵みを単に水産物として流通させるばかりでなく、地域の資源として活用した様々な取組が進められています。

羅臼漁港全天候型埠頭の利用

羅臼漁港全天候型埠頭の写真
羅臼漁港全天候型埠頭

「魚の城下町らうす」のシンボルともいえる施設である羅臼漁港。羅臼漁港は漁業拠点、流通拠点、観光拠点、防災拠点など多様な拠点機能を持ち、当町の産業や町民の生活を支えている施設です。

平成19年には全天候型埠頭が完成し、雨や雪といった天候に左右されないなど、安全で効率的な作業を行うことができるようになり、生産性の向上が図られました。また、衛生管理型市場の利用や羅臼漁港の沖合い水深350メートル地点から取水された低温・清浄な「海洋深層水」を利用した鮮度保持、洗浄など水揚げから出荷まで衛生管理を徹底した安全・安心な魚介類の生産が行われています。

こうした漁業拠点、流通拠点としての機能の充実を進めるばかりでなく、知床・羅臼の海の味覚を堪能することができる収穫祭「らうす漁火まつり」の開催会場としての利用や秋サケの水揚げ・市場見学の実施といった観光拠点としての利用が進められているなど、多様な利用形態を持った施設として更なる有効利用が期待されています。

海洋深層水の利用

海洋深層水は水深200メートル以深の海水で、太陽光が届かないため1年を通して低温で安定し、細菌などが極端に少なく清浄であり、窒素・リン・ケイ酸などが多く含まれ栄養性に富んでいます。

当町は早くから海洋深層水の利用に取り組み、平成11年に北海道では初の海洋深層水の取水施設を町内の漁港に設置しました。翌年には町内に設立された民間企業による海洋深層水の利用が始まり、さらに平成19年には羅臼漁港内に本格的な取水施設である「知床らうす深層水給水施設」が完成し、漁業への利用ばかりでなく町民・企業による利用も進んでいます。 現在、魚介類の鮮度保持、洗浄など漁業における利用、飲料用への加工、酒・菓子類など様々な食品加工における利用など、多方面にわたる利用が進められています。海洋深層水はその特性から、様々な産業、製品への利用が可能であり、当町の産業の活性化や新たな産業の育成など地域経済への波及効果は大きいものがあることから、今後の利用の拡大が期待されています。

知床の自然を利用した体験観光の推進

秋サケ水揚げ風景の写真
秋サケ水揚げ風景

世界自然遺産「知床」に抱かれた当町には毎年多くの方々が観光で訪れていますが、経済・社会情勢の変化などに伴い、その数は減少傾向にあります。こうした状況の中、単に風景を見る、施設を見るといった通過型の観光から、知床の自然の豊かさ、貴重さ、すばらしさをじっくりと見て、体験していただくといった体験型・滞在型観光への転換を進めています。

ウニ採掘体験の様子の写真
ウニ採掘体験

こうした取組として、「魚の城下町」の特色を生かし、当町の基幹産業である漁業を利用した体験観光や海獣類・鳥類の見学といった観光メニューを実施しています。ウニ採捕体験・サケ水揚げ見学・スケトウダラ漁見学を行い、併せて味わっていただく。また、マッコウクジラ、シャチ、イルカ、アザラシなど数多くの海獣類、オオワシ、オジロワシをはじめとした鳥類など、他では決して見ること、体験することができない野生の生き物たちを見ていただき、知床・羅臼の魅力を体全体でしっかりと体験していただくといったものです。

これらの取組の実施に当たっては、知床羅臼町観光協会、羅臼漁業協同組合、羅臼町商工会などの産業団体、町民、企業、行政が連携し、積極的に活動を行っています。特に観光振興の先導役でもある知床羅臼町観光協会は、全国公募により選ばれ就任した事務局長を先頭に積極的な事業展開を行っています。

最後に-魚の城下町をめざして-

世界自然遺産として登録された知床の自然は地域の財産であるばかりでなく、人類共通の財産でもあり、我々には次の世代にしっかりと引き継いでいく責務があります。

その一方で、町民が夢と誇りを持ち、いきいきと輝いてこの地で暮らし続けていくためにも、知床の豊かな自然の恵みを利用していく必要があります。

当町は近年の気候の変化、漁業資源の量や種類の変化など、最も知床の自然の変化を感じ、影響を受ける地域でもあり、環境問題については切実な地域問題としてとらえています。知床の自然を守り続けていくことは漁業が基幹産業である当町の存立基盤を守ることでもあり、今後の地域振興において、たいへん重要なことであります。

地方自治を取り巻く厳しい状況は今後も続くものと思われます。しかし、当町には世界自然遺産「知床」の世界に誇る雄大な自然、多くの恵みをもたらしてくれる海、そして先人たちが苦難を重ね切り拓き、築き上げてきたこの「羅臼町」の営み・文化があります。こうしたかけがえのない地域の資源を守るとともに生かすことにより、「人・まち・自然」がいきいきと輝き、知床の豊かな恵みとともに生きる「魚の城下町らうす」を町民みんなでめざしていきます。