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京都府伊根町/小さくても「輝く住民の笑顔あふれるまち」をめざして

印刷用ページを表示する 掲載日:2009年1月19日
京都府伊根町の写真

京都府伊根町

2665号(2009年1月19日)  教育委員会次長 梅崎 良


はじめに

京都府伊根町は、京都府の北部・丹後半島の北端に位置し、東から北は日本海、若狭湾に面しており、古くから漁業で栄えた人口2,718人の町です。大きさは東西10.6km、南北12.0km、総面積61.99平方キロで町の74%を森林が占めています。平成5年春のNHK連続テレビ小説「ええにょぼ」で伊根浦が舞台となり、一躍有名になりました。

「日本で最も美しい村」連合に加盟

平成20年10月7日(火)、徳島県上勝町で特定非営利活動法人「日本で最も美しい村」連合(※)の第4回総会が開催され、伊根町の加盟が承認されました。

この「日本で最も美しい村」連合は、加盟町村のほか、ポテトチップスなどでお馴染みのカルビーや博報堂などの企業サポーター、個人会員などから成り立っており、サポーターの技術や知恵の提供を受け、観光などを軸に地域振興を図るものです。

連合はどの村でも加盟できるものではなく、人口規模と地域資源を2つ以上有することなどの条件をクリアすること、資格審査を受け、100点中70点以上を獲得しなければなりません。また、加盟後も資格を失った場合は退会になるなど、質を重視した基準になっています。

NPO法人「日本で最も美しい村」連合ロゴマークの画像

加盟町村・地域は、北海道美瑛町、北海道赤井川村、山形県大蔵村、岐阜県白川村、長野県大鹿村、徳島県上勝町、熊本県南小国町、宮崎県高原町、長野県木町開田高原、北海道標津町、岐阜県下呂市馬瀬に加え、伊根町、北海道鶴居村、北海道京極町、山形県飯豊町、長野県中川村、長野県南木曽町、高知県馬路村の7町村が新たに加盟しました。伊根町は、「伊根浦舟屋群」の景観と、300年余りの伝統を持つ「亀島区祭礼行事」の2つの地域資源で申請し、その素晴らしさが認められ承認されました。

※NPO法人「日本で最も美しい村」連合
事務局:美瑛町役場政策調整室内
Tel:0166-92-4330
「日本で最も美しい村」連合のページ

地域資源は伊根浦舟屋群と亀島区祭礼行事

伊根浦は、天然の立地条件に恵まれており、古くから漁業で栄えてきました。江戸時代には伊根湾内での鰤刺網や、村が一体となった鯨漁などが盛んに行われていました。

伊根浦舟屋群は、この湾内の漁業と、干満差のない静穏な天然の良港であること、海と山の間の狭小な土地という諸条件が相まって、海と暮らす先人達の知恵により全国にも類を見ない独特の景観を作りあげたといえます。 舟屋は、2階に居室、1階は船のガレージとして使われており、現在その数は230軒、将棋の駒を並べたような家並みが、の穏やかな伊根湾を取り囲むようにして軒を連ねております。

伊根湾に沿った狭い平地に集落が形成されている様子の写真
伊根湾に沿った狭い平地に集落が形成されている

平成17年7月に全国で漁村として初めて国の「重要伝統的建造物群保存地区」の選定を受け、全国でも類をみない歴史的風致である伊根浦舟屋群を守り育てていこうとする活動が進められています。

亀島区祭礼行事は、三百年余りの伝統を持つ海の祇園祭とも呼ばれる夏の風物詩です。祭は毎年7月27日、28日に開催され、海上での安全や大漁を祈り、五穀豊穣への願いを託すものです。太刀振り、棒振り、神楽、祭礼船での宮入、夜宮が奉納されます。祭には例祭と大祭があり、船屋台が登場するのは大祭のときです。船屋台の起こりは、文化文政の頃、伊根浦において鰤や鯨の豊漁に恵まれ、その収益金を用い船屋台を建造したものと伝えられています。

祭りのクライマックスは「海上渡御(かいじょうとぎょ)」で、船屋台が、神楽船、祭礼船に先導され屋台囃子も賑やかに八坂・八幡神社へ向けて伊根湾を巡航する様は圧巻で、「海の祇園祭」と呼ばれる所以です。

重要伝統的建造物群保存地区の選定に向けて

舟屋群の価値が意識され始めたのは戦後のことです。海から見ると将棋の駒型のように建てられた建物であること、また連続して建ち並び海に浮かんでいるように見える様子などが珍しく、写真家や画家が伊根浦を訪れたと聞きます。

伊根祭り海上渡御(大祭)の様子の写真
伊根祭り海上渡御(大祭)

平成4年に地元の伊根漁業協同組合が「舟屋保全に関する意向」のアンケート調査を実施したところ、結果は、8割を超えて「保存するべき」との考えがあることがわかりました。近年には漁業形態の変化にともない、漁船の大型化、FRP船の導入が進んでいたため、平成5年頃から舟屋機能の低下が現れ始めました。また、昭和5年から約10年の歳月を要した府道伊根港線の拡幅工事が原因と思われる地盤沈下や道路の侵食が問題とされはじめました。地盤沈下は舟屋群にとって大きな問題であり、建物を保全するために前面または一部をコンクリートで塞ぐなどの対策が取られはじめたため、舟屋の形態に変化が現れ、住民またマスコミから保存対策を望む声があがりました。

伊根浦伝統的建造物群保存地区範囲図の画像
伊根浦伝統的建造物群保存地区範囲図

町議会でもこの問題は取り上げられ平成5年12月に役場内に舟屋群等保存検討委員会が発足され、保存の必要性、保存手法、整備の基本方針など検討し、平成6年3月に「伊根町舟屋景観維持保全計画」が策定されました。

平成9年3月に住民組織の伊根浦舟屋群等保存研究会が立ち上げられました。平成13年9月に研究の成果として、「伊根浦舟屋群等(伊根浦の町並み)の保存と整備と活用についての考え方」をまとめ、国の重要伝統的建造物群保存地区制度を活用し保存に取り組むようにとの報告を受けました。これを受け伝統的建造物群保存対策調査に取り組み、平成15年12月には、伊根町伝統的建造物群保存地区保存条例の制定をおこない保存地区の決定等に向け動き出しました。

舟屋の一階は船のガレージ、2階は居室の構造をした建物の写真
舟屋の一階は船のガレージ、2階は居室

平成17年3月には、海を含めた保存地区の範囲、保存計画を策定し、「伊根町伊根浦伝統的建造物群保存地区」(面積:約310.2)が誕生し、国へ重要伝統的建造物群保存地区(以下、「重伝建地区」)選定の申出をおこない、同年の7月22日に選定を受けました。

当初、保存対象建物は舟屋であり、舟屋を保存していくとの方針で伝統的建造物群保存対策調査に取り組んでいましたが、裏山、主屋、道路なども調査していく中で、主屋と舟屋、土蔵の建物配置などまた歴史や町並みの変遷、海との関りなど多方面から考察した結果、保存地区の範囲は図のように伊根湾を含め裏山の稜線までとすることとなりました。伊根浦全体を伝統的建造物群保存地区に指定することに向け、住民に十分説明し、理解を求めることになりました。

住民の理解を求めて

伊根浦には8つの自治会があり、住民説明会はこれら地区ごとに行い、多い地区では3回実施をしました。重伝建地区に選定されると補助事業での建物修理には補助金が交付されますが、一定のルールも設けられます。瓦や外壁材の指定、取り壊しの制限などです。これらのことを住民の皆さんが理解し協力してもらえるか大きな不安がありました。説明会を開催しても参加者は少なく、住民の関心が希薄であると感じつつも動き出した舟屋群の保存、後戻りはできませんでした。

船屋台 神楽山の写真
船屋台 神楽山(立石区・平成17年重伝建選定祝)

説明内容は、舟屋以外の主屋、土蔵、裏山、前面の海などを含めた保存範囲、一定のルール、住民の同意、現状変更の届出、許可が必要などの説明でありました。

「自分は舟屋が必要でも子どもは不要と思う可能性もある。この場合壊したり間口を塞いだりすることも有り得る」「許可が出るまで時間がどれくらいかかるのか」「舟屋は自分の所有建物なのに勝手に修理できないのか」など多くの意見、質問をいただきました。京都府の協力も得て、説明し理解を得ていきました。

保存会の設立について

国への重伝建地区選定申出には、住民の保存への熱意、意識の高揚等も求められていました。平成9年に「伊根浦舟屋群等保存研究会」が設立され活動をしていましたが、研究会を発展的解散とし名称を『保存会』と改め、活動を継続していくよう協議をしましたが、「研究は今後も継続していく必要がある。解散することはできない」と反対の意見が多くあり、保存会への移行は見送られ、現在も研究会は存続しております。

しかし、国への重伝建地区選定申出には保存会は必要であり、ゼロからの保存会設立に向けた取り組みがスタートしました。設立発起人会を立ち上げ、伊根浦8地区の区長さんの協力も得て平成15年3月に設立総会を開催し会員数200名を超える伊根浦舟屋群 等保存会が誕生しました。

伊根湾の美化清掃、花いっぱい運動などに取り組んでいます。

今後のまちづくりに向けて

昭和20年以前と以後の建物に区分され、以前の建物は特定物件と呼ばれ文化財として扱われ、修理基準も厳しくなりますが、修理時には8割の補助金が交付されます。以後の建物にも6割の補助金は交付されます。選定から今年度までこの補助率を遵守し事業を行っています。 この保存事業は、毎年6件から7件の修理を行っていますが、保存範囲が広範囲であるため、最近では、住民や関係団体から「事業の成果が見えない」「重伝建地区に選定されたのに何も変わっていない」「一定の地域を重点に修理した方が成果が見えるのではないか」などの意見が出てきています。しかし、『伊根浦は一つ』との思いで取り組んだこの事業であり、今しばらくの間、現状の取り組みを継続していきたいと考えています。他の重伝建地区も成果が見えるのには相当年数を要しています。10年後、伊根浦も必ず成果が現れると信じ、景観保存に取り組んでいます。

切妻屋根が海に向かっている舟屋群の家並みの写真
切妻屋根が海に向かっている舟屋群の家並み

しかし、当面の課題である観光事業の推進は何らかの方策が必要であると感じています。トイレ、駐車場などの受け入れ体制の整備を行い、活気のある伊根浦になるように保存会住民と協力して取り組んでいかなければなりません。

亀島区祭礼行事には、地区内に4基の船屋台がありますが、少子高齢化による人手不足、資金面などの問題があり、平成5年を最後に4基の出祭はなく、平成7年、平成10年、重伝建地区選定を記念して平成17年に、それぞれ1基が出祭したに留まっています。4基の船屋台は地区内4箇所に収蔵されていますが、山の中腹に解体して収蔵されているため、部材の出し入れに大きな労力を要するなど地域は諸問題を抱えており、容易に出祭することが困難な状況にあります。しかし、お年寄りから子ども、町内外からも4基の出祭を望む声は多く、このような状況を踏まえ、出祭しやすい環境をつくるため海辺に収納庫を整備する構想が上がり、現在組んでいるところです。船屋台の出祭は観光面、地域の活性化などにつながる大きな要因の一つです。

伊根町の舟屋は全国また世界にとって希少な文化財であると自負しています。時代の流れや生活・環境の変化に流されることなく、舟屋群等の町並み景観がより一層魅力的なものとなり継承されていくことを願っています。

今回加盟することができたNPO法人「日本で最も美しい村」連合加盟を、町、住民の精神的支柱にし、伊根浦の素晴らしい景観の保存に一層の力を注ぐとともに、環境美化に努め、全国に名だたる加盟町村と互いに切磋琢磨していきたいと考えています。