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京都府網野町/住民と行政の協働による鳴き砂保護

印刷用ページを表示する 掲載日:2004年1月19日
琴引浜鳴き砂文化館の写真

琴引浜鳴き砂文化館


京都府網野町

2465号(2004年1月19日)  網野町企画振興課 三浦 到


網野町の概況

網野町は、京都府の最北端の丹後半島に位置する人口約16,000人の町です。町内の21kmの海岸線は、砂浜と岩礁が交互に連なり、四季折々の美しい景観に包まれて人々が暮らしています。

古くから、着物素材である絹織物・丹後ちりめんの里ととして発展してきましたが、長引く不況や国民の着物離れ等により、ちりめんの生産量も最盛期の八分の一にまで落込み、住民生活に深刻な影を落としています。

このちりめん産業に代わるものとして発展してきたのが観光産業で、現在、町内には約90軒の旅館、民宿があり、年間50万人前後の入込客でにぎわいます。日本海の新鮮な海の幸や温泉を中心にした観光ですが、美しく変化に富んだ海岸線も魅力ある観光資源であり、その保全は観光面からも重要視されているところです。

本町には白砂青松の砂浜海岸が3ヶ所ありますが、その内の一つが鳴き砂の浜として有名な琴引浜です。全長1,800mの浜すべてが鳴き砂であり、規模の大きさと鳴き砂の質の良さに加えて、コンクリート構造物のない風光明媚な自然海岸であることから、日本一の鳴き砂の浜であるといわれています。また、町文化財に指定されているほか「日本の白砂青松百選」「残したい日本の音風景百選」「日本の渚百選」にも選定されています。

鳴き砂(鳴り砂ともいう)とは、足をするように歩いたり、手で砂をはくようにするとクックッと心地よい音で鳴く砂のことです。砂の主成分は石英ですが、汚れるとたちまち鳴かなくなるという非常に繊細な性質を持っています。

本町では、この貴重な鳴き砂を保護していくために、住民と行政が手を携えて様々な取組が続けられています。

白砂青松の琴引浜の写真

白砂青松の琴引浜

自然の神秘「鳴き砂」を守る

琴引浜の鳴き砂を保護する住民団体として、昭和62年に設立された「琴引浜の鳴り砂を守る会」(以下、守る会という。)があり、十数年の長きにわたり様々な活動を続けています。設立当初は、浜の清掃、鳴き砂保護チラシの配布や横断幕の設置などの活動が中心でしたが、現在では、浜の清掃は地元観光協会が日常的に行うようになりました。守る会は、重油や大量のゴミが漂着した時に対応するだけでよい体制がつくられています。近年は、自然環境保護のシンポジウムの開催、「全国鳴き砂(鳴り砂)サミット」への参加、浜への流入河川の水質調査、漂着物展の開催、浜の後背地の植林など様々な活動に取組んでいます。

この守る会の活動と呼応するように、網野町ではこれまでに、町文化財の指定、琴引浜観光資源調査の実施、「鳴き砂の保護と活用を考えるシンポジウム」の開催、鳴き砂保護対策の策定、啓発看板の設置や啓発冊子の作成などに取組んできました。中でも、10年前に全国の鳴き砂をもつ市町村に呼びかけ、本町において「全国鳴き砂サミット」を開催したことが契機となって、「全国鳴き砂(鳴り砂)ネットワーク」(現在、15市町で構成)が組織され、保護活動の輪が全国に広がっていきました。このサミットはネットワークの主催により、毎年、場所を変えて続けられています。

サミットも10年も続けていますと中だるみになったりマンネリに陥ったりするものですが、鳴き砂サミットは年々盛況になっていく感があります。10年前のサミットの参加団体は圧倒的に行政が多かったのですが、10年の間に各地に住民による保護団体が設立され、現在では住民団体が主体となったサミットになっています。一年に一度、保護活動の内容を交流することによりお互いが刺激しあい、次の活動の糧にするという相乗効果が生まれてきています。

今年度も7月26、27日に石川県門前町において「地域活動が支える鳴き砂の保全」というテーマで10回目のサミットが行われ、北海道から九州まで市町から約60名が集まりました。中でも、室蘭市の「イタンキ浜鳴り砂を守る会」の皆さんは、女性6名、男性5名の計11名がフェリーを利用して参加されましたが、2日間のサミットに5泊6日の日程で参加されるという熱意には頭が下がる思いでした。このように、鳴き砂サミットは住民の鳴き砂保護に対する熱い想いで支えられていることから、活気に満ちたものとなっています。

全国初、条例による禁煙ビーチ

鳴き砂の大敵は、ホコリや泥、油などですが、地元中学生が作成した標語「鳴き砂も 灰と混ざれば ただの砂」のとおり、タバコの灰が砂に混ざるとたちまち鳴かなくなってしまいます。

長年、琴引浜で漂着物調査をしている京都市の東山高校地学部の生徒たちが、平成7年の夏の終わりに、波打ち際に打ち寄せられているタバコの吸い殻を調査した結果、1万本近い数の吸い殻を確認しました。琴引浜では夏になると海水浴客でいっぱいになるのですが、海水浴客が吸うタバコの灰が鳴き砂をダメにしていることがはっきりしたわけです。

さらに平成10年には、京都府が行っている丹後オープンカレッジの取組として、立命館大学の学生諸君が海水浴客を対象に、琴引浜を禁煙にすることの賛否を問うアンケート調査を行った結果、禁煙にすることに賛成という人が85%を占めました。

これらの調査は守る会の人たちに大きな勇気を与え、11年から地元独自で琴引浜を禁煙ビーチにする取組を始めました。禁煙を呼びかける看板を設置したり、チラシを配布したり、放送で呼びかける等の取組を行った結果、ポイ捨てされた吸い殻は例年の半分以下に減るという大きな成果をあげました。しかし、禁煙の協力をお願いするという強制力のない取組であったため、完全禁煙というわけにはいかず、ポケット灰皿を配布するなど中途半端な取組になってしまいました。

この取組を行政として支援するために制定したのが、「網野町美しいふるさとづくり条例」(平成13年7月施行)です。

この条例に基づき、琴引浜を特別保護区域に指定し、砂浜での喫煙、花火、キャンプ、炊飯等を禁止するとともに、守る会を環境保護団体に認定し、監視や指導する権限を与えました。 

守る会は、夏季の海水浴シーズンの土、日を中心に午前と午後の2回、会員が浜辺をパトロールし、喫煙者に対する指導、啓発を行っています。条例では、違反者には付近の清掃や環境保全講習の受講を命令するとしていますが、パトロール員の呼掛けに喫煙者も素直に応じていただいており、現在まで命令に至った事例は1件もありません。

また、以前は海水浴シーズンに入るとすぐに鳴かなくなっていた砂も、鳴く期間や範囲が広がってきたという成果も上がってきております。パトロールする会員からは、条例ができて指導しやすくなったとの声も聞かれるほか、家族連れのお客さんの中には、タバコを吸おうとしている父親に向かって子どもが「禁煙だよ」と注意するようなほほえましい風景も見られるようになり喜んでいます。

守る会会員による海岸パトロールの写真

守る会会員による海岸パトロール

砂も文化の仲間入り

住民の長年の願いであった鳴き砂保護の拠点施設として、一昨年10月に「琴引浜鳴き砂文化館」が完成、オープンしました。

この施設は、住民と行政による長年の鳴き砂保護活動が評価され、(財)日本ナショナルトラストが建設し、内部の展示や周辺整備を網野町が受け持って整備されたものです。鳴き砂体験コーナーや日本、世界の鳴き砂の展示など鳴き砂をテーマにした施設としては、おそらく世界でも初めての施設です。展示内容の指導をされた鳴き砂研究の第一人者である三輪茂雄同志社大学名誉教授は、これで砂も文化の仲間入りができたとコメントされています。

この整備に関しても守る会が大きな力を発揮しました。この文化館は手作り感いっぱいの施設で、大変好評をいただいていますが、水中でも鳴く砂の体験装置など様々な鳴き砂体験装置の作成は会員が制作したものですし、パネル展示用の竹製の衝立づくりでは竹の伐採から組み立てまで大勢の会員が協力して作り上げました。

手作りの展示施設(鳴き砂文化会館)の写真1
手作りの展示施設(鳴き砂文化会館)の写真2
手作りの展示施設(鳴き砂文化会館)

今後の展開

網野町美しいふるさとづくり条例では、特別保護区域の指定のほか、空き缶等のゴミの散乱やふん害を特に防止する必要がある地域を重点区域に指定することにしており、今年度、4ヶ所を指定したところです。これも行政からの押付けではなく、地域住民からの自発的な申請に基づき指定を行ったもので、今後の住民による自主的な活動に期待しているところです。

これからのまちづくりのあり方として、住民と行政の協働が不可欠であるとよくいわれます。特に、地方自治体の財政基盤の脆弱化が進む中では、行政サービスのあり方や地域住民中心のまちづくりのあり方が問われています。

鳴き砂保護における住民活動を行政が支援し成果を上げているという形態は、今後の住民と行政の協働のありかたを示す好例であり、一つのモデルになりうるものと考えています。

本町は近隣の5町とともに合併し、今年4月1日に新たに「京丹後市」として発足しますが、合併するとますます地域住民の活動の重要性が増してくるものと思います。本町の鳴き砂保護活動のような事例が広がっていくような新市となることを願うとともに、それを支える施策の立案が、行政の責務ではないかと考えています。