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青森県尾上町/農家蔵保存利活用とグリーン・ツーリズム

印刷用ページを表示する 掲載日:2005年8月1日
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青森県尾上町

2529号(2005年8月1日) NPO法人尾上町蔵保存利活用促進会 常務理事 佐藤正彦


農村景観百選・蔵・庭園・生け垣の多い町

尾上町は青森県南津軽郡の中心に位置し、西には岩木山、東には八甲田山系に囲まれ、人口約10,500人、面積18.87(東西9.6km、南北3.7km)で、米とリンゴ生産を主体とする農業の町です。また、ゴザ・ほうき・植木などの行商が昔から盛んで植木販売業・造園業者が多く、蔵と庭園・生け垣が多い町です。他市町村にない農村景観が農村アメニティコンクール優秀賞、農村景観百選、かおり風景百選指定の町として全国的にも高く評価されています。その農村景観を形成しているのが蔵・庭園・生け垣です。特に蔵は334棟が現存し、94%が農家所有の蔵です。最も蔵の多い金屋地区(世帯数271)には78棟の蔵があり、密集しています。

蔵はステータス

年代別には文久2年(1862年)143年前に建造された蔵が一番古く、明治、大正時代と続きます。終戦後(昭和20年)、農地改革で農家は小作人から自作農となり、蔵を建てることを目標に皆農家は頑張ってきたと聞きます。蔵を建造する費用は当時で米百俵(1俵1,430円)と言われています。蔵に夢を託し、自作農となった農家は先を競うように蔵を建て、昭和20~30年代に建造ブームが起り、これだけの蔵の数となっています。

蔵の構造は、農産物の貯蔵施設と文庫蔵併用で、米とリンゴの貯蔵は1階、2階は大事なものを保管する場所として活用されてきました。リンゴは旧正月頃まで貯蔵しながら、農家がリンゴ仲買人と価格交渉、売ることに自ら努力し、農業経営基盤確立を図ってきました。一様に農家は潤い、蔵の存在が嫁婿を貰う判断基準の一つとされ、蔵は商人も農家も繁栄の象徴でステータスでした。

設立の動機

農業の近代化に伴い、農産物は収穫と同時に農協の貯蔵施設搬入という農業形態の変化で、蔵は貯蔵施設の役目を終え物置蔵となり、次第に所有者も地域住民もステータスという価値観が薄れてきました。当町で生まれ育ち、暮らしていると、素晴しい蔵・蔵並み、農村景観も見慣れた風景でしかない。更には蔵を建てさせる人、建てる職人もいない今日、現在ある蔵は少なくなっても多くなることはない。後世に残すべき建造物・文化遺産と位置づけし、「蔵保存と利活用の促進、グリーン・ツーリズム事業推進基盤の確立と事業の定着」を目的に、町内外賛同者26人で14年1月27日に当会を設立し、15年8月NPO法人の認証を受け、法人組織として活動しています。

活動内容と成果

活動内容は、①蔵の合同調査(弘前大学農学生命科学部)②蔵マップ発刊③会報蔵ジャーナル発刊④蔵フォーラムの開催⑤蔵並み図画コンクールの開催⑥蔵・農家庭園ウォッチングの開催⑦修学旅行農作業体験ファームスティ受入⑧ぶどう・花・花木・リンゴ・イチゴ収穫体験の開催⑨古農具収集及び展示⑩地域案内人育成講座の開催(大学生・高校生)⑪蔵の文化財指定登録調査及び申請(八戸工業大学工学部)⑫蔵保存と利活用への提言⑬遊休農地利活用の提言及び活用事業の開催(サツマイモ・枝豆栽培体験)⑭民宿営業許可登録推進及び登録⑮商工会共催事業「蔵巡り・庭園巡り」など積極的に活動を展開してきました。

その活動が各社新聞掲載・NHK〔東北各駅停車〕「青森トゥディニュース」・青森テレビ・RABテレビ放映などメディアに其の都度大きく取り上げられました。更には県営事業垂柳・猿賀地区田園空間整備事業蔵利活用拠点づくり採択(20年度着工予定)・全国農業高校教科書「グリーンライフ」掲載・15年度「ふるさとづくり賞」振興奨励賞・第3回「村の伝統文化顕彰」農村振興局長賞・16年度あおもり活性化大賞奨励賞・16年度地域づくり総務大臣賞受賞など大きな成果に繋がっています。

当会の活動が短期間に大きな成果に繋がった要因は、農家蔵という素材のよさと弘前大学農学生命科学部・地域環境科学科八戸工業大学工学・部・柏木農業高校地元小学校など教育機関や県内のNPO法人・G・T推進団体・県行政など多方面にわたる連携が大きい。

G・T事業の取り組み

他市町村にないこの地域資源の活用がグリーン・ツーリズム(G・T)事業展開の必須条件です。

蔵保存利活用とG・T事業定着で、農業・農村活性化を目的に、8年から地元農協で農作業体験や栽培体験・収穫体験のプログラムを作り、消費者及び次世代を担う子供らを対象に、G・T事業を県内農協の先駆けとして取組んできました。食農教育と交流事業として定着しましたが、修学旅行農作業体験ファームスティ受入は皆無でした。

長野県飯田市や秋田県田沢湖町など先進地の取り組みに羨望し、農家蔵保存と利活用促進、G・T事業展開でオンリーワンの地域づくりと農業農村活性化に夢を膨らませ、14年1月、前述の目的を指標に当会を設立しましたが、農協という組織体での事業構築に理解を得られず同年3月退職。事務所を増築し、拙宅で自分のライフワークとしてスタートしました。

農業は、農産物価格低迷で再生産価格すら維持できない状況下、農家は借金の増大・農業意欲の減退・放棄農地の増加など元気のない農村において、農家の新たな所得確保対策、感動とやる意欲を充てえられる事業は、G・T事業しかないとの確信の下、受入農家の啓蒙とG・T推進ネットワーク体制の確立・弘前大学農学生命科学部など教育機関連携、県行政・むつ小川原地域産業振興財団のサポートが事業展開に大きな推進力となりました。

15年12月、当会に(株)東日観光船橋支店の受入れ依頼が、弘前地域でG・T事業推進団体で構成する「広域連携・津軽ほっとスティネットワーク」設立要因となり、15年2月に設立しました。霊峰津軽富士と言われる岩木山のふところ岩木町、津軽平野の中心地りんご生産日本一・桜の名所弘前市、いで湯の里平賀町、農家蔵・農村景観百選指定の尾上町、青森空港・東北高速道路インターが隣接の浪岡地域等、米とリンゴが基幹産業で津軽の穀倉地帯として栄え、気候風土、四季折々の自然景観に恵まれた素晴しい環境で、16年5月27・28日、千葉県船橋市立二宮中学校3年生238人の修学旅行農作業・農村生活体験ファームスティを受入れし、心の教育・食農教育をカリキュラムとした「感動のファームスティ」、津軽グリーン・ツーリズムを実現しました。

この実績が今年5月26・27日同校3年244人ファームスティ受入に繋がり、18年度受入依頼が3校確定するなど広域面においてもG・T事業推進基盤の確立と事業定着拡充に大きく貢献することができました。当会においても、6月3・4・9・10日、小樽市立中学校2校3年生180人を受入し、確実に定着と拡充繋がっていますが、まだ序奏に過ぎないと思っています。

G・Tは交流・食農教育

14年6月、当会受入農家のトレーニングを兼ね、弘前大学生農作業体験ファームスティを実施しました。学生のアンケート調査には、「農業のマイナスイメージを崩し、農業は楽しいと言うことを知ってもらうにはファームスティは大変良いプロジェクトであり、短期間で素晴しい経験と新しいことを学ぶことができた」「充実し、楽しく、そして厳しく、心に残るものになり改めて農業のあり方、食料の大切さ・農村のすばらしさを学ぶ機会となった」と感想を述べ、参加した学生は農業のあり方、食料の大切さを学び、受入農家は「農業も捨てたもんじゃない、楽しく農業経営できる」ことを学生から学び、今も自分の子供のように交流し、ファームスティが縁で学生の親とも交流しています。

同大学地域環境学科の谷口建教授の協力で、二宮中学校生徒に受入前後のアンケート調査を実施し、「農業と食料の大切さ」:ファームスティ前(44%)後(67%)で23%も上昇。農作業体験の内容:「大変良かった・良かった」も含め90.3%、「農業はつまらない」:15.3%でありましたが1.4%に激減。「人があたたかい」:64%が89%に25%も上昇しています。ある生徒は、「今回のファームスティで、日本の農業の大切さを改めて理解できた。農家の人の心の温かさを感じることができた。帰りたくなかった。もっと居たかった。」と感想を記述しています。まさに心の教育・食農教育の実証です。

また、今年2月8日、千葉県船橋市で青森県主催の修学旅行農作業体験ファームスティ誘致プレゼンテーションが行われ、同校芝塚雄一教諭から生徒たちが高校進学の面接試験時、3年間で一番の思い出を問われた時に、大半の生徒が津軽での同ファームスティの、受入農家との思い出を語ったと報告がありました。生徒たちの心に、「第2のふるさと」としてしっかりと根付き、田舎の家族との素晴しい思い出と感動を共有し、ファームスティ後も前述の同大学生同様、交流が続いています。農業と農村がフィールドのG・Tは、「心の教育」「食農教育」「都市と農村共生交流」事業であることを強くしています。

当会受入農家6人で始めた同大学生農作業体験ファームスティが受入農家組織の確立に繋がり、学生の感動が受入農家の意識を変え、当会24人の仲間ができました。感動が人を変え、地域を変えます。同ネットワークも含め75人の受入農家組織体制が確立し、津軽G・T「農業・農村丸ごと感動体験」が大きな潮流となろうとしています。

今後の取り組み

弘前大学農学生命科学部地域環境科学科・八戸工業大学工学部・柏木農業高校・NPO法人・G・T推進団体・県行政・観光会社などと連携を強化しながら、

  1. 「農家蔵の町」ブランド確立:①蔵利活用の拠点づくり促進②蔵の補修・蔵並みの環境整備促進③蔵文化財指定登録調査推進及び申請。
  2. 「G・Tの町」ブランド確立:「安全・安心・無事故で感動のファームスティ」をモットーに、修学旅行農作業・農村生活体験ファームスティの定着と拡充のため、①津軽グリーン・ツーリズム冊子等宣伝普及資材の製作②情報発信の強化③誘客活動の実施④受入れ学校・観光会社との交流⑤受入農家啓蒙と民宿営業許可登録の推進⑥グリーン・ツーリズムインストラクター・コーディネーター育成スクール受講推進など当会並びにネットワークの基本指針に定め、地域に密着した活動を展開し、「農家蔵の町・グリーン・ツーリズムの町」ブランド確立、農村文化の漂うまちづくり実現を当会の社会的ミッションとして活動していきます。